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オランダ アンネの映画ポスターに「ワクチン未接種の人お断り」のシール「ユダヤ人お断り」想起と炎上

佐藤仁学術研究員・著述家

アンネフランクの生活に例えられやすいコロナの政策

オランダでは現在、アンネフランクの映画が公開されている。オランダで初めてアンネフランクの映画を製作し、公開したことで人気がある。現在、オランダの街にその映画のポスターが貼られている。

そのオランダでアンネフランクの映画のポスターの上に、オランダ語で「ワクチン未接種の人はお断り」と書かれたシールが貼られており、ネットでも炎上している。

そしてオランダのアンネフランクの映画のポスターに貼られた「ワクチン未接種の人はお断り("Voor ongevaccineerden verboden")」のシールがナチスドイツが支配していた時に、映画館や公園、デパートなどに貼られた「ユダヤ人お断り("Für Juden verboten")」を想起させるということから、さらに炎上している。

第二次世界大戦の時に、ナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。アンネ・フランクはユダヤ人だったために、ナチスからの迫害を逃れてオランダのアムステルダムの隠れ家で約2年間、身を潜めて生活していたが、密告されて1945年にベルゲン・ベルゼン強制収容所で病気で死亡した。アンネが隠れ家生活で思いを綴った日記を戦後、ホロコーストから生き延びた父オットー・フランクが「アンネの日記」として出版し、現在でも世界中で多くの人に読まれている。アンネ・フランクはホロコーストを象徴するような人物で、欧米やイスラエルではホロコースト教育が行われることが多く、小学生の必読書にもなっている。

ホロコースト時代の「ユダヤ人お断り」

ナチスドイツ支配下の地域ではユダヤ人は公共的な場所に入ることが禁じられて、町のあらゆるところに「ユダヤ人お断り」のシールが貼られていた。ナチスドイツは西欧においては、支配した地域でもすぐにユダヤ人を殺害しなかった。まずは学校への通学禁止、公的職業の禁止、外出時間の制限、ラジオ、自転車の所有禁止、デパート立ち入り禁止、プール、公園、映画館などの立ち入り禁止といった日常生活の小さなことから差別していき、黄色い星の着用、家を追放されてゲットーへの収容、そしてゲットーから絶滅収容所へ移送し、最終的にはガス室で殺害していった。

新型コロナウィルスが世界規模で感染拡大しており、それに伴って世界中の都市で外出自粛やロックダウンなどの防止措置が講じられるようになり、自由に外出できなくなるようになると、そのような制限された環境を、ナチスドイツ時代にユダヤ人が差別・迫害されたホロコーストと比較されることがよくある。アメリカでもマスク着用がホロコースト時代のユダヤ人に例えられている。

特に、新型コロナ感染拡大防止のための外出自粛要請で自由に外出できない状況は、アンネ・フランクが隠れ家に身を潜めていた生活と比較されることが多い。ホロコースト生存者たちも、当時のユダヤ人の状況と現在の新型コロナウィルス感染拡大防止の対策での人々の生活では全く違うと積極的に訴えている。

欧米ではワクチン接種を希望している人も多いが、政府からワクチン接種を強制されること、レストランなどに入る際にワクチンパスポートの提示の義務化に反対している人も多い。ナチスドイツ時代にユダヤ人に強制的に着用させた黄色い星で、ユダヤ人を差別・迫害していたように、ワクチン接種を受けていない人に対して「ワクチンを接種していない」ことが外見からもわかるようにバッチをつけさせられることを懸念して、ホロコースト時代のユダヤ人が着用させられた黄色の星をつけたデモや抗議運動が多く行われている。

そして欧米では新型コロナウィルスのパンデミックの不自由な状況やマスク着用の義務化、ワクチン接種の強制をホロコーストに例えるたび、当時のユダヤ人の悲惨な境遇や生活とは異なると、「ホロコーストに例えることは犠牲になったユダヤ人に失礼だ」「迫害されていたユダヤ人とは状況が違う」などと言われていつもネットで炎上している。

(ツイッターより)
(ツイッターより)

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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