ドイツとイスラエル、共同で軍事ドローン訓練実施「歴史的にも重要な戦略的な協力」
イスラエルとドイツは軍事ドローンでの連携を強化している。そして2020年7月にはイスラエルの軍事メーカーであるイスラエル・エアクラフト・インダストリーズ (IAI)が開発したドローン「エイタン(Eitan)」の試験をイスラエルで両国で実施した。イスラエルの防衛省は、ドイツとイスラエルの軍事ドローンでの連携を「ドイツとイスラエルの2か国にとって歴史的にも重要な戦略的な協力」と強調。
ドイツとイスラエルは2018年6月から軍事ドローンで連携を行ってきた。イスラエルで開発された軍事ドローンをドイツ向けにも改良し、そしてドイツの空軍はイスラエルでトレーニングを共同訓練を行う。ドローン開発の責任者は「新型コロナウィルスの感染拡大で大変な時期に直面していますが、両国での軍事ドローンの共同訓練などは全てスケジュール通りに行われています。これはドイツとイスラエルの軍事的な基盤を構築することにも貢献することができると思います」と語っていた。
ホロコーストの歴史を乗り越えて
ドイツとイスラエルの軍事協力関係は戦後から非常に長く複雑な経緯がある。第二次世界大戦時にナチスドイツは約600万人以上のユダヤ人を殺害していた。いわゆるホロコーストであり、イスラエルは戦後、ユダヤ人らが建国。建国時から現在に至るまで周辺のアラブ諸国と争っている。戦後直後はイスラエルにとってドイツとの接触はタブーであり、ドイツに対するボイコットは長く続くと思われた。だが実際にはイスラエルがドイツをボイコットするのは困難だった。そしてイスラエルはドイツから戦後賠償金をもらった。ユダヤ人はホロコースト以前から世界中で差別や迫害、殺害をされていたが、ユダヤ人が迫害されたことに対して償いが行われたのは歴史上始めてのことだった。ドイツはホロコーストの犠牲者であるユダヤ人とイスラエルに対しての道義的な責任を感じており、ドイツがイスラエルを軍事支援することは当然と考えていたようだが、イスラエルのユダヤ人の方がドイツから賠償によって軍事支援を受けることに対する嫌悪感の方が強かった。だがドイツとイスラエルの安全保障の協力は軍事目的の諜報活動において、両国の国交樹立前の1950年代から当時の冷戦下において緊密に行われていた。特に当時の西ドイツにとってはイスラエルのモサドと諜報分野で協力することは自国と西側諸国にとっても重要だった。特に、当時アラブ諸国がイスラエルを攻撃する際に使用していたのがソ連製の兵器であったため、イスラエル経由でドイツはソ連製兵器の情報を入手することができた。
またベングリオン首相の時代にも、ドイツに武器を提供したことがあった。その時にもイスラエルのユダヤ人から「ヒトラーの手下たちに、イスラエルの武器を渡すような悪魔的なことをするとはなにごとだ!かつてホロコーストで多くのユダヤ人を殺した連中に、我々イスラエルの武器を渡すとは神聖さを冒涜しているのか!」と強く抗議された。ベングリオンはそのような抗議に対して「ホロコーストの犠牲者となった600万人のユダヤ人たちは、現在のイスラエルという国が成立し、イスラエル国防軍の存在を知り、あのドイツすらもその価値を認めざるをえないイスラエルの軍事産業の発展に喜んでくれるだろう」と冷静に対応していた。
現在サイバーセキュリティやドローン、AI技術の分野ではイスラエルの方が圧倒的にドイツよりも強い分野が多く、今回の軍事ドローン開発における両国の連携もイスラエルの軍事メーカーが主導で行っており、ドイツ軍がイスラエルにトレーニングを受けに来ている。周辺を敵に囲まれていたイスラエルでは、生死に関わることから軍事技術の発展が進み、技術力においてはイスラエルの方が優位となっていた。例えば1970年代にはイスラエルはドイツに電波妨害システムを提供していた。当時イギリスやフランスのように欧州で核兵器を持つことが許されなかったドイツは、それでも東側諸国と国境を接しており、欧州で戦争が勃発した場合は、戦闘機がドイツ上空を飛び交うことになり、敵機の侵入の検知と精確なミサイル攻撃は課題であり、それに応えたのがイスラエルであった。ホロコーストでは600万人以上のユダヤ人を殺害したドイツと戦後にユダヤ人が建国したイスラエルとの関係は非常に複雑だったが、このように戦後から両国の間には「歴史的にも重要な戦略的な協力」は何度もあった。