Yahoo!ニュース

自律型致死無人兵器システム(LAWS)の論点

佐藤丙午拓殖大学国際学部教授/海外事情研究所所長
著者撮影

 2021年12月13〜17日に特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の第6回検討会議が開催され、CCW枠組条約及び同条約付属議定書の履行及び普遍化に関する見直しを行い、次期運用検討会議までの活動方針等が合意された。この会議では、自律型致死無人兵器システム(Lethal Autonomous Weapon System: LAWS)に関する新たなマンデートが採択され、2022年に10日間の日程で政府専門家会議を開催することが合意された。

 運用検討会議はCCWが扱う様々な問題が議論されたが、LAWS問題では2021年に3回開催された政府専門家会議(GGE)の結論が報告されている。LAWSとは、人間の介入なしに作動する兵器システムであり、無人兵器やAI兵器と呼ばれることも多い。ただし、LAWSでは人工知能(AI)が活用される場合があるのは事実であるが、AIの兵器化とは異なる。

 LAWSには決まった定義はないが、国際赤十字は「人間の介在なしに、敵を探し、判断して攻撃する兵器システム」としており、これが広く受け入れられている。2021年の政府専門家会議では、2019年に合意された11項目の運用指針をふまえ、規範・運用の枠組みの明確化・検討・発展に関する勧告を行うことが期待された。

〇「11の運用指針」について

2019年に合意された11項目の運用指針は、LAWSに関連する問題領域において、国際人道法の適用、兵器システムの運用における人間の責任の確認、AIなどの技術の進展の担保、兵器システム開発等における国際人道法の適用、兵器システムの運用における人間の関与等を規定したものである。

この指針は、ロシア、中国、米国など、無人兵器システムの開発を進める国と、厳格な規制を求める国などが一致して合意したものであり、合意後、とある外交団は「天才的なアプローチ」と評価した。この原則は、LAWSの問題を国際社会に訴えてきた「キラーロボット反対キャンペーン(Campaign to Stop Killer Robots)」の主張を、ほぼ取り込むものでもあった。

実際、現実に存在しない兵器システムの規制では、これまで国際社会が編み出してきた対処方法は、いずれも十分なものではない。LAWSにおいても、予防的に規制対象を拡大すると、民生技術の開発に大きな影響が出るし、規制を受けない形の兵器システム開発が進み、より悪い結果につながる。さらに、限定的で特定の機能にフォーカスした規制を導入すると、国家間の技術レベルの格差を固定するような措置につながってしまう。つまり、国際社会全体を満足させる規制の導入は困難であるということである。

そのような状況の下で、CCWのGGEで合意された11の運用指針は、LAWSに関わる諸問題において、対象となる兵器システムが存在せず、それによる被害も予想の範囲を出ないにもかかわらず、国際人道法の内容を各国が遵守することに合意したという点において、極めて異例な成果といえるのである。

2021年12月に開催されたGGEでも、さらには運用検討会議の議論でも、通常は多国間の軍備管理軍縮交渉において慎重な立場を保つ米ロ両国が声を揃えて、11の運用指針の意義と成果、そしてその内容を尊重すべきと繰り返し訴えた点に、この「天才的なアプローチ」の重要性が確認できた。

しかし、LAWSに関わる諸問題の議論は、2020年から2年間の予定で開催されたGGEでは、十分な成果をあげることができず、進展が見られなかった。もちろんこの背景には、COVID-19の関係で、完全な形でGGEが開催できなかったことがある。さらには、議論を支える市民社会団体も行動を抑制され、国際的に議論が活性化できなかったという面もあろう。いろいろある中で、特に、GGEで期待された規範・運用の枠組みに関する点で、意見集約ができなかったことが、2021年12月のGGE,さらにはその直後に開催された運用検討会議での議論の進展を妨げた最大の要因といえるのではないだろうか。

〇LAWSに関わる諸問題の争点とは

しばしば、LAWSなどの開発を進めたい米ロ中と、禁止条約を求めるオーストリアやブラジル、チリ、コスタリカ等の間に、意見の隔たりがあると指摘されることがある。さらに、可能な限り「緩い」規制を求める大国側と、軍事技術の進展に歯止めをかけたい非同盟諸国(NAM)という対立構図で説明されることもある。このような構図が描けないわけではない。しかし、本質的には、LAWSに関わる諸問題における重大な争点(問題)が存在し、それが結果として国家間の意見集約を困難にしているのであろう。

それは第一に、国際人道法等の実効性に対する不信感である。11の運用指針では、LAWSは国際人道法(ジュネーブ諸条約と追加議定書等)や国際人権法などの、人道的な国際規範を遵守することが盛り込まれた。これには、新兵器導入の際の兵器審査(第36条レビュー)における国際人道法への適合が含まれる。

国際人道法は武力紛争等に関する国際的な規範を結晶化したものであるが、条約への不参加の国もあれば、その国内への適用措置が不明確な国も多い。したがって、米国やEU、イスラエルなどのように、AIの軍事利用に関する道徳規範を導入し、それに従った兵器開発を進める国にすると、国際人道法の国内適用さえも未達成で、なおかつ適用していると主張していても、その情報を開示しない国などが大多数を占める状況で、11の運用指針に基づいて国際人道法等の規範・運用の枠組みを作成しようする主張は先行しすぎだ、ということになる。

