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「成果型労働」「成果で評価する」という誤報が止まらない

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
正確に報じてもらいたいですね。(写真:アフロ)

 労働組合の連合が、残業代ゼロ法案に賛成に転じた?!という報道から、意外なタイミングで再び脚光を浴びている残業代ゼロ法案ですが、その法案の報じ方が、やっぱりちょっとひどいので、改めて解説しておきます。(※連合の件については別の記事で書くので、本稿では触れません)

 ちなみに2年ほど前にも同じこと言いました。→【法案版】「定額働かせ放題」制度・全文チェック!~「成果に応じた新たな賃金制度」との誤報も列挙!

報道を見てみよう

まず、NHK

働いた時間ではなく成果で評価するとして、労働時間の規制から外す制度を盛り込んだ労働基準法の改正案

出典:労働時間の規制外し 慎重意見相次ぎ協議継続 連合

 トップバッターのNHKは「働いた時間ではなく成果で評価する」と報じていますが、この法案にそのような制度は全く一切入っていません

書いていない点については、全文チェックした記事をご参照ください。→【法案版】「定額働かせ放題」制度・全文チェック!~「成果に応じた新たな賃金制度」との誤報も列挙!

次、毎日新聞

所得の高い一部の専門職を労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)・・(中略)・・成果型労働制ともいわれる高プロ

出典:再延期へ 連合「成果型労働」結論出ず

 毎日新聞は、後退しました。

 「成果型労働」と表現すること自体、絶対、法案を読んでないだろ!とツッコミたくなります。

 2年前は良かったんですが、一体何があったのでしょうか・・・。

 優秀な記者が異動してしまったのでしょうか・・。

 事情は分かりませんが、とても残念です。

日本経済新聞は、

「脱時間給」(ホワイトカラー・エグゼンプション)制度を含む労働基準法改正案

出典:連合、脱時間給への対応「見極めついていない」 中央執行委で

そして、読売新聞も、

「脱時間給」(高度プロフェッショナル)制度の関連法案

出典:「脱時間給」制度法案の修正、経団連会長が容認

 日経と読売の「脱時間給」コンビは健在ですね。

 他の報道機関は絶対に使わないこの文言を使い続けています。

 ちなみに、「脱時間給」というのは、残業した場合に残業代を払わないという意味での「脱時間給」です。

 なぜなら、現行法でも、定時より早く帰った場合に給料を満額出すことは何の規制もありませんので、やろうと思えば実現できますからね。

 その意味で、まるでこの法案が通れば早く帰っても給料が満額もらえる制度が導入されるかのような印象を与える言葉ですね。

 なお、字数の関係か、2年前にはついていた枕詞「成果に対して賃金を払う」が抜けています。

産経新聞は、

高収入の一部専門職を労働時間の規制から外し、成果型賃金にする「高度プロフェッショナル制度」を盛り込んだ労働基準法改正案

出典:連合「脱民進」を加速 蓮舫氏、窮地に

 成果型賃金が導入されないことは先ほど指摘しました。

 「成果型賃金にする」と断定しているのが、痛々しい気がします。

 法案のどこに書いてあるのでしょうか?

 産経新聞のこの記事を書いた記者は何を見てこのように書いたのか、とても不思議です。

 こうした報道に対し、ちゃんと報道する報道機関も2年前に比べれば多くなりました。

朝日新聞

専門職で年収の高い人を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」

出典:「残業代ゼロ」連合執行部、了解得られず 産別など反対

東京新聞

一部専門職を残業代支払いなど労働時間規制から外す新制度を含む労働基準法改正案

出典:連合 神津会長に続投案 「残業代ゼロ」政労使合意「議論継続」

 朝日と東京新聞は労働時間規制から外す制度である、という点、しっかり書いていますね。

サンケイビズ

一部専門職を残業代支払いなど労働時間規制から外す新制度を含む労働基準法改正案

出典:残業代ゼロ法案、議論継続 連合会長、修正めぐり見極めつかず

 産経新聞はああなのに、サンケイビズは正確に書いているところが、謎なのですが、とにかくサンケイビズはちゃんと書いています。

日本テレビ

いわゆる「残業代ゼロ」制度を盛り込んだ労働基準法改正法案・・(中略)・・裁量労働制の対象拡大や、年収1075万円以上で高度な専門知識を持つ人を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」を盛り込んだ労働基準法改正案

出典:労基法改正に連合会長「現在の法案に反対」

 日本テレビはかなり正確です。裁量労働制にも触れているところがいいですね。

岩手日報(たぶん、共同通信?

一部専門職を残業代支払いなど労働時間規制から外す新制度を含む労働基準法改正案

出典:連合、政労使合意は「議論継続」  「残業代ゼロ法案」修正で

 これも正確です。

 2年前に比べるとちゃんと報道しているところは増えた印象です。

 ちなみに、日本労働弁護団はエグゼンプションを「成果に応じた賃金制度」と喧伝することに抗議する声明を出して、報道のあり方を批判しています。

こうした指摘は他にもあります。

「残業代ゼロ法」を「時間では無く成果に応じて賃金を支払う制度」と報じる罪深さ

新聞各社の誤報について 「残業代ゼロ」

 本法案をどう表現するか、メディアは頭を悩ませているのかもしれません。

 しかし、本法案に含まれていないことを含まれているかのように報じるのは、さすがに問題です。

 こうした報道は誤報といってもいいのですが、何度指摘しても、一部メディアの誤報は止まりません。

この法案の核心は「定額働かせ放題」にある

 私が代表を務めるブラック企業被害対策弁護団では、この法案を定額働かせ放題法案と呼んでいます。

 この法案の危険性は次の動画でまとめてありますので、お時間のある方は是非ご覧ください。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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