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英国アマゾン、ホロコーストでユダヤ人が着用させられた「黄色いダビデの星Tシャツ」炎上で削除

佐藤仁学術研究員・著述家
(英国アマゾンより)

 英国のアマゾンで、ホロコースト時代にユダヤ人が着用させられた黄色のダビデの星のマークがついたTシャツが販売された。14.99ポンド(約2000円)で「思い出のギフト( “Remembrance Gift”)」「ホロコーストの犠牲者に捧ぐ( “honor the victims of Holocaust” )」と書かれていた。

(英国アマゾンより)
(英国アマゾンより)

 第二次世界大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。ナチスが政権を握った国や地域では、ユダヤ人を差別迫害し隔離するために、ユダヤ人には目に見えるように衣服に黄色い星を縫い付けさせた。黄色は欧州では呪われた色だった。特に西欧諸国では外見からはユダヤ人を見出すのは困難だったため、黄色い星が縫い付けられた服を着用しているのがユダヤ人の証で、黄色い星をつけたユダヤ人は公共の場所や映画館、公園、店舗などに入ることも禁じられた。そして黄色い星は「この人はユダヤ人なので殴ったり、嫌がらせをしたりしても構わない」とわかりやすくするためのものだった。またアウシュビッツなどの収容所に貨車で移送されたユダヤ人の荷物の選別をしていた囚人は、ユダヤ人が持ってきたトランクから衣類を取り出して、それらに縫い付けられている黄色い星を剥ぎ取る仕事をしていた。黄色い星を剥ぎ取られた衣服はユダヤ人を移送してきた貨車に乗せられて、戦中で物不足のドイツに送られ一般市民の古着として活用された。

毎回ネット炎上で削除の繰り返し

 英国のアマゾンに黄色いダビデの星のデザインのTシャツが販売されると「ホロコーストの犠牲者に失礼である」とすぐにネットは炎上し、現在ではアマゾンでは商品を削除した。アマゾンのスポークスマンは「全ての商品はアマゾンの販売ガイドラインに従う必要があります。この商品はもう販売していません」と発表した。

 ホロコースト教育財団のチーフ・エグゼクティブのカレン・ポロック氏は今回のTシャツ販売について「ホロコーストという悲惨な歴史を矮小化するような商品を販売することは絶対に許されるべきでありません。ホロコーストは600万人の罪のないユダヤ人が殺害されたものであり、商品ではありません。アマゾンは再度、商品販売のポリシーとガイドラインを熟考すべきです」と語っていた。

 ホロコーストやナチスドイツに関するファッションや商品は販売されると必ずネットは炎上する。今回のような露骨なダビデの星のデザインやユダヤ人が収容所で着ていた囚人服に似ているシャツも過去に販売されたこともある。そのようなファッションは「ホロコーストの犠牲者に対する敬意がない」「生存者や家族が見たら、どのような思いをするのか考えよう」と毎回炎上する。ホロコーストを揶揄したような反ユダヤ的なファッションは世界中のユダヤ団体やホロコースト博物館、著名人らも反対や商品の撤収をSNSで呼びかけることから、いっそう話題になる。今回も女優のトレーシー・アン・オーベルマンも自身のツイッターで、この商品の削除をアマゾンに要求していた。

 だが、それでも懲りずにこのようなホロコーストをネタにしたファッションが登場する。毎回「ホロコースト関連のファッションを販売する」→「ネットで炎上し、拡散される」→「商品を撤収したり、謝罪する」の繰り返しで、もう欧米では過去に何回もあった。ナチスドイツ関連のコスチュームは欧州の国によっては違法である。だがホロコーストをテーマにしたファッションは、必ず炎上するので、それによって拡散し、話題になるので知名度を高めたり、サイト内の他の商品を見てもらおうとマーケティング目的でやろうとしているものもある。

▼女優トレーシー・アン・オーベルマンも自身のツイッターでアマゾンに商品の削除を要求

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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