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米国イェール大学「ホロコースト証言アーカイブ」ウィーゼンタール研究機関と連携してウィーンに拠点開設

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

4400本以上のデジタル化されたホロコースト生存者の証言

第2次大戦時にナチスドイツがユダヤ人を迫害し、約600万人以上のユダヤ人、ロマ、政治犯などを殺害したホロコースト。ホロコーストの生存者も年々高齢化が進んできている。ホロコースト当時のことを記憶している人たちで、記憶がある世代は85歳以上になっている。彼らが元気で記憶があるうちに、歴史的遺産として少しでも多くの証言を集めようとしている。

米国のイェール大学の図書館には「Fortunoff Video Archive for Holocaust Testimonies」(フォーターンオフ・ビデオ・アーカイブ)というホロコースト時代の証言動画を集めたアーカイブがある。最近ではデジタル技術が発展し、誰でも簡単に動画を撮影してYouTubeにアップできるようになったが、イェール大学のアーカイブは1978年に設立。イェール大学では1979年からホロコースト犠牲者の証言を動画で録画し、アーカイブとして保管してきた。1980年代は、ホロコースト時代にすでに大人であったため記憶も鮮明で、ナチスの迫害や収容所の中心にいた人たちの貴重な経験を語った動画を収録することができた。それらの貴重な動画も保管されている。1981年には183の証言動画があったが、現在では約4400以上の証言動画があり、証言時間は10000時間以上におよぶ。

そして2021年12月にイェール大学のフォーターンオフ・ビデオ・アーカイブはオーストリアのウィーンにあるウィーゼンタール・ホロコースト研究機関と協力して欧州に事務所を設置した。フォーターンオフ・ビデオ・アーカイブのステファン・ナーロン氏は「ホロコースト生存者の証言のアーカイブは、ホロコーストの記憶と歴史を後世に伝えるために世界中の方々の草の根的な運動から始まりました。現在では証言がデジタル化されています。世界中の研究者や教育用にデジタル化されたホロコースト生存者の証言を活用してもらいたいです」とコメントしている。

ウィーンのウィーゼンタール・ホロコースト研究機関は反ユダヤ主義やホロコーストに関する研究機関。欧米では現在でも反ユダヤ主義が根深い。ホロコースト生存者のサイモン・ウィーゼンタール氏は1977年に米国でウィーゼンタール・センターも設立している。1908年にオーストリアで生まれたユダヤ人だったウィーゼンタール氏はユダヤ系というだけの理由でナチスドイツの差別・迫害の対象にされた。そして13の収容所を転々と移送され、何度も死にかけたが、どんな時でも人間として尊厳を保ち続けていた。戦後もホロコーストで犠牲となって死んでいった人々の尊厳と正義を取り戻すために、余生を費やしていた。東京オリンピックの関係者が、過去のホロコーストをパロディにしていた件でもサイモン・ウィーゼンタール・センターは抗議文を発表して怒りを露わにしていた。

サイモン・ウィーゼンタール氏
サイモン・ウィーゼンタール氏写真:ロイター/アフロ

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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