「ホロコーストの記憶のデジタル化」を早くから理解していたアウシュビッツから生還した98歳死去
4つの強制収容所を転々
2022年1月にホロコースト生存者でイギリス在住のフレダ・ウィネマン氏が98歳で亡くなられた。ウィネマン氏は1923年にフランスで生まれたユダヤ人でアウシュビッツ絶滅収容所、ドイツのベルゲン・ベルゼン強制収容所(アンネ・フランクが死亡した収容所)、チェコのテレジエンシュタット強制収容所など4カ所の収容所を転々とさせられたが、辛うじて生き延びることができた。そして1950年にイギリスに移住。イギリスに移住してからは、ホロコースト時代の経験や記憶をずっと語り続けてきた有名な方だ。
ずっとイギリスの小学校や中学校、博物館などでホロコースト時代の経験や記憶を戦後から語ってきたウィネマン氏は多くのホロコースト生存者の中でも早くからテレビやデジタルでもホロコーストの経験を語ってきた。
南カリフォルニア大学(USC)のショア財団ではホロコースト時代の生存者の証言のデジタル化やメディア化などの取組みを行っている。映画「シンドラーのリスト」の映画監督スティーブン・スピルバーグが寄付して1994年に創設された。当時はまだ動画の録画やデジタル化は容易ではなかった。ビデオで撮影してテープで保存していたが、その頃からホロコーストの経験を語っていた。学校や博物館で語るのでは、目の前にいる人たちにしか話ができないが、ビデオに撮影しておけば何回でも誰でもいつでも視聴できて、自分の話を聞いてくれるということを理解していた。
26年前の72歳当時の貴重なウィネマン氏の証言は現在はデジタル化されて、YouTubeで全世界に公開されている。いずれホロコースト生存者が全員いなくなり、ホロコーストの経験や記憶を語り継ぐ人がいなくなることを誰よりも理解していた。自分が死んだ後でもホロコースト時代の経験や記憶が語り継がれるために、インターネットもまだほとんど普及していなかった頃に、ショア財団の動画撮影でホロコースト時代の経験や記憶を語っていた。
▼フレダ・ウィネマン氏が72歳の時に撮影された動画
「ホロコーストを実際に経験したフレダ・ウィネマンから聞いたと伝えてください」
戦後75年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約24万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っている。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。
現在、世界中の多くのホロコースト博物館、大学、ユダヤ機関がホロコースト生存者らの証言をデジタル化して後世に伝えようとしている。ホロコーストの当時の記憶と経験を自ら証言できる生存者らがいなくなると、「ホロコーストはなかった」という"ホロコースト否定論"が世界中に蔓延することによって「ホロコーストはなかった」という虚構がいつの間にか事実になってしまいかねない。いわゆる歴史修正主義だ。そのようなことをホロコースト博物館やユダヤ機関は懸念して、ホロコースト生存者が元気なうちに1つでも多くの経験や記憶を語ってもらいデジタル化している。だがホロコーストを経験した生存者は当時の悲惨な体験を子供たちや世間の人に語りたがらない人の方が多い。
ウィネマン氏は以前に「私はホロコーストの経験や記憶を伝える時に学生や若い人に言います。将来、あなた方が誰かから"誰にその話を聞いたの?ホロコーストなんて本当にあったの?"と聞かれたら、ホロコーストを実際に経験したフレダ・ウィネマンから聞いたと伝えてください。私が実際に経験したことです」と語っていた。
▼2015年のホロコースト国際記念日でのウィネマン氏とジョンソン英国首相