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南カリフォルニア大学ショア財団、映画『ジョジョ・ラビット』を次世代のホロコースト教育の教材に

佐藤仁学術研究員・著述家

 第2次世界大戦時にナチスドイツによって約600万人以上のユダヤ人や政治犯らが殺害された、いわゆるホロコースト。1994年に設立された南カリフォルニア大学ショア財団研究所(USC Shoah Foundation)では、20年以上にわたって、ホロコーストに関するあらゆるデータや生存者の証言を集めてデジタル化して保存したり、録画した証言をYouTubeで全世界に配信したりしている。ショア財団は映画「シンドラーのリスト」を手掛けたスピルバーグ監督が多額の寄付を行って設立された。彼はユダヤ人だが、アメリカに生まれたため、彼自身はホロコーストを経験していない。またホロコーストだけでなく、アルメニア、ルワンダやグアテマラの大虐殺など55,000以上の証言を集めている。またデジタル化された映像をホロコーストの教育に活用している。

 2020年1月から日本でも公開開始された映画『ジョジョ・ラビット』。第44回トロント国際映画祭でも観客賞に輝いた。第2次世界大戦中のナチスドイツ時代が舞台で主人公の少年ジョジョは、自宅で匿われていたユダヤ人少女エルサと出会い、ユダヤ人は下等な悪魔だというヒトラーユーゲントの教えが、事実と異なることにも気づき始めていく。ジョジョがユダヤ人に対する偏見や民族憎悪を克服していき、ナチスドイツ支配の戦時下で生きる人々がユーモアたっぷりに描かれている。

 南カリフォルニア大学ショア財団と映画制作会社フォックス・サーチライト・ピクチャーズは、2019年12月に映画『ジョジョ・ラビット』をホロコースト教育の教材として利用していくことを明らかにした。南カリフォルニア大学ショア財団では、ホロコースト生存者らの証言の動画などをホロコースト教育の教材として提供しており、映画『ジョジョ・ラビット』も教材として提供していくことにより、学生の民族憎悪やヘイト、反ユダヤ主義や偏見に対する理解の一助としていく。

 南カリフォルニア大学ショア財団のエグゼクティブ・ダイレクターでUNESCOのジェノサイド教育のチェアを務めているシュテファン・スミス氏は「映画『ジョジョ・ラビット』を通して、私たちは学生らに対して、ジョジョが映画の中で疑問を感じたように、現代のヘイトや民族憎悪、反ユダヤ主義などについて考える機会を持ってもらいたいです。映画の中では簡単に表現されているヘイトや民族憎悪だが、実際の現代社会でも根深い問題です。世界中の人々が敬意をもって民族問題について理解していかないといけませんし、人々に共感することは非常に重要なことです」と語っている。

 またショア財団のクラウディア・ラミレス・ヴィーダーマン氏は「映画『ジョジョ・ラビット』はフィクションだが、ヘイトや民族憎悪に対して人間らしさを表現していることから、次世代のホロコースト教育やアンチ・ヘイトの教育プログラムには役立つ内容です。映画は若い世代にも視聴覚的なインパクトもあり、内容も響くためホロコースト教育の新たな手段として非常に重要であることを私たちは気づいています。次世代へのホロコースト教育は映画とホロコースト生存者らの証言を組み合わせが重要になります。ドイツ人少年のジョジョとユダヤ人少女エルサが戦時下に、何を感じて、どのように辛辣な社会の中で生き抜いてきて、彼らがコミュニティの中でどのように変化してきたかを学んでほしいです」とコメント。

 ニュージーランド出身で自身もユダヤ系のタイカ・ワイティティ監督は「私自身も、それなりの偏見の中で育ってきました。そのため『ジョジョ・ラビット』を通じて現代社会に民族憎悪がない世界を作ることを訴えたいし、子供たちに教育していくことの重要性を感じています。子供たちは偏見や民族憎悪を持って生まれてきません。第2次大戦時のユダヤ人迫害の事実を新たな手段で伝えていくことはとても重要なことです。映画では子供たちにも伝わりやすく、映画を通じた学習で、民族憎悪のない未来を作ってもらいたいです。『ジョジョ・ラビット』のユーモアが新たな世代の教育に貢献できることを期待しています」と語っていた。

 戦後75年が経ち、ホロコースト生存者も年々減少しており、近い将来にはゼロになる。現在、欧米では南カリフォルニア大学以外にも欧米やイスラエルのホロコースト博物館などが生存者の体力と記憶力があるうちに積極的に証言を集めている。またホロコーストに関する映画は欧米では毎年製作されており、世界中の多くの人々に観られている。いくつかの映画は欧米やイスラエルの学校ではホロコースト教材として既に活用されている。

映画『ジョジョ・ラビット』

(C)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation & TSG Entertainment Finance LLC

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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