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アウシュビッツで「ポケモンGO」やらないで!「犠牲者に不敬だからゲームできないように」と訴え

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:Daily Stormer)

世界中のあらゆる場所で「ポケモンGO」を楽しんでいる。

欧米でも「歩きスマホ」による事故や死体を発見するといった問題も発生している。先日はアメリカで「ポケモンGO」をやっていて崖から転落した事故もあった。

「ポケモンGO」はユーザーが街でスマホのGPSとカメラを起動すると、カメラの画面に映った現実の世界にポケモンが現れる。そしてそれを画面上で捕まえて遊ぶゲームで他のユーザーと戦わせたりすることができる。屋外でスマホで遊べることも「ポケモンGO」の人気の1つで、場所によって出会えるキャラクターも異なるから、いろいろな場所に出向くと多くのキャラクターに会える。また遭遇したキャラクターの写真を撮影することもでき、Twitterには多くの写真がアップされている。

アウシュビッツで「ポケモンGO」やらないで:犠牲者に不敬

アメリカやドイツのホロコースト記念博物館などのホロコースト犠牲者を追悼する記念館でも、多くの若者がスマホに熱中して「ポケモンGO」をやっているので「ホロコーストの犠牲者に対して失礼だからやめるように」と呼びかけている

そしてポーランドにあるアウシュビッツ絶滅収容所でも、多くの訪問者が「ポケモンGO」をやっている。アウシュビッツ絶滅収容所は、欧州のユダヤ人を絶滅させることを目的にナチスによって設置され、ホロコースト犠牲者600万人のうち110万人以上が殺害された場所だ。

アウシュヴィッツ・ビルケナウ博物館の広報担当Pawel Sawicki氏は「ポケモンGO」の開発を行ったNianticに対して、アウシュビッツやホロコースト追悼関連施設では、ゲームができないようにするように訴えている。また「ここで死んでいった多くの犠牲者に対して失礼だ。アウシュビッツではスマホのゲームをやらないように」と怒りを露わにしている。

アウシュビッツでは2015年7月にも位置情報ゲームアプリ「Ingress」を提供していたNianticに対してアウシュビッツなど絶滅収容所がポータルになっていることから、ゲームから削除するように要請し、Nianticは「Ingress」から絶滅収容所跡地をゲームから削除して、親会社のGoogleが謝罪していた。

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アウシュビッツにもポケモンのキャラクター
アウシュビッツにもポケモンのキャラクター

年間150万人のアウシュビッツ訪問者のほとんどが授業の一環

日本からアウシュビッツまでは非常に遠く、簡単に行けないことや気持ちが沈んでしまうので高いお金を払ってまで行こうという人は少ないが、現在でもアウシュビッツには年間150万人以上の人が世界中から訪問しており、特に冷戦後には増加し戦争が終結してから4,400万人以上がアウシュビッツを訪問している。内訳ではポーランド約40万人、イギリス約20人万、米国約9.2万人、イタリア約8.4万人、ドイツ約7.5万人、イスラエル約6.2万人、スペイン約5.5万人、フランス約5.4万人、チェコ約5.2万人だ。

そのほとんどが修学旅行や社会科見学などの学校の授業や教育プログラムの一環としてアウシュビッツを訪問してくる。彼らの中には、本当はアウシュビッツには行きたくないという人も多い。選別されてからすぐに送られて多くのユダヤ人が殺害されたガス室、処刑場、大量に詰め込まれて多くの人が死んだバラック跡地、長時間の点呼で多くの人が倒れた広場、拷問のために使われた監獄など大人ですら見るのに耐えがたい施設だ。他にもユダヤ人から奪った犠牲者の眼鏡、カバンや靴の山、刈り取って絨毯にするための髪の毛、犠牲者が平和な時代に撮影した写真などが大量に展示されている。また展示されている写真も死体の山や処刑シーンなどで、収容所によっては12歳以下の子供は見ない方が良いとの注意書きがある場所もある。

「ポケモンGO」はそのゲームの特徴から、屋外のいろいろな場所でポケモンが現れることから、学生は「たまにしか行かない、しかも学校の授業の一環で行く施設」であり、自分では行くことがない場所だから、ポケモンのキャラクターを見つけたい。大人でも気になってしまうだろう。

本当はこのような過去の歴史から目を背けてはいけないのだろうが、授業の一環とはいえ直視するのは若者にとってはきつい。スマホのゲームに目を逸らしてしまいたくなる。それでも100万人以上が殺された「地獄の跡地」でゲームをすべきではない。

展示物破損の恐れも

アウシュビッツのような絶滅収容所跡地では犠牲者に対して不敬であるが、このような歴史的博物館ではスマホに熱中していて歴史的な展示物にぶつかって壊されてしまうことも懸念されている。歴史的な遺産や展示物を破壊されてしまう恐れがあるから、博物館や寺院、歴史的跡地などではスマホによるゲームは禁止した方がよいだろう。すでに世界の多くの博物館や美術館で自撮り棒(セルフィー棒)の利用は展示物破損の恐れから禁止されている。もしくはアウシュビッツ博物館が要請しているように、そのような場所ではゲームができないようにした方がよいのかもしれない。

日本でも間もなく「ポケモンGO」がリリースされると、修学旅行に行った先や社会科見学で訪れるような場所でもスマホに夢中になってしまうのだろうか。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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