ホロコーストの始まりだった「水晶の夜」から82年、世界中からのメッセージをエルサレムの壁に投影

エルサレム旧市街の壁に投影された世界中からのメッセージ

 1938年11月9日はドイツ全土で「クリスタルナハト(水晶の夜)」と呼ばれた日で、ユダヤ人に対する暴力、ユダヤ人店舗の略奪、破壊が行われた。ユダヤ寺院のシナゴーグも襲撃、放火された。店舗やシナゴーグの破壊されたガラスが夜の月明かりに照らされて「水晶」のようだったので「水晶の夜(クリスタルナハト)」と呼ばれている。当時、多くのドイツ人がユダヤ人迫害に加担、もしくは見て見ぬふりをしていた。その後、第2次大戦での欧州全体でのナチスによる約600万人のユダヤ人大量虐殺のホロコーストへと繋がっていった。「水晶の夜」ではドイツとオーストリアの1400のシナゴーグ(ユダヤ教の教会)が襲撃された。そしてユダヤ人の多くが不当に逮捕されて強制収容所に移送されていった。ホロコーストにおけるユダヤ人への組織的暴力の始まりだった。

世界中から寄せられたメッセージが表示されるエルサレム旧市街の壁(International march of the Living提供)
世界中から寄せられたメッセージが表示されるエルサレム旧市街の壁(International march of the Living提供)
世界中から寄せられたメッセージが表示されるエルサレム旧市街の壁(International march of the Living提供)
世界中から寄せられたメッセージが表示されるエルサレム旧市街の壁(International march of the Living提供)

 毎年11月9日には「クリスタルナハト(水晶の夜)」の犠牲者を追悼して欧米やイスラエルのシナゴーグでは式典が行われ犠牲者の家族や生存者の多くが参集する。だがクリスタルナハトから82年を迎える2020年は世界規模で新型コロナウィルスが拡散しており、例年のように多くの人が参集することができなかったため、多くのシナゴーグが主催してオンラインで開催された。実際にはホロコースト生存者の多くが80歳以上の高齢者であり、例年のようなリアルでの追悼式典には体調の都合で、もう参加できない人が多いが、オンラインでの開催なら自宅からパソコンやタブレット、スマホの前から式典に参加できるので、今までリアルでの式典には参加できなかった生存者の多くもオンラインでは参加している。

世界中から寄せられたメッセージが表示されるエルサレム旧市街の壁(International march of the Living提供)
世界中から寄せられたメッセージが表示されるエルサレム旧市街の壁(International march of the Living提供)
世界中から寄せられたメッセージが表示されるエルサレム旧市街の壁(International march of the Living提供)
世界中から寄せられたメッセージが表示されるエルサレム旧市街の壁(International march of the Living提供)
世界中から寄せられたメッセージが表示されるエルサレム旧市街の壁(International march of the Living提供)
世界中から寄せられたメッセージが表示されるエルサレム旧市街の壁(International march of the Living提供)

 そして今年はオンラインでの開催がメインで、実際にシナゴーグに参集することができなかったことから、クリスタルナハトの歴史を次世代に伝えていこうという目的で、世界中から寄せられたホロコーストやクリスタルナハトに関する追悼や記念のメッセージをイスラエルのエルサレムの旧市街の壁に映し出し、ホロコーストやクリスタルナハトの歴史が人々の記憶に残るようにした。 「'let there be light'(光をあてよう)」と呼ばれるイベントで世界50か国以上から寄せられたメッセージをデジタル化してエルサレム旧市街の壁に投影。その様子もSNSで世界中に拡散された。

 今回のクリスタルナハトのメッセージ投影において、イスラエルのラビン大統領、ネタニヤフ首相、イギリスのジョンソン首相、ドイツのメルケル首相からもメッセージが寄せられた。イギリスのジョンソン首相は「クリスタルナハトは人間性と人道を破壊した夜でした。現代社会においても反ユダヤ主義や民族憎悪、ヘイトに対する無関心と闘っていかないといけません。我々は光を消してはいけません」とメッセージを寄せた。イスラエルのネタニヤフ首相は「クリスタルナハトから82年を記念して、私たちはあの夜がホロコーストの始まりだったということを思い出さないといけません。ユダヤ人は二度とあのような破壊的攻撃と暴力に対して無力で非抵抗になってはいけない」と呼びかけた。ドイツのメルケル首相は「1938年11月9日の夜の恥ずべき出来事を忘れてはいけません。あの日、ドイツ中でユダヤ人に対してポグロム(ユダヤ人への集団暴力と破壊行為)が行われ、シナゴーグが破壊され、多くのユダヤ人が殺害されました。ドイツ人が犯した人道に対する罪を思い出して犠牲者に追悼しましょう」とメッセージを寄せた。

 約600万人のユダヤ人が殺害されたホロコーストから約80年が経ち、当時の生存者たちも高齢化が進んでいき、当時のことを知っている人も少なくなってきており、近い将来にはゼロになる。そこで現在、欧米やイスラエルでは「ホロコーストの記憶のデジタル化」が進められており、当時の映像や写真、ユダヤ人らの体験記のインタビュー動画をネットで公開したり、ホログラムによる生存者とのリアルタイムの会話などデジタル化された生存者の記憶がホロコースト教育などにも積極的に活用されている。今までは生存者らがホロコースト博物館などで学生らを前に当時の経験を語っていたが、新型コロナウィルス感染拡大のために生存者の話もZoomなどオンラインで視聴することが多くなった。先述のように高齢のホロコースト生存者にとっては、博物館まで足を運んでの講演よりも自宅からパソコンで語る方が体力的にも良いということで、生存者らもオンラインで自宅から積極的に当時の経験を語っている。またZoomでの講演は今までのように博物館に足を運ばないと聞けなかった生存者の話が世界中から視聴できるのでとても盛況である。2020年のクリスタルナハト記念式典もオンラインがメインで、世界中からのメッセージをエルサレム旧市街の壁に投影した試みも「ホロコーストの記憶のデジタル化」の一環である。

▼「水晶の夜」の解説動画