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米連邦議会で抗議者が着ていた「アウシュビッツ」シャツにネット炎上:アウシュビッツ博物館が商品削除要求

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:REX/アフロ)

 2021年1月6日にトランプ大統領支持者による連邦議会議事堂への抗議活動が行われた。その様子はテレビやSNSを通じて世界中に発信されていた。その中でトランプ大統領支持者の1人が「Camp Auschwitz」(アウシュビッツ収容所)と書かれた髑髏(ドクロ)のマークの入ったシャツを着ていた。このアウシュビッツ収容所と書かれたシャツを着ていた1人の男性がテレビやSNSにたくさん見られたことからネットが炎上した。

 アウシュビッツ収容所と書かれたシャツが反ユダヤ主義や民族憎悪の象徴であり「ホロコーストの犠牲者に対する敬意がない」といった声やナチスを想起させることを警戒しての炎上だった。今回、元カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツネガー氏が、大統領支持者が連邦議会議事堂に抗議したことにについて、ナチス政権下の1938年11月のドイツでユダヤ人の店舗などを襲撃した「水晶の夜」に例えていたことから、トランプ大統領支持者からも「私たちはナチスとは違う」と強く否定する人が多くいた。実際、アウシュビッツ収容所と書かれたシャツを着ていて報じられていたのは1人だけで、多くの人はナチスやホロコーストを想起させる服は着ていなかった。

 ナチスドイツが第二次世界大戦時に約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。アウシュビッツ収容所はホロコーストの象徴的な存在であり、約110万人のユダヤ人、ロマ、政治犯らがガス室で殺害されたり、病死や餓死したりした。

 アメリカのホロコースト生存者財団(Holocaust Survivors Foundation USA)も今回の「アウシュビッツ収容所」と書かれたシャツが報じられていたことから、アメリカに反ユダヤ主義やネオナチの風潮が起こらないように警戒して声明を発表していた。そしてアウシュビッツ博物館も「アウシュビッツ収容所」と書かれたシャツを販売している小売り大手Estyに対して「アウシュビッツでの全ての犠牲者と生存者に対して失礼です。すぐにこの商品を削除してください」と自身のSNSで要求。Estyも「私たちは民族憎悪には断固として反対です」と表明し、即座に商品を削除することをSNSで回答していた。

 ホロコーストやナチスに関する商品は必ず炎上する。今回のように「アウシュビッツ収容所」と書かれた商品以外にも、ユダヤ人が収容所で着ていた囚人服に似たデザインや、ユダヤ人が差別されるために着用を義務付けられた黄色のダビデの星をつけた服など露骨なファッションを販売している。そのようなファッションは「ホロコーストの犠牲者に対する敬意がない」「生存者や家族が見たら、どのような思いをするのか考えよう」といつも炎上する。また、今回のようにホロコースト博物館や世界中のユダヤ団体、著名人らも反対や商品の撤収をSNSで呼びかけることから、いっそう話題になる。

 そして毎回「ホロコースト関連のファッションを販売する」→「ネットで炎上し、拡散される」→「商品を撤収したり、謝罪したりする」の繰り返しで欧米では過去に何回もあった。アウシュビッツ博物館が抗議し商品削除の要求をしたのも今回が初めてではない。

 だが、それでも懲りずにマーケティング目的でホロコーストが利用されることが多い。ホロコーストをテーマにした商品は、このように必ず炎上するので、それによって拡散され、話題になるので知名度を高めたり、サイト内の他の商品を見てもったりしようとマーケティング目的で販売されるケースもある。

▼連邦議会議事堂への抗議活動で「Camp Auschwitz」と書かれたシャツを着た人(左)

▼アウシュビッツ博物館がEtsyにシャツの販売停止と撤去を要求

▼Etsyもアウシュビッツ博物館からの要求に応じて、即座に販売停止を発表

元カリフォルニア州知事が、大統領支持者が連邦議会議事堂に抗議したことにについて、ナチス政権下のユダヤ人の店舗などを襲撃した「水晶の夜」に例えていた。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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