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米国女性「マスク着用はユダヤ人の黄色い星と同じ」発言にネット大炎上 アウシュビッツ博物館も反論

佐藤仁学術研究員・著述家
Yad Vashem

 米国ミズーリ州の一般人の女性が市議会のパブリックコメントを求めるオンライン会議で「新型コロナウィルスの感染拡大防止を求めて、マスク着用を強制させられるのは、ナチスドイツ時代にユダヤ人が黄色いダビデの星を着用させられたことと同じです。マスク着用を強制され、マスクをしていないと罰金が取られたりするようになれば、このマスクは私たちにとっては黄色い星のようなものです。恐ろしい話だと思いませんか?」と発言した。

 第二次大戦時にナチスドイツが占領していた地域ではユダヤ人を差別迫害し隔離するために、ユダヤ人には目に見えるように衣服に黄色い星を縫い付けさせた。黄色いは欧州では呪われた色だった。特に西欧諸国では外見からはユダヤ人を見出すのは困難だったため、黄色い星を着用しているのがユダヤ人の証で、黄色い星をつけたユダヤ人は公共の場所や映画館、公園、店舗などに入ることも禁じられた。そして黄色い星は「この人はユダヤ人なので殴ったり、嫌がらせをしたりしても構わない」とわかりやすくするためのものだった。

 この発言をめぐって欧米では批判のコメントなどが多く、ネット上では大炎上している。反ユダヤ主義が今でも根強く残っている欧米ではホロコーストをテーマにしたネタはタブーであり、ホロコーストを揶揄するような風刺画や、黄色い星やナチスのマークなどをマーケティング目的で表現されると、いつもネットでは批判され炎上する。特に現在のアメリカでは人種差別はセンシティブな問題であることからいつも以上に炎上している。

新型コロナでの外出自粛とよく比較されるホロコースト

 今回の米国ミズーリ州の女性の発言については、アウシュビッツ博物館も自身のツイッターで「マスク着用をすることは、私たち全員が安心で安全な生活を送るための責任の証です。マスクは私たちの健康と命を守ります。マスクは黄色い星ではありません。そのような比較をすること自体が、ホロコースト時代に差別・迫害されたユダヤ人に対して失礼です」と投稿し、世界中に拡散された。

 ホロコースト時代には600万人以上のユダヤ人らが殺害された。そして、ポーランドに設置されたアウシュビッツ絶滅収容所では110万人がガス室や餓え、病気などで殺害されたホロコーストのシンボルのような存在。またアウシュビッツなどの収容所に貨車で移送されたユダヤ人の荷物の選別をしていた囚人は、ユダヤ人が持ってきたトランクから衣類を取り出して、それらに縫い付けられている黄色い星を剥ぎ取る仕事をしていた。黄色い星を剥ぎ取られた衣服はユダヤ人を移送してきた貨車に乗せられて、戦中で物不足のドイツに送られ一般市民の古着として活用された。

 新型コロナウィルスが世界規模で感染拡大しており、それに伴って世界中の年で外出自粛やロックダウンなどの防止措置が講じられるようになり、自由に外出できなくなるようになると、そのような制限された環境を、ナチスドイツ時代にユダヤ人が差別・迫害されたホロコーストと比較されることがよくある。今回のミズーリ州の女性の発言が初めてではない。特に、新型コロナ感染拡大防止のための外出自粛要請で自由に外出できない状況は、アンネ・フランクが隠れ家に身を潜めていた生活と比較されることが多い。ホロコースト生存者たちも、当時のユダヤ人の状況と現在の新型コロナウィルス感染拡大防止の対策での人々の生活では全く違うと積極的に訴えている。

▼米国ミズーリ州の女性の「マスク着用は、ホロコースト時代のユダヤ人の黄色い星のようなもの」に対して「マスクは黄色い星ではありません」と反論するアウシュビッツ博物館のツイート。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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