Yahoo!ニュース

国連人権高等弁務官代表、SNSでのヘイト拡散を危惧「言葉は重要です」 ホロコースト記念日に

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

SNSでの反ユダヤ主義の投稿が増加

 第2次世界大戦時にナチスドイツによって約600万人のユダヤ人が殺害された、いわゆるホロコースト。1月27日は旧ソ連軍によってアウシュビッツ絶滅収容所が解放された日であり、国際ホロコースト記念日に制定されている。毎年ホロコーストの犠牲者を追悼したイベントを1月27日の国際ホロコースト記念日に開催している。

 そしてアウシュビッツ絶滅収容所解放76年を迎えた2021年1月27日には国連人権高等弁務官の代表のミシェル・バチェレ氏がホロコースト犠牲者を追悼し、現在のヘイトスピーチなどに関して声明を発表していた。ミシェル・バチェレ氏は「ホロコーストでユダヤ人やロマ、政治犯らの老若男女が何百万人も殺害されました。そのような犠牲者を追悼します。多くの人が関わったホロコーストという暴力と犯罪を忘れてはいけません」と訴えた。

 そして「さらに、現在でもあらゆるところに差別や民族憎悪があります。現代社会での差別や民族憎悪、ヘイトスピーチと戦っていくことを改めて決意しないといけません」と強調。「最近では、新型コロナウィルスのパンデミックの感染の恐怖の増大と同じように、あらゆる社会でヘイトスピーチの脅威が増大しています。特にオンライン上での反ユダヤ主義に対するヘイトスピーチ、民族憎悪の書き込みや投稿がとても多くなっています。世界ユダヤ人会議は2019年11月に主要なソーシャルメディアでの反ユダヤ主義に関するヘイトスピーチの投稿が30パーセントも増加したと報告しています」と語った。

 「反ユダヤ主義による陰謀論、誤情報とフェイクニュース、極端な政治思想によってユダヤ人一人一人やユダヤ人社会全体が被害をうけることについて全ての政府が責任をもって対応する必要があります。ソーシャルメディアでの無責任なオピニオンリーダーや人々がネット上で誤情報やヘイトスピーチを拡散することは彼ら自身を深く傷つけ、さらにリアルな暴力への脅威につながります。1930年代にナチスとナチスに同調する人々が行ったようなユダヤ人に対する間違った情報や嘘、民族憎悪、スケープゴートと非人道的な行動は社会全体を破壊します。言葉はとても重要なのです。このような反ユダヤ主義に関する情報がソーシャルメディアやネット上で拡散されていることに対して、各国政府と主要なソーシャルメディアは早急に自らの責任を果たすべきです。私たちはフェイクニュースや誤情報とも戦わなくてはなりません。歴史的な真実と事実、さらに人道的な尊厳と人権の平等に基づいて議論し発信していかなくてはなりません。このような陰謀論や民族憎悪に対抗するためにも我々は人権教育にもっと投資をしていかなくてはいけません。20世紀の悲惨な歴史から学んで、人類は人権を擁護しながら生きていかなくてはいけません」と伝えていた。

ヘイトスピーチ対策を進めるSNS各社だが

 日本では馴染みがないかもしれないが、欧米や中東では今でも反ユダヤ主義が根強い。イスラエルの国立ホロコースト博物館のヤド・バシェムや欧米の大学では反ユダヤ主義(Anti-Semitic)に関する講座も提供している。また「ホロコーストはなかった」「ユダヤ人はそんなに殺害されていない」「ガス室などなかった」といったホロコースト否定論も多い。FacebookやTwitter、TikTokなど主要なソーシャルメディアでは民族憎悪やヘイトスピーチに関する投稿は削除するようにしている。また3社とも2020年にはホロコースト否定に関する投稿を一切禁止し、発覚したらすぐに削除することを発表した。

 だが、世界的にもまだ根強い反ユダヤ主義のためにホロコースト否定や反ユダヤ主義に関するSNSへの投稿はとても多い。露骨にホロコースト否定や反ユダヤ主義に関する内容であれば、すぐに削除もできる。だが、そのようなわかりやすい投稿はすぐに削除されるので、隠語や仲間内でしかわからないような言葉、新しい表現などで投稿されることも多く、全てのホロコースト否定の投稿を削除することは容易ではない。例えば「あんなことはなかった」といった文脈からでしか推測できないような表現や仲間内だけでしか理解できない造語や隠語が多く、そのような投稿をSNSから削除していくことは至難の業である。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

佐藤仁の最近の記事