ホロコースト時代にドイツのユダヤ人家族を救ったブラジル領事館職員のドラマ 80年後に歴史家が疑問
ホロコースト時代にドイツでユダヤ人5家族を救ったブラジルの領事館職員
第二次世界大戦の時に、ナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。ホロコースト時代にドイツのハンブルグにあったブラジル領事館でユダヤ人家族を救っていたブラジル人領事館職員のエラシー・ドゥ・カラヴァルホ氏。
カラヴァルホ氏は領事館勤務時に、ユダヤ人5家族にビザを発行してブラジルに逃亡させることで、ユダヤ人家族らはホロコーストの迫害から逃れることができた。戦後の1982年にはユダヤ人を救った功績で「諸国民の中の正義の人」も授与されている。
カラヴァルホ氏がホロコースト時代のドイツのハンブルグでユダヤ人を救っていた話がブラジルでテレビドラマ「Passports to Freedom」(自由へのパスポート)になって放映されていた。
カラヴァルホ氏のハンブルグでのユダヤ人救出をテーマにしたドラマだが、ブラジルの歴史家2人がカラヴァルホ氏の話は誇張されすぎている、史実と違うのではないかと疑問を「Jews in Brazil: History and Historiography」という本の中であげた。歴史家らによると、当時ビザを正式に発行できるのは領事のみで、領事館職員だったカラヴァルホ氏にはビザ発行の権限はなかったのではないかと主張している。カラヴァルホ氏は2011年に逝去しているので真実は不明だ。
「Passports to Freedom」
美化・誇張されて表現されるホロコーストをテーマにした映画やドラマ
ホロコーストを題材にした映画やドラマはほぼ毎年制作されている。今でも欧米では多くの人に観られているテーマで、多くの賞にノミネートもしている。日本では馴染みのないテーマなので収益にならないことや、残虐なシーンも多いことから配信されない映画やドラマも多い。たしかに見ていて気持ちよいものではない。
ホロコースト映画は史実を元にしたドキュメンタリーやノンフィクションなども多い。実在の人物でユダヤ人を工場で雇って結果としてユダヤ人を救ったシンドラー氏の話を元に1994年に公開された『シンドラーのリスト』やユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマン氏の体験を元に2002年に公開された『戦場のピアニスト』などが有名だ。実話を元にしているドラマ『Passports to Freedom』もこちらだ。
一方で、フィクションで明らかに「作り話」といった内容のホロコーストを題材にしたドラマや映画も多い。1997年に公開された『ライフ・イズ・ビューティフル』や2008年に公開された『縞模様のパジャマの少年』などはホロコースト時代の収容所が舞台になっているが、明らかにフィクションであることがわかり、実話ではない。
だが実話を元にしたホロコースト映画やドラマでも、ホロコーストの歴史や登場人物の一部を美化したり、誇張されたりして放送されることも多い。特にホロコーストは600万人以上のユダヤ人が犠牲になっていることから、ナチスは完全な悪で、ユダヤ人は善で可哀想な被害者という構図で表現されることがほとんどで、ユダヤ人の中にもナチスに協力した人や収容所でカポと呼ばれる囚人の管理を行っていた裏切り者も多くいたが、そのような面が描かれることは少ない。
例えばアンネ・フランクの「アンネの日記」もよく映画や舞台化されるが、「アンネの日記」を見ているとオランダ人はユダヤ人を隠れ家に匿って良い人のように描かれているが、オランダ人でもナチスに協力してユダヤ人差別と迫害に手を貸していた人もたくさんいた。ホロコーストという600万人ものユダヤ人らが犠牲になった歴史的事実をテーマにしているので、映画やドラマがハッピーエンドのストーリーになることはほとんどないため、実話を元にした映画やドラマでも美化や誇張をしたり、一部のポジティブな側面しか描かなかったりすることはよくある。
世界中の多くの人にとってホロコーストは本や映画、ドラマの世界であり、当時の様子を再現してイメージ形成をしているのは映画やドラマである。その映画やドラマがノンフィクションかフィクションかに関係なく、人々は映像とストーリーの中からホロコーストの記憶を印象付けることになる。