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<大量懲戒請求>インターネット上で違法行為を呼びかけた者の責任は?

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
大阪高等裁判所(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 一昨年来、インターネット上で、特定の弁護士に対する懲戒請求を呼びかけているあるブログサイトに賛同した者が、同サイトに掲載されている懲戒請求のひな形を利用し、付和雷同的に多数人が集中して一部の弁護士に懲戒請求を行う事例が問題となっておりました。

 私もその対象とされ、そのことについては、下記記事に書いておりますのでご参照ください。

<大量懲戒請求>提訴に至る経緯とその意義について

不当懲戒請求者に対する訴訟の東京高裁判決について

 こうした動きの中、「ブログ主の責任は追及しないのですか?」と何度も尋ねられていましたが、インターネット上で発信した者の責任を追及するのは、その者が実名で行っていれば比較的容易ですが、匿名や別名で行っている場合は、そう簡単ではありません。

 まずは、発信者情報開示請求と言って、その発信をした人を誰なのか教えてよ、という訴訟をプロバイダ相手に起こさないといけないのです。

 そして、私は、これを大阪地裁に提起しており、その道の第一人者の弁護士を代理人として進めておりました。

 ところが・・・。

まさかの敗訴~大阪地裁判決

 勝てると思っていた大阪地裁では、まさかの敗訴をしてしまったのです。

 このときは、多くの人から叩かれ、「佐々木亮の敗訴は当然」「あいつは終わった」「そもそも悪徳弁護士」みたいなことを書かれ、心を深く傷つけられました。

 当事者という身になると、訴訟というのはまた全く違って見えるものだと実感した次第です。

 しかも、負けたときは報道各社から報道されました

弁護士懲戒扇動 ブログであおった人物の情報開示請求を棄却 大阪地裁

投稿者の情報開示認めず 懲戒請求された弁護士、控訴へ

 上記の記事の他にもあったような記憶なのですが、今検索しても2つは見つけられます。

 いずれにしても、まさか自分が当事者になって負けた裁判がこのように報道される日が来るとはなぁ、と遠い目で記事を眺めておりました。

 判決を受けて代理人の先生とすぐに協議し、控訴をすることを決意しました。

 その控訴審の判決が、2019年10月25日、大阪高等裁判所でありました。

 大阪高裁の本多俊雄裁判長は、私が負けた大阪地裁の判決を取り消し、プロバイダー側に発信者の情報開示を命じる逆転勝訴判決を下しました。

 ただ、この逆転勝訴について、なぜかどこの報道機関も報じてくれないので、この記事で判決の内容をお伝えすると同時に、インターネットを用いて違法行為を呼びかける行為は、実行者だけでなく、呼びかけた者にも責任が生じるとした大阪高裁判決を紹介したいと思います。

争点は?

 まず、プロバイダから発信者の情報を開示してもらうには、発信者の発信によって明白な権利侵害が生じたことが必要になります。

 たとえば、ブログに名誉毀損となることを書かれた場合とか、無断でプライバシーを侵害する内容の記事を書かれた場合などが、典型的な例となります。

 今回の私のケースでは、ブログ主が私に対する懲戒請求を呼びかけました。それに応じてのべ約3000名の人たちが私に懲戒請求を行いました。

 既にお知らせしているとおり、私に対する懲戒請求は、事実上も法律上も根拠のないものだったので、続々と懲戒請求者に対する損害賠償を命じる判決が出されています。したがって、ブログに煽られて行われた懲戒請求自体が違法であり、私の権利を侵害していることは明らかといえると思います。

 問題は、懲戒請求そのものではなく、ブログがそうした懲戒請求を呼びかけた行為、これが私に明白な権利侵害を引き起こしたといえるのか? ここが情報開示請求では論点となります。

こちらの主張の要点

 当方は、この点、おおむね以下の3点を主張しました。

  1. ブログを起点として懲戒請求が行われているので、ブログの発信が権利侵害を引き起こしたといえること
  2. ブログによって違法な懲戒請求を呼びかける行為自体が不法行為となること
  3. ブログによって懲戒請求を呼びかける投稿自体が名誉毀損となること

