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フォルクスワーゲン、アウシュビッツ博物館に研究資金を寄付:強制収容所に移送された人々の記録と保管へ

佐藤仁学術研究員・著述家
アウシュビッツ絶滅収容所の門「労働は自由への道」と掲げられている(写真:ロイター/アフロ)

ナチス時代に生まれたフォルクスワーゲン

ドイツの自動車メーカーのフォルクスワーゲンはナチスドイツのヒトラー総統が1934年にベルリンで開催されたモーターショーで国民車(フォルクスワーゲン)を提唱、自動車設計家のフェルディナント・ポルシェ氏が設計し、1935年に試作車が完成、1937年にはフォルクスワーゲン社を設立、1938年に販売された。

自動車の増産はヒトラーにとっては軍拡に次ぐ重要課題だった。ドイツでの自動車の普及は社会インフラとしてのアウトバーン建設にもつながった。そして第二次世界大戦でナチスドイツが占領した地域ではユダヤ人や政治犯などが強制収容所などのフォルクスワーゲンの生産工場で苛酷な労働が強いられていた。いわゆる強制労働だ。1998年にはアメリカに住む当時の強制労働被害者が、シーメンス、クルップ、フォルクスワーゲン、メルセデスベンツなどドイツ企業に対して損害賠償を求める集団訴訟を提起していた。

30年以上にわたって支援、記憶のデジタル化へ

そのフォルクスワーゲンがアウシュビッツ博物館に60万ユーロ(約7800万円)を寄付した。フォルクスワーゲンは1986年から30年以上にわたってアウシュビッツ博物館の研究プロジェクトを支援している。

今回の資金ではアウシュビッツなど強制収容所に移送された人々の記憶の構築と記憶のデジタル化、歴史を語り継ぐためのプロジェクトに使われる。アーロルゼンアーカイブセンターとブーヘンバルド強制収容所博物館も協力する。アーロルゼンアーカイブセンターではナチスの被害者のアーカイブを保管しており、ホロコーストの犠牲者のアーカイブを公開し、全世界からオンラインで誰もが無料で検索できる。

アウシュビッツ博物館のピョートル・チウィンスキー氏は「アウシュビッツに移送された人々の記録を再構築することができます。この研究と調査を通じて、私たちはアウシュビッツに移送され、殺害された人々の名前や家族の物語を取り戻すことができるでしょう。この作業はとても重要なことです。これからも協力しながら、ホロコーストの記憶のデジタル化をしていき、後世に正しい歴史を伝えていきたいです」と語っていた。

▼ナチスドイツ時代のフォルクスワーゲンについて伝える動画

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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