Yahoo!ニュース

米国チャップマン大学 ホロコースト生存者の証言を元に学生が当時の様子をアートで表現するコンテスト開催

佐藤仁学術研究員・著述家
(チャップマン大学提供)

米国カリフォルニア州のチャップマン大学では毎年「ホロコースト藝術コンテスト(Holocaust Art & Writing Contest )」が開催されており、今年で22回目となる。このコンテストではホロコースト生存者の証言を元に世界中の中学生や高校生など学生が絵画や映像でホロコースト時代の様子を表現したり、エッセイなど作文を書いて優秀な作品が表彰される。今年のテーマは「力の共有と人間性の維持(“Sharing Strength, Sustaining Humanity” )」だった。

今年も新型コロナウィルス感染拡大のためオンラインでの開催となった。だがオンラインでの開催のためかアメリカ国内だけでなく世界11か国、アメリカ32州の220の学校からコンテストに作品が応募された。ポーランドからは14の学校がエントリーしていた。チャップマン大学ホロコースト教育ロジャースセンターのダイレクターのマリリン・ハーレン氏は「応募してくる学生らはホロコースト時代の苦難と現代のパンデミックでのロックダウンでの孤独と新型コロナウィルスへの恐怖の違いについてとてもよく理解しています。このような家族や友人たちと会えないで孤立している時代だからこそ、ホロコーストを経験したユダヤ人生存者らの証言に対して深く耳を傾けることができるでしょう」と語っていた。

ホロコースト生存者のピーター・フィーフゲル氏もゲストとして出演。フィーフゲル氏は9歳の時に家族と一緒にナチスが台頭してきたオーストリアからベルギー、フランスへ避難したが、13歳の時に両親がナチスに逮捕され、アウシュビッツ絶滅収容所で殺害された。フィーフゲル氏はフランスのル・シャンボン=シュル=リニョンという小さな村が村全体でユダヤ人約4000人を匿ってくれて、その後1944年にスイスに逃亡してホロコーストを生き延びることができた。フィーフゲル氏は自身のホロコースト時代の経験から、「現代のような新型コロナウィルス感染拡大による孤立感と恐怖が蔓延している時代にこそ、私たちみんなが繋がっていることを感じて、お互いの人間性を尊重していくことが求められると思います。私たちユダヤ人をル・シャンボン=シュル=リニョンの村全体が救ってくれたように、他の人たちと一緒に同じボートに乗っているという連帯感と繋がりは、人生を生き抜くんだという強い力を私たちに与えてくれます」と繋がりの大切さと将来の希望を持つことの大切さを語っていた。またホロコースト生存者のロゼッタ・フィッシャー氏は「このような時代だからこそ、家族と友達の大切さが理解できると思います。私の過去の辛い経験を、良い将来のために今回のコンテストの題材として選んでくれてありがとう」とコンテストの優秀作品への祝賀コメントを寄せていた。

第二次世界大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。戦後70年以上が経ち、当時の生存者たちも高齢化が進んでいき、ホロコースト当時のことを知っている人も少なくなってきており、近い将来にはゼロになる。そのため現在、欧米やイスラエルでは「ホロコーストの記憶のデジタル化」が進められており、当時の映像や写真、ユダヤ人らの体験記のインタビュー動画をネットで公開したり、ホログラムによる生存者とのリアルタイムの会話ができたりデジタル化された生存者の記憶がホロコースト教育などにも積極的に活用されている。特にホロコースト生存者らの証言は動画で多く収録されデジタル化されて保存され、このような現代の学生のホロコースト教育のために活用されている。

学生の作品(チャップマン大学提供)
学生の作品(チャップマン大学提供)

学生の作品(チャップマン大学提供)
学生の作品(チャップマン大学提供)

▼チャップマン大学の「ホロコースト藝術コンテスト」

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

佐藤仁の最近の記事