米国、AIの国際団体GPAIに加入 G7で最後:価値観を共有する同盟国で中国のAI開発に対抗
アメリカ政府は2020年5月に、AI(人工知能)の国際団体「グローバル・パートナーシップ・オン・AI(Global Partnership on AI:GPAI)」に加入したことを明らかにした。2019年に設立されたばかりの同団体ではAIの開発において企業や政府に倫理観や責任を持つようにというアドバイスや提言をしている。法的な根拠や拘束は一切ない。GPAIへの加入はG7加盟国でアメリカが最後になる。既に他の6か国(イギリス、フランス、カナダ、ドイツ、イタリア、日本)は加入している。アメリカ政府の最高技術責任者のミハエル・クラチオス氏は「GPAIへの加盟は、AIの将来が未来や世界中の人々の生活を向上させることができることに繋がるだろう」と語り「中国はアメリカとその同盟国の価値観と対立してAIをゆがめて開発してきた」と中国のAI開発をけん制した。
クラチオス氏は自身のツイッターでも中国が人民を監視して多くのあらゆるデータを収集して、それらのデータを元にAI開発を行っていることを念頭において「新型コロナウィルスの感染拡大で、プライバシー、自由、市民の自由主義に対して命令的な方法でAIの開発が行われていることが明らかになった。アメリカのスタンダードである自由とプライバシー保護、そしてそのような我々の民主主義的な価値観は共有されて尊重されるべきであり、AI開発にとっても重要なことだ」と語っていた。同氏が語るように民主主義という価値観を共有できる国同士でないと同盟を形成することはできない。
この団体はカナダのトルドー首相とフランスのマクロン大統領が主導してきた。2人はこの団体を国連の気候変動問題を検討するパネルをモデルとして、国際会議の議場でAIの倫理的な開発と使用に向けた議論をしていこうと考えており、気候変動問題における多国間での議論が様々な結果を生み出してきたことから、その手法をAI開発でも応用しようと考えている。
AIの開発は世界的に見てもアメリカと中国の2強である。GPAIのレミ・クイリオン氏は「アメリカの加入は素晴らしいことです。中国のあまりにも急速なAI開発に対して、アメリカ政府は一国のみで対応するよりもパートナーと連携した方が良いでしょう」とコメントしている。
GPAIはあくまでもレコメンデーションを提言しているだけであるため、同団体に加盟したことによって、AIの倫理的な開発に対しての法的な拘束力も遵守すべき法律やルールは一切ない。GPAIに拘束力がなくとも、トランプ政権では当初は、AI開発において他国と協調して足並みを揃えることをしていなかったため、GPAIに加入することは躊躇していた。だが、ここに来て中国のAI開発の急速の発展に脅威を感じ、価値観を共有する同盟国とともに、民主主義的な観点からGPAIに加入し、AI開発のガイドラインを遵守していこうとしている。GPAIでの議論が気候変動パネルのようにAI開発にも応用されるのかどうかは不明であるが、AI開発においても国際社会では米中2強体制と、価値観を共有する民主主義国の同盟による連携という枠組みは、冷戦時の国際秩序と変わっていない。冷戦時は、このような国際協調枠組みの形成においてはアメリカが率先していることが多かったが、AIについてはアメリカが最後に加盟している。
▼アメリカ政府の最高技術責任者のミハエル・クラチオス氏のツイッター