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米国カンザスの新聞、コロナ対策をホロコーストで表現した風刺画にネット大炎上

佐藤仁学術研究員・著述家
The Anderson County Reviewより

 カンザス州のローカル新聞「The Anderson County Review」が自身のFacebookページに、カンザス州知事で民主党のローラ・ケリー氏の似顔絵で「ロックダウン州知事が"マスクをしろ!さもないと家畜列車に乗せるぞ!"と言っている(“Lockdown Laura says: Put on your mask ... and step onto the cattle car.”)」とコロナ禍でのロックダウン政策とマスク着用を表現した風刺画を掲載した。

コロナ政策をホロコーストの表現で炎上した風刺画(The Anderson County Reviewより)
コロナ政策をホロコーストの表現で炎上した風刺画(The Anderson County Reviewより)

 このケリー州知事の似顔絵のマスクには、ダビデの星が描かれており、家畜列車に乗り込む風景は、ナチスドイツ時代に迫害され、強制収容所に移送されるユダヤ人の写真である。ナチスドイツ支配下では、差別されていたユダヤ人はユダヤ人であることが一目でわかるように、洋服に黄色のダビデの星の着用を義務付けられていた。そしてユダヤ人たちはトイレもなく、窓もない家畜列車に押し込められて、立ちっぱなしで何日間も食事も水も与えられずに強制収容所に移送された。体力がない子供や老人の多くは移送中に家畜列車の中で窒息などにより死んでいった。また狭くて暗い車内と死の恐怖で精神的にやられてしまう人も多かったが、収容所に到着するまで下ろされることはなかった。

 風刺画で似顔絵となったケリー州知事はキリスト教徒でユダヤ人ではないが、今回の風刺画をうけて「このような反ユダヤ主義的な風刺画は非常に攻撃的であり、すぐに削除すべきだ」とコメントしていた。この風刺画がFacebookに投稿されてから、アメリカだけでなく欧州やイスラエルのユダヤ人らも抗議を行い、ネットで大炎上していた。明らかに当時約600万人のユダヤ人が殺害されたホロコーストを風刺に用いたものであり、ユダヤ人以外の多くの人も抗議していた。

 新聞社のオーナーで共産党員のデーン・ヒックス氏は当初はコロナ禍における政策に関して議論を喚起するために、このような風刺画で訴えていると主張していたが、後日「国内外のユダヤ人リーダーらと議論して、今回の風刺画でホロコーストの犠牲になった人たちを傷つけてしまったことに気が付きました。決してホロコーストの犠牲者を傷つけることを意図や目的にしていたわけではありません」と謝罪して、風刺画を削除した。

 ホロコーストを揶揄したりするようなネタは欧米ではタブーだが、風刺画などで表現されることが多く、現在でも反ユダヤ主義の根強い欧米ではそのたびに、あっという間に拡散して、ネットで炎上する。特に現在のアメリカでは人種差別はセンシティブな問題であることから、いつも以上に炎上していた。ホロコーストをネタにすると必ずネットで炎上するし、メディアでも取り上げられて話題になる。今回もカンザス州の小さな地元新聞の風刺画だが、欧米やイスラエルなど世界中で炎上し、注目を浴びることとなった。

▼イスラエルのメディアの特派員も自身のツイッターで反応

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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