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アメリカとドイツ ベルリンの記念碑でホロコーストの歴史と記憶を後世に伝えていく覚書に米独外相が署名

佐藤仁学術研究員・著述家
ブリンケン国務長官とハイコ・マース外相(写真:ロイター/アフロ)

ユダヤ系の米国務長官「私たちが伝えていくべきことや保存すべきことを思い出させてくれました」

ドイツを訪問していたアメリカのブリンケン国務長官はベルリンの「虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑 (Memorial to the Murdered Jews of Europe)」を訪問して、ドイツの外務大臣のハイコ・マース氏とともに、ホロコーストの犠牲者の追悼を行った。そこで、アメリカとドイツでホロコーストの歴史の記憶の共有を行っていく覚書に署名した。

ブリンケン国務長官自身は戦後にアメリカで生まれているが、父はウクライナ系ユダヤ人で、母がハンガリー系ユダヤ人。ブリンケン国務長官は米独でのホロコーストの記憶の共有について「ホロコーストで私たちが失ったものを思い出すだけでなく、私たちが伝えていくべきことや保存すべきことを思い出させてくれました。ただホロコーストの歴史を見守るだけでなく、現在の民族憎悪やヘイトにも立ち向かっていかないといけません」と語っていた。ベルリンの「虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑」にはコンクリート製の石碑が2711あるが、ブリンケン国務長官は「アメリカとドイツがホロコーストについて会話を始めるのに最適の場所です」とコメントしていた。

ドイツ外相「ターニングポイントを迎える準備が重要」

ドイツ外相のハイコ・マース氏は「私たちは歴史的な責任を背負っています。でもそれが私たちの強みです。歴史には『もし(if)』も『そして(and)』も『しかし(but)』もありません。私たちドイツとアメリカがホロコーストの歴史の共有について協力していくことの強みは将来に向けて正しく導いていくことです。ホロコースト生存者がいなくなっていく中でホロコーストの歴史を共有してくことのターニングポイントを迎える準備をしていくことが重要です。新たな記憶と経験の共有が求められます。我々は殺害された人々や生き残ることができる人々の想いを後世に伝えていく義務があります」と語っていた。

マース氏はブリンケン国務長官の家系がユダヤ系であることについても触れて「ブリンケン国務長官の毎日の活動の中にも、ご家族のホロコーストに対する想いがあることをよく知っています」と語っていた。

またブリンケン国務長官とマース外相は昨今、欧米で増加している反ユダヤ主義や民族憎悪、ヘイトスピーチ、ユダヤ陰謀論に対しての懸念も示していた。マース外相は「コロナウィルスの感染拡大にともなって、ロックダウンやワクチン接種をユダヤ人の黄色い星に例えたり、反ユダヤ的なフェイクな情報がネットで拡散されています。そのような状況をもっとよく考えるべきです」と訴えていた。

進むホロコーストの記憶のデジタル化とホロコースト教育

式典にはホロコーストの生存者で99歳になるマルゴット・フリードランダー氏も参加し、ホロコースト時代の経験を語った。マルゴット氏は1945年に現在のチェコにあるテレジエンシュタット強制収容所で解放された。「ドイツのダッハウ強制収容所からテレジエンシュタットに移送されてくる人たちに対して、"おまえらユダヤ人は人間じゃない"とナチスが罵倒して殴ったり蹴ったりしていました。そして私自身も本当に人間とは思えない経験をしてきました。世界にはキリスト教徒もユダヤ教徒もムスリムもありません。みんな同じ人間です。一人の人間としての血が全員に流れています。人間を尊敬しないからあのような悲劇が起こりました。どうかお願いです。人間であってください。そして人間として人間に接してください」と訴えていた。

戦後75年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰えており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。デジタル化された証言や動画も欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。

今回、アメリカとドイツでホロコースト教育を積極的に行っていくことも明らかにした。欧米やイスラエルでは民族憎悪やヘイトスピーチ、人種差別がいまだに続いている。欧米では今でも反ユダヤ主義が根強いが、アジア系やアフリカ系、ラテン系も差別対象にされることも多い。特に新型コロナウィルス感染拡大によってアジア系への風当たりが強くなってきている。ホロコースト教育では、ホロコーストの歴史以外にも、そのような現在の民族憎悪や人種差別をなくそうという方針が基底にある。欧米やイスラエルでは二度とホロコーストを繰り返さないという強い信念に基づいてホロコースト教育が行われている。だが残念ながら、今でも民族憎悪や人種差別は減っていない。

ブリンケン国務長官とハイコ・マース外相
ブリンケン国務長官とハイコ・マース外相写真:ロイター/アフロ

ブリンケン国務長官
ブリンケン国務長官写真:代表撮影/ロイター/アフロ

ブリンケン国務長官とハイコ・マース外相
ブリンケン国務長官とハイコ・マース外相写真:ロイター/アフロ

ブリンケン国務長官とハイコ・マース外相
ブリンケン国務長官とハイコ・マース外相写真:代表撮影/ロイター/アフロ

ブリンケン国務長官とハイコ・マース外相
ブリンケン国務長官とハイコ・マース外相写真:ロイター/アフロ

ホロコースト生存者のマルゴット・フリードランダー氏
ホロコースト生存者のマルゴット・フリードランダー氏写真:代表撮影/ロイター/アフロ

ブリンケン国務長官とハイコ・マース外相
ブリンケン国務長官とハイコ・マース外相写真:ロイター/アフロ

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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