南カリフォルニア大学ショア財団 ホロコースト生存者とホログラムで対話
映画監督スピルバーグ氏が寄付して創設
南カリフォルニア大学(USC)で学生や家族、卒業生などが学内をまわる「Trojan Family Weekend」というファミリーデーが2021年10月に開催された。その中で、南カリフォルニア大学にあるショア財団では、ホロコースト生存者と会話ができるホログラムを展示して大学関係者が実際に、当時の経験をホログラムのホロコースト生存者と対話していた。
第二次世界大戦時にナチスが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。現在でも欧米やイスラエルなどではホロコーストの悲劇を繰り返さないため、またホロコースト教育を行うためにホロコースト博物館が多く設置されている。ショア財団は、ホロコーストを題材にした映画『シンドラーのリスト』の映画監督でユダヤ人のスティーブン・スピルバーグが寄付して1994年に創設された。ショア財団ではホロコースト時代の生存者の証言のデジタル化やメディア化などの取組みを行っている。戦後70年以上が経過し、ホロコースト生存者の高齢化が進み、当時の記憶も薄れていき、体力的にも証言を取るのが難しくなってきており、これまでにも多くの証言を集めて来たが、今後あと10年が勝負である。
ホログラムで永遠にホロコーストを語り継いでいく
また南カリフォルニア大学ショア財団ではホログラムでの生存者とのインタラクティブな対話の技術開発にも積極的で、同大学ではこの取組を「Dimensions in Testimony」プロジェクトと呼んでいる。ホロコースト生存者がホログラムや3Dで目の前に現れて、AIによってインタラクティブにホロコースト時代の体験について質問に答える仕組みだ。あたかも、目の前にホロコーストの生存者がいるように、質問に対してリアルタイムに答えらえれる。「ホロコースト時代をどう過ごしていたの?」などといった学生や見学者からの質問にホログラム化された生存者がリアルタイムに回答してくれる。ホロコーストの生存者らが高齢化しても、亡くなってからでも、ホログラムで登場して未来の世代にホロコーストを語り継いでいくことができる。
ロサンゼルスにあるスタジオで18台のカメラであらゆる角度からホロコースト生存者らを撮影してホログラムは製作される。撮影も1週間以上で1000問以上の質問が繰り返される。そのためホロコーストの生存者の誰でもがホログラムで記憶をデジタル化することができるわけではなく、撮影にも相当な体力を要する。また製作コストも1人のホロコースト生存者を撮影して3Dとホログラムで表現するために250万ドル(約2億7000万円)かかる。それでも、ホロコースト経験者の記憶と体験を未来に語り継いでいくために、欧米のユダヤ人らは積極的にホロコーストの記憶のデジタル化を進めようとしている。
南カリフォルニア大学のファミリーデーの日にホログラムで登場したピンチャス・グッター氏はポーランドにあったマイダネク絶滅収容所の生存者。11歳でマイダネク絶滅収容所に収容され、両親と双子の姉妹は他の78,000人のユダヤ人、ポーランド人、ソ連人らとともに、そこで殺害された。
同氏は絶滅収容所をVR(仮想現実)で表現したショートフィルム「The Last Goodbye」に登場。85歳のグッター氏が、VR(仮想現実)で自身が収容されていた収容所を案内する。グッター氏の証言を元に16分にまとめられた短いフィルム。2016年7月から撮影が開始された。解放後、何回も収容所を訪問したが、これが最後の訪問になるだろうということでフィルムのタイトルは「The Last Goodbye」となった。