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インド 13歳少年がオンライン授業を受けるために携帯の電波を求めて丘から落下して死亡

佐藤仁学術研究員・著述家
再開されたインドの学校(写真:ロイター/アフロ)

コロナで変わった学習スタイル

世界規模での新型コロナウィルス感染拡大に伴うロックダウンや学校閉鎖も世界中の多くの国で行われている。日本でも新型コロナウィルス感染拡大によって2020年には多くの学校が休校になり、オンライン学習が導入された。小中学校は再開したが、大学では今でもオンライン学習が主流だ。日本だけでなく世界中で新型コロナウィルス感染拡大によって学校が閉鎖され、オンライン学習やリモート学習が導入されたが、特に途上国では自宅にネットの回線がない、パソコンだけでなく学習用のスマホやタブレットを所有していない、たとえスマホを所有していても長時間の授業を受けられるほどの通信費を払えない子供が多い。また携帯電話の電波が届かない地域に住んでいることも多い。

携帯の電波を求めて高台の丘に登り落下死

そして2021年8月にインドのオリッサ州のパンドラギュータ村の13歳の少年が、オンライン授業を受けようとして、携帯の電波が届く場所の高台の丘に行ったところ、その高台の丘から足を滑らせて落下して死亡してしまった。13歳の少年の家では携帯の電波が届いてないことから、少年はオンライン授業を受講するために、何度もその高台の丘に行っていたそうだ。

インドの現地メディアによると、少年の住む地域の55の村では携帯のネットワークが整備されていないので、スマホやタブレットを所有していても、接続できない。つまりその村に住んでいて、学校が閉鎖されてしまったら、自宅の中ではオンライン授業を受けることはできない。そのため少年は電波を求めて高台の丘に登ってオンライン授業を受けていた。

日本では全国のほぼどこでも携帯電話でインターネットに接続することが可能で、つながらないエリアがあれば携帯電話会社に申請すればネットワークを整備してくれることもある。だが、インドのような広大な国土では携帯電話がつながらない場所、ネットワークが整備されていない村や町はたくさんある。携帯電話会社もビジネスなので、貧しい人が多く住んでいる、いわゆる"儲からない地域"にはネットワークの整備を行わないこともよくある。

オンライン授業が受けられないのは日常

このように子供たちはパンデミックで学校が閉鎖されてしまうと、教育を受ける機会はゼロになってしまい、また家計を助けるために働かざるをえない。特に女子は学校に行かないで家計を助けるためだけでなく、家族の世話をするためにも働くことが多い。さらに様々な犯罪に巻き込まれる可能性もある。そして学校が再開されても、授業についていけなかったり、仕事をやめるわけにいかずに学校をやめてしまうことも多い。また、たとえスマホやタブレットなど機器や回線のデジタルツールが整備され、リモート学習が可能な環境になったとしても、家では家族が多くて、狭くて自分の部屋もなくてオンライン学習で授業を受けられない子供も多い。

さらに授業は学校で受けるものという思い込みがあり「家にいるなら働いて家計を助けろ」とリモート学習に対する理解を示さない保護者への対応も必要になってくる。日本では考えられないだろうが「女子が学校に行く必要はない」「女子に教育は必要ない」と本気で今でも思っている人が多い。そのためデジタルツールの整備が完了しても、家でリモート学習ができない現在の環境と保護者のリモート学習への理解を得ることへの対応が重要になってくる。

半年ぶりに再開されたインドの学校
半年ぶりに再開されたインドの学校写真:REX/アフロ

写真:REX/アフロ

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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