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米国の外科技術士「ワクチン接種の強要をホロコースト時代のユダヤ人に例えた動画を投稿」炎上そして解雇

佐藤仁学術研究員・著述家
(ジェシカ・レンジ氏のTikTokより)

収容所のユダヤ人の入れ墨をイメージしたワクチン接種の番号を腕に

米国ジョージア州コブのウェルスター・ヘルスケアシステム病院の外科技術士のジェシカ・レンジ氏は、病院(職場)からワクチン接種を強要されたことを、ホロコーストの強制収容所でのユダヤ人に例えて抗議した動画をTikTokにアップしてアピールしていた。同病院では10月までに全従業員にワクチン接種の完了を要請していた。

ナチスドイツのユダヤ人政策は「労働を通じた絶滅」だったので、ユダヤ人は強制収容所に到着すると、働けるか働けないかの「選別」がされた。働けないと判断された老人や子供はすぐにガス室に送られて殺害された。働けると判断されたものは、体中の体毛を剃られて、腕に囚人番号の入れ墨を入れられた。人間性の象徴である名前を失い、その瞬間から腕に入れられた入れ墨の番号で管理されるようになった。強制収容所に収容されていたホロコースト生存者たちは、戦後も入れ墨を見せたくない、見られたくないことから長袖を着て入れ墨を隠していた。

今回の動画では、技術士は自分のワクチン接種の番号を腕にサインペンのようなもので書いて、あたかも強制収容所の囚人の入れ墨のようなアピールをしていた。つまり、「ワクチンを接種したくないのに、ワクチン接種を強要されることは、ナチス時代の強制収容所に収容されたユダヤ人が囚人番号を入れ墨されて、ナチスに管理されてしまうことと同じ」だと主張していた。

このワクチン接種を強要されることをホロコースト時代のユダヤ人にたとえたTikTokの動画に「新型コロナウィルス感染防止のためのワクチン接種をホロコーストと比較するのはおかしい」「殺害されたユダヤ人に失礼だ」とネットが炎上していた。

ユダヤ団体も抗議「ホロコースト時代のユダヤ人の不安や悲しみと比較することはおかしい」

そして病院はこの動画をTikTokに投稿した技術士を解雇した。病院では「ジェシカ・レンジ氏はすでに病院の従業員ではありません。解雇しました。私たちの病院では、反ユダヤ主義は完全に否定しています。このような行為は絶対に許されません。私たちの病院は人間性、平等性を考慮して情熱と尊敬をもって業務に努めていきます。私たち病院の仕事は、全ての人たちの健康と福祉のために存在しています」とコメントしていた。

今回の動画に対して、アメリカ最大のユダヤ団体の名誉毀損防止同盟は「新型コロナウィルスのワクチン接種とナチスとホロコーストを結びつけるのは非常に攻撃的です。ナチスに命を奪われた600万人、残された家族に対して失礼極まりない、断じて許されない行為です。このような悲惨な歴史を繰り返すべきではありません。アメリカには現在でも、まだ反ユダヤ主義の風潮があります。断じて許されません。このようなパンデミックが続く中で、多くの人が不安になるでしょうが、ホロコースト時代のユダヤ人の不安や悲しみと比較することはおかしいことです」と正式に抗議していた。

ホロコーストに例えられやすい新型コロナウィルス対策

欧米では「ロックダウンで外出が制限されたり、マスクの着用を義務付けられたり、ワクチン接種を強要されたりといった、不自由な生活=ホロコースト時代のユダヤ人がゲットーに閉じ込められて迫害された不自由な生活」、「政府による強制的なロックダウンやマスク着用、ワクチン接種の強要=ナチスドイツの全体主義」というイメージを持つ人が多い。

そして欧米では新型コロナウィルスのパンデミックの不自由な状況やマスク着用、ワクチン接種の義務化をホロコーストに例えるたび、当時のユダヤ人の悲惨な境遇や生活とは異なると、「ホロコーストに例えることは犠牲になったユダヤ人に失礼だ」「迫害されていたユダヤ人とは状況が違う」などと言われていつもネットで炎上している。

(ジェシカ・レンジ氏のTikTokより)
(ジェシカ・レンジ氏のTikTokより)

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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