負けてしまった大阪地裁の判断

主張1について

 これに対する、私が負けてしまった大阪地裁判決は、1つめについては、ブログの呼びかけに応じてなされた懲戒請求自体で権利侵害が生じたとしても、それは懲戒請求を実際に行った者により引き起こされたのであって、ブログの発信によるものとはいえないとしました。

 「まじか!!」

と叫びたくもなりますが(実際判決を読んで私は小声で言いました。)、大阪地裁判決は、インターネットによる呼びかけの性質上、呼びかけ行為を閲覧するには本件ブログに対する主体的なアクセスが必要だし、懲戒請求自体は現実社会における行為であるから、懲戒請求自体は、懲戒請求者の主体的行為であるとして、ブログが権利侵害を起こしたとはいえない、としたのです。

主張2について

 次に、呼びかけたこと自体が違法であるとの2つめの主張については、タレント弁護士がテレビ番組である刑事事件の弁護団に対して懲戒請求をするよう呼びかけたことに関する最高裁判決(平成23年7月15日判決)を引用しました。

最高裁の基準

 

 この最高裁判決は、懲戒請求を呼びかける行為が不法行為上違法な権利侵害行為といえるかについて判断したものです。最高裁は、こういう場合は、呼びかけられた弁護士の被った精神的苦痛という人格的利益と、懲戒請求をするよう呼びかける表現行為との調整の問題であるとしました。

 そして、懲戒請求の呼びかけ行為が違法か否か判断するには、

 

  1. 呼びかけ行為の趣旨
  2. 呼びかけ行為の態様
  3. 対象者の社会的立場
  4. 対象者が被った負担の程度

 これらを総合考慮し、対象者の被った精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超えるといえる場合には、そのような呼びかけ行為は不法行為法上違法の評価を受けると解するのが相当であるとしました。

権利侵害が明白ではない?

 この最高裁の判断につき、大阪地裁は事実を当てはめていけばよかったのですが、大阪地裁はここでプロバイダ責任制限法を持ち出して、同法では権利侵害が明白なときが開示の要件であるところ、今回のケースは権利侵害が明白とまではいえないとして、逃げてしまったのです。

 私からすれば、約3000件も懲戒請求されているのに明白じゃないってどんな事態だよ!とも言いたくなりますが、裁判所の判断なので、控訴審で争うほかありません。

主張3について

 最後の3つめの主張である「懲戒請求を呼びかける投稿自体が名誉毀損である」という主張について、大阪地裁は、一般読者は弁護士が朝鮮学校への補助金声明に賛同していたとしても、それが懲戒されるような非行に当たらないことは分かるのだから、対象弁護士の社会的評価は下がらず名誉棄損にはならないとしました。

 うーん・・・。なんというか、ミモフタモナイといいますか、まぁ、たしかにそういう考え方もあるとは思いますが、それによってのべ約3000人が私に懲戒請求しているので、当事者である私にとっては非常に気持ちの悪い判断でした。

 こうしたまさかの敗訴判決を受けてしまったので、代理人の先生と相談し、控訴審では「絶対に名誉毀損だろ、これ!」というブログの投稿を1つ加え(請求原因の追加)、負けない体制を整えて、控訴審に挑むことになりました。

逆転勝訴~大阪高裁判決

 そうしたところ、大阪高裁は、次の判決を下しました。

 まず、大阪高裁は、2つめの主張である「ブログによって違法な懲戒請求を呼びかける行為自体が不法行為となる」から判断する、としました。つまり、控訴審で新たに追加した投稿の問題や、当方の1つめの主張は「後回し」にして判断をする、としたのです。

 

