南カリフォルニア大学 現代の難民とホロコースト時代のユダヤ難民の少女が夢の中でシンクロするアニメ公開
キンダートランスポートでウィーンからロンドンに避難した14歳のユダヤ人少女リサ
映画「シンドラーのリスト」の映画監督スティーブン・スピルバーグが寄付して創設された南カリフォルニア大学(USC)のショア財団ではホロコースト時代の生存者の証言のデジタル化やメディア化などの取組みを行っている。南カリフォルニア大学では「Dimensions in Testimony」プロジェクトと呼ばれるホログラムでの生存者とのインタラクティブな対話の技術開発にも積極的だ。これはホロコースト生存者がホログラムや3Dで目の前に現れて、AIによってインタラクティブにホロコースト時代の体験について質問に答える仕組みで、あたかも、目の前にホロコーストの生存者がいるように、質問に対してリアルタイムに答えてくれる。
その南カリフォルニア大学ショア財団では2021年12月にショートアニメ動画「
Music Dreams」を公開した。アニメでは現代に生きる難民の少年が夢の中でホロコースト時代に生きるユダヤ人の少女リサ・ユラ氏と会う。リサはオーストリアのウィーンに住むユダヤ人で、ホロコーストで迫害されていたためにウィーンでは生活できなくなって、1938年に家族と離れてロンドンに移住する。ユダヤ人の子供たちだけが、両親と離れてイギリスに移住した、いわゆる「キンダートランスポート」の子供の1人だった。約1万人のユダヤ人の子供だけがイギリスに移住した。
リサはイギリスに難民として避難することができたために戦後まで生き延びることができた。戦争が終わった時には14歳だったリサは戦前からピアノを習っており、ロンドンに避難してからもピアノを弾いて家族との平和な日々を思い出していた。アニメの中でもピアノを披露している。83年前にウィーンからロンドンに難民として避難したユダヤ人の少女リサと現代に生きる難民の少年が夢の中でシンクロするアニメだ。
リサの物語は「Hold On To Your Music: The Inspiring True Story of the Children Of Willesden Lane」という本でも出版されており、イギリスをはじめ欧米のホロコースト教育でも教材として活用されている。
南カリフォルニア大学ショア財団では、生存者らのホログラムによる証言のデジタル化だけでなく、このようなアニメや映像制作でもホロコーストの記憶や経験を伝えようとしている。ホロコースト生存者らの高齢化が年々進んでいき、体力と記憶力も低下してきている。近い将来にホロコースト生存者もゼロになる。そうなるとホロコースト生存者らの動画やホログラムでの再生はできなくなる。今後はこのようなアニメや動画制作によってホロコーストの記憶を伝えていくことがメインになっていくことだろう。
▼「Music Dreams」