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Facebook「ホロコースト否定」が検索されたら誘導するサイト 12言語に拡大

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

世界ユダヤ人会議とユネスコが作った解説サイト

世界ユダヤ人会議(The World Jewish Congress:WJC)は国連教育科学文化機関(ユネスコ)と連携して2021年1月に、AboutHolocaust.orgというサイトを立ち上げた。名前の通り「ホロコーストについて」であり、ホロコーストの歴史やデジタル化されたホロコースト生存者の証言などをオンラインで公開している。

第二次世界大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。1945年1月27日にアウシュビッツ絶滅収容所がソ連軍に解放されたため、1月27日は国際ホロコースト記念日である。その国際ホロコースト記念日に世界ユダヤ人会議はFacebookと連携して、Facebookで「ホロコーストはなかった」「ユダヤ人はそんなに殺害されていない」「ガス室などなかった」といったホロコーストを否定するような検索がされた場合には、AboutHolocaust.orgが表示されて、同サイトに誘導してホロコーストについて学んでもらおうとしている。欧米や中東では今でも反ユダヤ主義が根強く、ホロコースト否定論も多い。近い将来、ホロコースト生存者らがいなくなってしまったら、本当にホロコーストはなかったというホロコースト否定主義が正しい歴史になってしまう、いわゆる歴史修正主義が広まってしまうことを多くのユダヤ人が懸念している。日本ではあまり馴染みのないテーマだが、数年前にホロコースト否定について取り上げた映画『否定と肯定』が公開されたので観たことがある人もいるだろう。

そして2021年7月には、AboutHolocaust.orgの現在の英語での表示からアラビア語、フランス語、ペルシャ語、ポーランド語、ロシア語、スペイン語、中国語、ドイツ語、ヘブライ語、ハンガリー語、ポルトガル語が追加されて合計12言語でコンテンツを表示できるようにして、ホロコーストの正しい歴史を伝えようとしている。日本語での表示はない。

根強い反ユダヤ主義とSNSでの拡散

Facebookは2020年10月にホロコースト否定に関する投稿を一切禁止し、発覚したらすぐに削除することを明らかにしていた。だが、世界的にもまだ根強い反ユダヤ主義でホロコースト否定や反ユダヤ主義に関するSNSへの投稿は多い。露骨にホロコースト否定や反ユダヤ主義に関する内容であれば、すぐに削除もできる。だが、そのようなわかりやすい投稿はすぐに削除されるので、隠語や仲間内でしかわからないような言葉、新しい表現などで投稿されることも多く、全てのホロコースト否定の投稿を削除することは容易ではない。例えば「あんなことはなかった」といった文脈からでしか推測できないような表現が多く、そのような投稿をSNSから削除していくことは至難の業である。

▼ホロコースト否定について取り上げた映画『否定と肯定』

▼Facebookでホロコースト否定を検索すると表示されて誘導されるページ

(Facebookより)
(Facebookより)

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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