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欧州、高齢のホロコースト生存者をコロナから救え:ホロコースト記念日にワクチン接種

佐藤仁学術研究員・著述家
スロバキアでワクチン接種を受けるホロコースト生存者(写真:ロイター/アフロ)

オーストリアとスロバキアでホロコースト生存者へワクチン接種

 1945年1月27日にアウシュビッツ絶滅収容所がソ連軍に解放されたため、1月27日は国際ホロコースト記念日である。その国際ホロコースト記念日にオーストリアとスロバキアのホロコースト生存者への新型コロナウィルスのワクチン接種が行われた。

 第二次世界大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。戦後70年以上が経ち、当時の生存者たちも高齢化が進んでいる。オーストリアに住んでいる80代から90代の400人以上のホロコースト生存者に新型コロナウィルスのワクチン接種をウィーンで行った。今回のホロコースト生存者へのワクチン接種はオーストリアのユダヤ人コミュニティ団体が主導して行い、オーストリア保健省も協力した。団体のエリカ・ヤコブヴィッツ氏は「私たちはホロコースト生存者を守らないといけないです。彼らは現在のパンデミックの状況でロックダウンされていると、当時のトラウマに苦しんでいます」と語っていた。また欧州ユダヤ人協議会の会長のモッシュ・カントール氏はEU加盟国全部のホロコースト生存者約2万人になるべく早くワクチンを接種するように呼びかけて「ホロコースト生存者は、ナチスドイツの差別や虐待に耐え抜いてきた強い精神力を持っています。でもこのようなパンデミックの状況では多くのホロコースト生存者が死亡しています。我々はホロコースト生存者を救う義務があります」と語っていた。

 スロバキアのブラスチラバのユダヤ人コミュニティでも同様に国際ホロコースト記念日にホロコースト生存者128人に対してワクチン接種が行われ、今後残り330人にもワクチン接種を行う。スロバキアのユダヤ人団体のトップのトーマス・スターン氏は「この記念すべき国際ホロコースト記念日に、ホロコースト生存者にワクチン接種ができたことはとても嬉しいです」と語っていた。

ホロコースト生存者の証言で「記憶のデジタル化」を

 ホロコースト当時のことを知っている人も少なくなってきており、近い将来にはゼロになる。そのため現在、欧米やイスラエルでは「ホロコーストの記憶のデジタル化」が進められており、当時の映像や写真、ホロコースト生存者のユダヤ人らの体験記のインタビュー動画をネットで公開したり、ホログラムによる生存者とのリアルタイムの会話ができたりデジタル化された生存者の記憶がホロコースト教育などにも積極的に活用されている。

 欧米や中東では今でも反ユダヤ主義が根強く、「ホロコーストは存在しなかった」「ユダヤ人は600万人も殺害されていない」といったホロコースト否定論も多く、ホロコースト生存者らがいなくなってしまっては、本当にホロコーストはなかったというホロコースト否定主義が正しい歴史になってしまう、いわゆる歴史修正主義が広まってしまうことを多くのユダヤ人が懸念している。

 高齢化が進んだホロコースト生存者が心身とも健康なうちに1つでも多くの証言や体験を収録してデジタル化して後世にホロコーストの歴史を伝えようとしており、これから10年が勝負である。そのためにもユダヤ人団体としては高齢のホロコースト生存者が新型コロナウィルスで多く死亡していっている現状をなんとか食い止めたいところである。

スロバキアでワクチン接種を受けるホロコースト生存者
スロバキアでワクチン接種を受けるホロコースト生存者写真:ロイター/アフロ

スロバキアでワクチン接種を受けるホロコースト生存者
スロバキアでワクチン接種を受けるホロコースト生存者写真:ロイター/アフロ

スロバキアでワクチン接種を受けるホロコースト生存者

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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