 そして、大阪高裁も大阪地裁同様に、タレント弁護士の最高裁判決を引用しました。

 その上で、ブログが懲戒理由として挙げている東京弁護士会の会長が出した朝鮮学校に対する補助金交付声明に賛同した云々については、そもそも朝鮮学校への補助金支給に向けた活動をすること一般が憲法及び何らかの法令に反するものではないし、ましてや弁護士としての品位を損なう行為でもないことは明らかだから、同活動に関する会長声明やそれに賛同する行為についても表現行為の一環として、法令や弁護士倫理に反するものではないことは明らかである、としました。

 そして、大阪高裁は「それにもかかわらず」として、平成29年6月15日、控訴人(=私のことです)を含む10名の弁護士につき190名から懲戒請求書が送付され、これらにはブログが提供する懲戒請求書の「ひな形」と同一の懲戒事由が記載されており、その後も控訴人について同内容の懲戒請求が相次ぎ、同年10月ころまでには少なくとも1000名を超える請求者から懲戒請求書が送付され、同年9月2日に控訴人がツイッターに懲戒請求者らに向けた記事を掲載すると、同月11日には控訴人を対象弁護士とする本件投稿と同一の懲戒事由による懲戒請求がさらに100件ほど申し立てられ、平成30年5月までに、控訴人について送付された懲戒請求書は3000件に及んだことが認められ、本件投稿による呼びかけに呼応した多数の懲戒請求者により控訴人が多大な精神的苦痛を被ったことは否定することができない、としました。

 私はこの判決を「そうだ、そうだ」と力強く頷きながら読みました。

呼びかけ行為の趣旨について

 また、ブログの投稿の趣旨は、朝鮮学校に対する補助金の支給に反対するブログ側の考えを踏まえて、朝鮮学校に対する補助金の支給を求める会長声明に賛同し、活動を推進する行為を違法行為ないし犯罪行為であり、懲戒事由に当たるものとして、控訴人に対する懲戒請求を呼びかけるものであり、不特定多数の者に懲戒請求を呼びかける行為により自己の考えと反対の立場の主張や表現行為それ自体を封じ込める意図が窺がわれるものである、としました。

 これはよく踏み込んで認定してくれたな、と思いました。

 まさに、あのブログが懲戒請求を大量に呼びかけている趣旨は、そのブログの意見に反対する人の主張や表現行為の封じ込めにこそあるのです。この点をみごと看破した判示でした。

呼びかけ行為の態様

 そして、本件投稿の態様も、懲戒請求書のひな型を掲載し、これに懲戒請求者の氏名・住所を書きこめば簡単に控訴人に対する懲戒請求書が作成できる体裁のものであり、控訴人に対する懲戒請求を強く誘引する性質のものというべきである、としました。

 また、本件投稿者は、以前から本件ブログの投稿を通じて、在日韓国人や在日朝鮮人に関する問題を取り上げ、繰り返し多数の意見を表明し、複数の書籍が出版されていることや、呼びかけに応じて多数の懲戒請求がなされたことからすると、社会的影響は同調する者を中心に少なからずあったと認めるのが相当、ともしました。

 つまり、何の影響もない人が呼びかけたのとは違い、ああいう論調をする人の中でそれなりの影響力のあるブログが、誰でも簡単に懲戒請求できる「ひな形」を用意して、私に対する懲戒請求を呼びかけている態様であることを指摘しています。

総合判断すると

 大阪高裁は、これらを総合すると、控訴人に対する懲戒請求が最終的には本件投稿における呼びかけに応じた各懲戒請求者の判断によるものであるとしても、懲戒請求を呼びかけた発信自体が、ひな形どおりの多数の懲戒請求がされたことの不可欠かつ重要な原因になったというべきであるとして、控訴人が弁護士であり、その資格や使命に鑑みて様々な意見や批判を受けるべき社会的立場にあるとしても、本件投稿の発信自体によって控訴人の被った精神的苦痛は社会通念上受忍すべき限度を超えたものであると評価することができる、としました。

 大阪地裁とは全く逆の結論ではありますが、こちらのほうが多くの人に「なるほどなぁ」と思わせる判断なのではないでしょうか。

 事実を丹念に拾った真っ当な判断だと思いました。

懲戒請求の呼びかけ行為自体は名誉棄損になるか?

