ジェノサイド条約採択から70周年:国連でホロコースト生存者とホログラムで対話
2018年12月9日に国連でジェノサイド条約採択から70周年を記念したイベントが行われた。第2次大戦時のナチスによるユダヤ人大量殺戮ホロコーストを経て、ユダヤ系ポーランド人法律家のラファエル・レムキンによって「ジェノサイド(大量殺戮)」の概念が登場。ジェノサイド条約は、1948年12月9日に国連で全会一致で採択、1951年1月に発行された。
映画「シンドラーのリスト」の映画監督スティーブン・スピルバーグが寄付して創設された南カリフォルニア大学(USC)のショア財団ではホロコースト時代の生存者の証言のデジタル化やメディア化などの取組を行っている。ショア財団のエグゼクティブ・ディレクターのステファン・スミス氏が国連でのジェノサイド条約採択70周年イベントに参加した。
「犠牲者たちのストーリーで始まり、共感で終わる」
ステファン・スミス氏は、ジェノサイド(大量虐殺)の防止において、最新テクノロジーの役割の重要性を強調しながら以下のように語った。「現代社会において、我々の前にある問題は、どのように我々がテクノロジーを活用して、ジェノサイドの問題を一般の市民に伝えていくかである。だが最新のコンピューターや人工知能(AI)などのテクノロジーはただのツールであり、ジェノサイド問題を伝えるのに一番重要なのは、犠牲者たちのストーリーで始まり、共感で終わることだ」
また国連のイベントでは、最新技術を活用したホロコースト生存者がホログラムや3Dで目の前に現れて、AIによってインタラクティブにホロコースト時代の様子の質問に答える様子も紹介された。ホログラムとして登場したのは、ナチス時代にマイダネク強制収容所に収監されていたが、家族の中でただ1人だけ運良く生き延びることができたPinchas Gutter氏とアンネフランクの親戚でもあるEva Schloss氏だった。2人ともホログラムで国連のイベント会場に登場し、インタラクティブにホロコースト時代の質問に回答。
ホロコーストの生存者は高齢化が進み、年々減少している。そのため彼らの記憶が鮮明で元気なうちにホロコースト時代の経験を語ってもらいデジタル化して保存し、AIを活用してホログラムで登場したホロコースト生存者がインタラクティブに質問に答えられるようにしている。つまり彼らがこの世からいなくなってしまっても、後世の世代でもホログラムを通じてインタラクティブにホロコースト生存者と対話することができる。
ホログラム化されているトロント在住の86歳のGutter氏は国連のイベントに参加。「我々ユダヤ人の文化、皆さんの文化を受け入れることが大切です。世界中には様々な民族がいて、文化があり、それぞれの神に祈りを捧げています。そのような多様な文化で一緒で生活していきましょう。世界中の人々が同じところで生活して、お互い合理的かつ親しみをもって生きていければ良いと思います」と挨拶すると、会場からスタンディングオベーションが起きた。
「大切なのは我々がジェノサイド防止に対してアクションを起こすこと」
その後、Gutter氏のホログラムでのデモが行われた。ホログラムのGutter氏とのやり取りで、同氏は「人種差別をやめることが大切だ」と語り、ナチス統治時代の迫害やホロコーストの経験を質問している聴衆にホログラムが答えた。また「我々の世代はホロコースト後に、もう二度とジェノサイドを繰り返さなと信じていた。だが、実際に世界はそうではなかった。近代はジェノサイドを回避できなかったし、デジタルが登場したからといってジェノサイドを回避できることはない。現在でも多くの人々が殺されたり、暴力の犠牲になっている。大切なのは我々がジェノサイド防止に対してアクションを起こすことだ。人種差別、民族差別をなくすという価値観と原理だけがジェノサイドをなくすことができる」
国連のイベントに参加していたルワンダ国際戦犯法廷のDieng氏は「ソーシャルメディア(SNS)とインターネットの普及によって、多くの世界中の人々がジェノサイドの問題や国際的な課題も容易に共有できるようになった。だが、SNSやネットは人種差別や民族差別、ヘイトスピーチもあっという間に拡散するツールにもなっている」とコメント。