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イタリア、ホロコースト本のZoomイベントで反ユダヤ主義の暴言:パンデミックで増加の「Zoom爆弾」

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

「1943年のように再び我が家にナチスが侵入してきたようだ」

 2021年1月10日にイタリアのユダヤ人作家 Lia Tagliacozzo氏が書いたホロコーストに関する本のオンラインイベントがZoomで開催されており、多くの読者がZoomで参加していた。第2次世界大戦時にナチスドイツが欧州の600万人以上のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコーストに関する本である。

 そのZoomでのオンラインイベントで参加者の一人がナチスドイツのカギ十字のマークやヒトラーを表示して「ユダヤ人はオーブンで焼かれろ!」(ナチスドイツがアウシュビッツなどの絶滅収容所に設置してユダヤ人を殺害した「ガス室に行け」というスラング)などといった民族差別的な言葉を吐いており、ネットでも炎上していた。Lia Tagliacozzo氏はホロコースト生存者の娘であり「1943年のように再び我が家にナチスが侵入してきたようだ」と語っていた。イタリアでも映画「ライフ・イズ・ビューティフル」で見たことがある人も多いかもしれないが、ナチスドイツの支配下に入ってから多くのユダヤ人が絶滅収容所に移送されて殺害された。

パンデミックでオンラインイベントになってから増える「Zoom爆弾」

 このように反ユダヤ主義者がZoomのオンラインイベントに入ってきて妨害をするのを「Zoom爆弾(Zoom bombings)」と呼ばれており、今回が初めてではない。アメリカ最大のユダヤ人団体で反ユダヤ主義と闘っている「名誉毀損防止同盟(The Anti-Defamation league)によると、新型コロナウィルス感染拡大に伴って、リアルでのイベントができなくなってZoomでオンラインイベントが開催されるようになった2020年3月~4月の1か月でアメリカとカナダで反ユダヤ主義の「Zoom爆弾」が11回もあったと報告している。また2020年7月に米国ダラスのシナゴーグが開催したユダヤ教のバーチャル祈祷会でも反ユダヤ主義者がZoomで入ってきて「全てのユダヤ人を殺す!イスラエルを爆発する」といった反ユダヤ主義に関わる暴言を吐いていた。

 Zoomでのオンラインイベントなので管理者もすぐにそのような人をZoomから退出させることもできる。だが、URLを知っていれば、世界中のどこからでも誰でも簡単にオンラインイベントに参加できる。リアルなイベントのように入り口でチェックもされないし、ナチスのカギ十字やヒトラーの肖像を出して匿名で顔を隠すこともできる。そして暴言を吐いて立ち去ることもできる。

 欧米ではいまだに反ユダヤ主義が根強く、ホロコーストから70年以上が経過した現在でもユダヤ人を嫌いという人が多い。欧米の大学やイスラエルのヤド・バシェムでは「ホロコースト教育」や「ホロコースト・スタディーズ」の講義を提供しており、その中に「反ユダヤ主義(Antisemitism)」に関するクラスもある。筆者も受講したことがあるが、古代から中世、近代から現代までの世界中での反ユダヤ主義の長い歴史があるため授業時間も文献も多く非常に難しかった。そして現在でもユダヤ人墓地やユダヤ人の銅像、学校などにナチスドイツのカギ十字を書くという犯罪が今でも多い。

▼2019年12月にフランスのユダヤ人墓地で反ユダヤ主義者らがナチスドイツのカギ十字の落書きをしていた。

写真:ロイター/アフロ

▼2019年11月にウクライナのユダヤ人作家ショーレム・アレイヘムの銅像にナチスドイツのカギ十字の落書きがされた。

写真:ロイター/アフロ

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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