 当方の3つ目の主張である「懲戒請求を呼びかける行為自体が名誉棄損になっている」という点について、大阪高裁は次のように判断しました。

 懲戒請求を呼びかけるブログ記事を、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として読んだ場合、そこで摘示された事実及びこれを前提とする意見の表明によって、一般人においては、控訴人が違法行為ないし犯罪行為に加担したり、懲戒処分に値する非違行為を行ったりしたという否定的な印象を抱くとして、名誉棄損にあたるとしました。

 ちなみにプロバイダ側は、朝鮮学校に対する補助金の支給に賛成したこと自体は社会的評価を低下させないと主張したようですが、会長声明を「違法」、これに賛同し、推進する行為は「確信的犯罪行為」、上記行為が「懲戒事由」という否定的な表現を強く用いている以上、朝鮮学校に対する補助金の支給に向けた活動に関する会長声明及びこれに賛同し、活動を推進する行為自体が何ら法令や弁護士倫理に反するものではないからといって、およそ控訴人が違法行為ないし犯罪行為に加担したとか、懲戒処分に値する非違行為を行ったものと一般の読者に受け止められることがないとはいえず、本件投稿は控訴人の社会的評価を低下させるというべきであるとして、プロバイダ側の主張は採用できない、としました。

 大阪地裁は、一般人はこんなんで弁護士が懲戒されるとは思わないから名誉棄損なし、としたのですが、大阪高裁は使われた言葉の否定的な意味や強さから逆の判断をしました。

 大阪高裁がこちらの主張2と主張3を認めたので、主張1や新たに追加した投稿の違法性を判断するまでもなく、情報開示請求は理由があるから認容するとし、逆転勝訴となりました。

この判決から言えること

 この判決は、弁護士業界的には、タレント弁護士がテレビ番組で懲戒請求を呼びかけたことについて不法行為に当たらないとした最高裁判決と同じ規範を使いつつも、呼びかけ行為自体が不法行為となることを示したものといえ、同最高裁判決後の高裁レベルの判決として、重要な一事例となるといえるでしょう。

 また、弁護士業界を超えてみても、この判決は、ブログの呼びかけ行為とそれによって引き起こされた結果との関係が強い場合は、呼びかけ行為自体が違法行為となることを示したものとして重要です。

 特に、近年、フェイクニュースやネットのデマ情報を起点として、大量の悪意が特定の人物に向かうという事態が少なからず生じています。

 この場合、フェイクニュースやデマ情報を拡散しただけであれば結果との結びつきは弱いでしょうが、それらを根拠に、何らかの行為を呼びかければ、それが結果と強い因果関係があると認められると、その呼びかけ行為自体が違法行為とされる可能性があるということです。

制度の改革が必要?

 それともう1つ。発信者情報開示請求の当事者として感じたことは、SNSやブログなど、インターネット上で名誉毀損や嫌がらせなどの被害を受けた場合、その救済の道に非常に時間がかかるのだなぁ、というものです。

 私のこの開示請求は一審で敗訴した事案なので、ある程度の時間がかかることは仕方ないのですが、他の発信者情報開示請求でも、それなりの時間と労力、そして費用がかかります。

 そして、発信者情報が開示されても、それは単なるスタートに過ぎず、そこからその発信者に対する刑事や民事などの責任を問うていくことになるのです。

 これは加害行為の容易性に比べると、被害回復の道があまりに困難であり、著しく不均衡です。被害に遭っても、その回復の道を知って泣き寝入りしている人が多くいるのではないかと推察されます。

 私の専門は労働事件(労働者側)であるのでより強く思うのですが、発信者情報開示請求事件にも、労働事件でいう労働審判のような手続きを導入したらどうだろうか、と思います。

 労働審判は3回・3か月以内で終わる手続です。発信者情報開示請求にも似たような制度を入れれば、労働事件が労働審判手続きの導入によってその数が2倍に増えたように、泣き寝入りしない当事者が増えるものと思います。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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