しかし、国際人道法の国内適用を怠っているような側にすると、そもそもLAWSそのものや、それに関連する兵器システム開発も自国が主導して行っていない場合が多いため、厳格な規制措置を求める主張は、武器技術先進国を牽制するために極めて有効な手段ということになる。

第二に、多国間の措置に対する悲観である。第一の問題を克服して、多国間の措置の構築に進んだとしても、そこにはそのような措置そのものに対する悲観論がある。この悲観論は、多国間の措置の目的と、その手段にかかわる問題に向けられる。

LAWSに関わる問題で多国間措置を導入する場合、現時点では、その目的が規範構築か、不拡散か、能力の制限か、あるいは禁止、のどれかになる。実際にLAWSは存在しないため、軍備管理、あるいは軍縮にはならない。

ここであげた多国間の措置を導入するための目的は、いずれも問題を抱える。規範構築が目的であれば、GGEでロシアが主張するように、現在の国際人道法等を超える規範が必要であるとの論拠が必要になる。不拡散であれば、LAWSや自律型兵器システムの開発に必要な技術の保有及び開発が許される国家はどれか、国際的に認定することになる。NAM諸国は、自分たちが排除される側になる可能性を恐れ、これに反対する。

能力の制限は、民生品の開発での目覚ましい技術開発を制約するリスクが生じるため、各国は可能な限り軍事分野に限定することを考える。そして禁止については、その実効性の根拠が示されていないと、実は多くの国が反対する。単純な禁止条約であれば抜け道が多く、中国などの技術先進国は大歓迎するだろうが、LAWSの規制を真剣に考える国は、実は反対に回る。

このように、目的をどのように設定するかだけでも問題が多く、各国の意見集約は簡単ではない。もしどれかに合意したとしても、導入される措置の実効性と、方法論について意見対立は激しいことが予想される。このため、LAWSに関わる諸問題で、実現可能性の面で、多国間の措置に対する悲観論が生まれているのである。

第三に、兵器システム更新に対する期待である。LAWSは兵器体系に新たに導入されるものと理解されることが多い。各国の開発の進展状況を見る限り、LAWSは新兵器としてではなく、既存の兵器体系の更新か、指揮統制システムの効率化、という形で導入されるだろう。そうなると、既存の兵器体系や指揮統制システムのどこを自律化するかをめぐり、各国の利害が交錯する。そして、もし規制が導入されたとしても、自国の有利になるように操作しようとする。

たとえば、セントリー兵器を考えてみても、真っ先に導入した韓国が、38度線をはさんで使用しているのと、中東などのテロリストの自軍拠点(市街地に存在する)に対する自爆攻撃に対処する為に欧米諸国が導入するのとでは、考慮すべき内容が異なる。

兵器の更新による自律化の進展が、それぞれの安全保障政策上、重大な結果につながるため、各国は可能な限り自国の技術開発の自由度を確保し、相手の開発の方向性を制約しようとする。実はGGEでもこの問題は指摘されており、兵器の運用環境の一般化を議論しようとしていた。ただ、この問題が理解できるのは、米ロやEUなど、実戦経験がある一部の国にとどまっていた。

このような問題を抱えていたため、2021年12月のGGE及び運用検討会議は、「残念」な結果に終わったのである。GGEでは、具体的な措置に向けた提言をまとめることができず、実質的には2020-2021年の間にLAWSに関わる諸問題では進展がなかった。

〇今後の課題

この間に各国の技術開発は進み、ロシアやフランスなどは、AIを活用した兵器開発を進めることを明言している。日本も、大幅に遅れながら、AIの活用を真剣に考え始めた。中国では、無力化技術(致死兵器ではなく、相手の行動に影響を及ぼす兵器)などの兵器利用が検討されていると報じられた。トルコは高性能のドローンを積極的に輸出している。これは、NAM諸国であっても、一定程度の無人兵器システムを入手することが可能であることを意味する。

このような状況の下で、LAWSの規制措置を導入することについて、悲観的な見方をする意見が多いのも理解できる。しかし、「まだ」LAWSは実現しておらず、国際人道法等を基本とする11の運用指針について、各国のコンセンサスは存在する。ここで、国際社会がいかに議論を進めるか、良識が問われる局面にあるのだろう。

                                  以上

拓殖大学国際学部教授/海外事情研究所所長

岡山県出身。一橋大学大学院修了(博士・法学)。防衛庁防衛研究所主任研究官(アメリカ研究担当)より拓殖大学海外事情研究所教授。専門は、国際関係論、安全保障、アメリカ政治、日米関係、軍備管理軍縮、防衛産業、安全保障貿易管理等。経済産業省産業構造審議会貿易経済協力分科会安全保障貿易管理小委員会委員、外務省核不拡散・核軍縮に関する有識者懇談会委員、防衛省防衛装備・技術移転に係る諸課題に関する検討会委員、日本原子力研究開発機構核不拡散科学技術フォーラム委員等を経験する。特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の自律型致死兵器システム(LAWS)国連専門家会合パネルに日本代表団として参加。

佐藤丙午の最近の記事