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ポーランドのラッパー、コロナのパンデミックを「外はまるで現代のホロコースト」と表現しネット大炎上

佐藤仁学術研究員・著述家
Quebonafideの「Matcha Latte」より

「窓の外はまるで現代のホロコースト」

 ポーランドのラッパーのQuebonafideが2020年12月29日にYouTubeに公開した動画「Matcha Latte」がネットで炎上している。この動画は現在の新型コロナウィルス感染拡大に伴うポーランドの惨状と家の中での孤独感を表現しているようなのだが、歌詞の中に「窓の外はまるで現代のホロコーストだ(“Outside the window, a modern Holocaust”)」という表現があり、ホロコースト時代のユダヤ人の惨状と現在の新型コロナウィルスのパンデミックを比較すべきではないという批判の声で炎上している。動画の中でも家の中でロックダウンされている状況と、外でのカオスな様子が表現されている。投稿されて1週間で140万回再生されている。

▼Quebonafideの「Matcha Latte」の動画

 第二次大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人、ロマ、政治犯らを殺害した、いわゆるホロコースト。ポーランドは最大の犠牲国であり、欧州の中ではポーランド在住のユダヤ人が大量に殺害された。当時のワルシャワはニューヨークに次いでユダヤ人が多かった。ホロコーストの象徴でもあるアウシュビッツ絶滅収容所もポーランドにある。また戦争が終わってからもユダヤ人が戻ってくることを歓迎しないポーランド人から差別、迫害、殺害の対象とされていた。

ホロコーストのユダヤ人に例えられるパンデミック

 新型コロナウィルス感染拡大防止のために欧米ではロックダウンが行われており、自由な外出ができずに不自由な暮らしを強いられている人が多い。そしてそのようなロックダウンによる外出の禁止や制限で自由を奪われている現在の状況を第二次大戦時のナチスドイツに迫害、差別されていたユダヤ人の状況、いわゆるホロコーストに例えられることが多い。当時、ゲットーに閉じ込められたユダヤ人やアンネ・フランクのように隠れ家で息をひそめながら隠れていたユダヤ人に例えられやすい。

 そして欧米では新型コロナウィルスでのパンデミックでの不自由な状況をホロコーストに例えると、当時のユダヤ人の悲惨な境遇や生活とは異なると、いつもネットが炎上している。高齢のホロコースト生存者らも当時のユダヤ人の状況と現在の新型コロナウィルスのロックダウンの状況は異なると訴えている。だが、それでも欧米では「ロックダウンで外出が制限され、不自由な生活=ホロコースト時代のユダヤ人がゲットーに閉じ込められて迫害された不自由な生活」というイメージを持つ人が多い。

 ポーランド在住のホロコースト生存者で「From the Depths」というホロコースト財団のトップを務めているエドワード・モスベルグ氏は、今回のラップでのホロコーストを軽視した歌詞について「ポーランドとユダヤの歴史を軽視しており、とても受け入れられない」と怒りを表している。

炎上商法で話題作りにも活用されるホロコースト

 ホロコーストやナチスドイツに関してマーケティングとしての投稿は必ず炎上する。一番多いのが、ユダヤ人が収容所で着ていた囚人服に似ていたり、ユダヤ人が差別されるために着用を義務付けられた黄色のダビデの星をつけた服など露骨なファッションの販売である。そのようなファッションは「ホロコーストの犠牲者に対する敬意がない」「生存者や家族が見たら、どのような思いをするのか考えよう」と毎回炎上する。今回のように世界中のユダヤ団体やホロコースト博物館、著名人らも反対や商品の撤収をSNSで呼びかけることから、いっそう話題になる。毎回「ホロコースト関連のファッションを販売する」→「ネットで炎上し、拡散される」→「商品を撤収したり、謝罪する」の繰り返しで欧米では過去に何回もあった。

 だが、それでも懲りずにマーケティング目的で利用されることが多い。ホロコーストをテーマにした商品は、必ず炎上するので、それによって拡散され、話題になるので知名度を高めたり、サイト内の他の商品を見てもらおうとマーケティング目的で販売されるケースもある。今回のラップの歌詞もホロコーストをきっかけに炎上し、ポーランドだけでなく海外でも話題になったので炎上商法としては大成功である。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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