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アンバー・ハードを映画からクビにできなかったのは、イーロン・マスクの脅しのせいだった

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「アクアマン」ロケ地のシドニーで目撃されたふたり(写真:Splash/アフロ)

 昨年のジョニー・デップとアンバー・ハードの名誉毀損裁判で、DCのスーパーヒーロー映画「アクアマン」とその続編は、何度か上がった話題のひとつだ。

 続編「アクアマン/失われた王国」で自分の出番が減らされたのは、デップの弁護士アダム・ウォルドマンが自分の名誉を毀損する発言をしたからだとハードは主張。しかし、当時、ワーナー・ブラザースでDC映画部門のトップを務めたウォルター・ハマダは、それは関係ないと否定。問題は主演のジェイソン・モモアとそのお相手メラを演じるハードの釣り合いの悪さだとし、続編ではメラを別の女優に演じさせることも検討したとも、ハマダは明かした。だが、実際に新たな女優がオーディションに呼ばれることはなく、続編はモモアとハードではなく、モモアとパトリック・ウィルソンに焦点を当てる形で作られることになっている。

 ハードのせいで1作目の編集作業に苦労させられることになったというのに、なぜクビにすることをためらったのか。そこが裁判で問われることがなかったが、実はその裏にパワフルな人物の存在があったことが今になってわかった。

 その人物は、イーロン・マスク。「Variety」が報じるところによると、「アクアマン」が公開されてまもなく、ワーナー・ブラザースと監督のジェームズ・ワンは続編からハードを降板させると決め、ハードの弁護士にそう通達したのだという。すると、それを知ったマスクが、そんなことをしたらスタジオをめちゃくちゃにしてやると脅す手紙を送りつけてきたのだ。

 ハードとマスクは2016年5月にハードがデップに対する離婚申請をした直後ごろから噂になり、翌年春には赤い口紅のキスマークを頬につけたマスクがハードの隣に座っている写真がインスタグラムに投稿されて交際が公になった。その後、一度別れるも復活し、また破局。ハードの妹ウィットニー・ヘンリケスの元雇用主で、ハードについてもよく知っているジェニファー・ハウエルという女性によれば、ハードと一緒に作った受精卵の破棄を求めてマスクが訴訟を起こしたこともある。

 今月発売になった公式伝記本「イーロン・マスク」にも、ハードとの関係についてのくだりは出てくる。同書によると、マスクにとって「女性との関係はいつも精神的な乱高下を伴う」のだが、ハードは中でも「最も難しかった」相手で、マスクは「1年以上も暗い闇に引き込まれて辛い思いをした」。マスクの弟も、本の中で、「イーロンはひどい仕打ちをしてくる人に惹かれるんですよ。みんな間違いなく美人なんですけれど、同時にすごく暗黒面を抱えていて、猛毒だっていうことはイーロンもわかっているんですが」とコメントしている。そんなマスク本人は、「すごく愛しているんです」と語り、まだ未練があることを認めている。

シドニー空港にいるマスクとハード
シドニー空港にいるマスクとハード写真:Splash/アフロ

 同書には、出会いはロバート・ロドリゲス監督の「マチェーテ・キルズ」で、その翌年にハードからスペースXを見学したいと連絡があり、ハードがデップに離婚申請をする直前に行われた2016年5月のメット・ガラで再会してデートをするようになったとある。しかし、実際には、ハードとデップが結婚している時からふたりは関係を持っていた。デップがイギリスのタブロイドを相手に起こした2020年の裁判で、ロサンゼルスにデップが所有するペントハウスの受付の男性は、2015年、夜遅い時間にマスクが頻繁にハードを訪ねてきていたと証言している。その男性によれば、マスクが来るのはいつもデップがロサンゼルスを留守にしている時。最初の頃、ハードは「イーロンが来るのでビルの駐車場に車を停められるようにしてあげて」「(デップとハードの家がある)最上階までのエレベーターに乗れるようにしてあげて」と受付に電話をかけてきたが、そのうちマスクはエレベーターに乗るためのスマートキーを所持するようになり、自分で出入りできるようになったという。

 さらに、昨年のアメリカの名誉毀損裁判で、ハードの親友ラケル・ペニントンの当時の恋人ジョシュ・ドリューは、ハードとデップが結婚している時、ハード、マスク、女優カーラ・デルヴィーニュが3人でセックスをしたとペニントンから聞いたとビデオ録画で証言している。裁判ではその部分がカットされたが、ドリューがそう証言する映像はメディアやソーシャルメディアに広く出回っている。

そもそも役を得られたのはデップのおかげだった

 そもそもハードが「アクアマン」のメラ役を得られたのは、当時の夫デップのおかげだった。「チャーリーとチョコレート工場」「ダーク・シャドウ」「ブラック・スキャンダル」など、複数のワーナーの映画で主演を務めたデップは、妻が「アクアマン」のオーディションを受けた後、スタジオのトップ3人に個人的に電話をかけたのだ。裁判でその話が出たのは、ハード側がデップのことを、ハードが映画に出るのを邪魔しようとした嫉妬深い男と描写したせいである。そんなハードの弁護士に、デップは「彼女がどうやって『アクアマン』の役を取ったのか知っていますよね」と軽く言い返し、後日あらためてデップの弁護士がこの件についてデップに証言させたのだ。

 そうやってデップの力で役を得たハードは、その役を失いそうになると、デップを裏切って関係を持った相手であるマスクの力で役をキープした。しかし、デップ支持者の間では、DV加害者であると証明されたハードを「アクアマン/失われた王国」に出すなという声があいかわらず強い。また、「Variety」の記事には、主演のモモアがハードのインスタグラムのフォローをやめただけでなく、ハードからフォローされるのをブロックしたともあり、共演者からもサポートを得られていないようだ。

 12月の公開が近づくにつれ、映画の中のハードの存在とその裏話は、ますます話題を集めていくかもしれない。今はまだ俳優のストライキが続いており、俳優たちは宣伝活動ができないが、その頃までに終わっていれば、その部分についてもスタジオは頭を悩ませることになるだろう。果たしてハードは表に出てくるのだろうか。それ以前に、そこまでして彼女を出した映画の出来はどうなのか。そこについては、さすがのマスクも力が及ばなそうだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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