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イスラエル、ネタニヤフ首相「サイバー攻撃は人類が直面している最も挑戦的な課題の1つ」

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

「私の目標はイスラエルがサイバーパワーでトップ5の国になることで達成」

 イスラエルのネタニヤフ首相は2018年6月、テルアビブで開催されているCyber Weekカンファレンスで、イスラエルが置かれているサイバーの脅威についてスピーチを行った。テルアビブ大学で行なわれたネタニヤフ氏の講演で、ネタニヤフ首相は「サイバー攻撃は人類が直面している、最も挑戦的な課題の1つだ」と指摘し、「我々の周辺のデバイスだけでなく、航空機やネットワークまでサイバー攻撃から守られなければならない」と語った。

 またスピーチの際には「イスラエルからそれ程、遠くない国からイスラエルがハッキングされてしまい、会話は全て盗聴され、銀行口座は全て盗まれてしまう」といった動画でサイバー攻撃の脅威を煽った。ネタニヤフ首相は「それでもサイバー攻撃は防衛対策を行うことができる。常にサイバー攻撃されるよりも先を行かないといけない」と強調した。

 さらにネタニヤフ首相は「イスラエルはサイバーセキュリティの観点では世界的にも、素晴らしいポジションにいる。2017年にはイスラエルからのサイバーセキュリティ関連の輸出は38億ドルにまで達した。私の目標はイスラエルがサイバーパワーでトップ5の国になることだった。その目標は達成したが、まだ戦いは終わらない。これからもイスラエルのサイバーセキュリティは発展していき、現在も将来もイスラエルのサイバースペースの安全を守っていかないといけない」と語った。イスラエルは既にサイバーセキュリティではアメリカに次いで、競争力もあるが、中国やロシアなども台頭している。

▼Cyber Weekカンファレンスで講演するネタニヤフ首相(イスラエル首相官邸)

 イスラエルには約480のサイバーセキュリティ関連の企業があり、そのうち50社は国際的な研究開発センターを所有している。2017年のイスラエルの学術界のトップ10%はサイバーセキュリティ研究であり、2017年には8億1500万ドルが投資された。

イスラエルのサイバーセキュリティを支える8200部隊

 社会や生活、経済などあらゆるものがサイバースペースに依拠する現代社会では、イスラエルだけでなく、世界中の国家にとってサイバースペースの安全保障は国土の安全保障と同じくらい重要だ。特にイスラエルは周辺諸国から常時、サイバー攻撃を受けており危機感も強い。

 ネタニヤフ首相は「イスラエルを世界でトップ5のサイバーパワー国家にする」と宣言しているが、既にイスラエルはサイバーセキュリティに強い。イスラエルのサイバーセキュリティを支えている多くの人が8200部隊の出身者だ。8200部隊とはイスラエル参謀本部の1ユニットで、同国のサイバー諜報活動やサイバー攻撃・防衛を担っている精鋭部隊。イスラエルでは高校卒業後に兵役の義務があるが、優秀な上位1%のみが8200部隊に配属されるそうだ。配属にはプログラミングや数学、ハッキング技術、語学などが優秀な成績である他にチームワーク、協調性、リーダーシップなど人間的な面でも評価されるとのこと。イスラエルの多くの家庭では、この8200部隊に配属されるために、子供たちに数学などを必死に勉強させるそうだ。確かに、彼らの仕事場はパソコンの前であり、敵のミサイルなどに晒される最前線の戦場ではないから、負傷するリスクも少ない。

 つまり、イスラエルの若者にとってサイバーセキュリティのスキルや能力は命にかかわる。さらにサイバーセキュリティのスキルは、その後の人生にも大きく貢献する。そのため、小さい頃から必死に数学やプログラミング、語学などを勉強するのだろうから、日本や他国とはスキル修得に向けた姿勢も異なる。まさに命がけなのだ。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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