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「セックス・アンド・ザ・シティ新章」、サマンサはどう戻ってきたのか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
第2シーズン最終回にカメオ出演したキム・キャトラル

*この記事には「AND JUST LIKE THAT.../セックス・アンド・ザ・シティ新章」第2シーズン第10話、第11話のネタバレが含まれます。

 楽しみにしてきた瞬間が、ついに訪れた。

 オリジナルの「SEX AND THE CITY」放映時からキャリー役のサラ・ジェシカ・パーカーをはじめとする主要キャストとの間に摩擦があった事実が公になり、2021年末に配信開始した「AND JUST LIKE THAT.../セックス・アンド・ザ・シティ新章」には声がかからなかったキム・キャトラルが、第2シーズンにサマンサとしてまた姿を現すと報道されたのは、シーズン開始前の今年6月。キャトラルがそのシーンを今年3月にニューヨークのスタジオの駐車場で撮影したこと、パーカー、ミランダ役のシンシア・ニクソン、シャーロット役のクリスティン・デイヴィス、プロデューサーのマイケル・パトリック・キングとは一切顔を合わさなかったこと、そのシーンが出てくるのはシーズンの最終回であること、キャトラルの衣装はオリジナルの「SEX AND THE CITY」と映画2本を担当したパトリシア・フィールドが手がけることは、その時からわかっていた。

「AND JUST LIKE THAT...〜」第1シーズンは、暗いトーンで、多様性への努力があるのは良いがぎこちなく、ファンの間でいまひとつ評判が悪かっただけに、誰よりもユーモアとセックスを持ち込んでくれたサマンサが戻ってくることに、ファンは大喜び。それならば引き続き第2シーズンを見ようかと思った人は、少なくなかっただろう。

 まず、「AND JUST LIKE THAT...〜」がサマンサをどう扱ってきたのかを軽くおさらいしよう。第1シーズンの第1話で、サマンサはロンドンに引っ越したことが明かされる。サマンサを広報担当者に雇っていたキャリーが、もうその役目は不要になったので契約を切ったことに怒って彼女は移住を決めたのだ(その理由にも説得力がないとファンは不満を漏らしている)。第1シーズンの間、キャリーとサマンサはたまにテキストメッセージのやりとりをし、ふたりは断絶こそしていないものの、わだかまりがあることを感じさせる。しかし、最終回でふたりは会う約束をして、関係修復への希望を匂わせた。

 第2シーズンではテキストメッセージの交換もなく、サマンサについての話もほとんど出てきていない。だから、彼女から突然電話がかかってきたのは、キャリーにとっても驚きだったのだ。

この最後の晩餐にサマンサもサプライズ出席するつもりだった
この最後の晩餐にサマンサもサプライズ出席するつもりだった

 サマンサが電話をしてきたのは、キャリーがひとりで家にいる時。ずっと住んできた愛着のあるアパートメントを売ることにしたキャリーは、仲の良い人たちを招待して最後の晩餐を開く計画を立てたのだが、サプライズでミランダとシャーロットがロンドンにいるサマンサを呼んでいたことを、その時初めて知る。だが、フライトが3時間遅れたせいで出席できなくなってしまったと、空港を出る車の中からサマンサは事情を説明。そしてキャリーに「スピーカーモードにして、携帯を掲げて」と言い、キャリーのいる部屋に向かって「素敵なアパートメント、いろいろありがとう」と感謝の言葉を贈る。それを聞いてキャリーが「サマンサ、イギリス英語になってない?」と言うと、サマンサは「サマンサって誰?私はインドのアナベル・ブロンスタインよ」と冗談を返す。これは、オリジナルシリーズでサマンサがアナベル・ブロンスタインという名のイギリス人になりすまし、会員制のソーホー・クラブに入ろうとしたエピソードに絡むものだ。最後にサマンサは「楽しい夜を」と言って、携帯にキスをする。

 このシーンが登場するのは、この回のはじめのほうで、長さにして1分ほど。意外にあっさりだった感じはあるが、それでもサマンサが元気にしていて、少なくともスクリーンの中ではキャリーたちとまた仲が良くなった様子を見られたのは嬉しい。

スタンフォードのその後についても明かされる

 ところでこのシーズンは、やはり出られなくなったもうひとりのキャラクターのその後も語られた。アンソニー(マリオ・カントーネ)の夫で、キャリーの長年の親友であるスタンフォード(ウィリー・ガーソン)だ。

 ガーソンは第1シーズン撮影中に亡くなってしまい、ドラマの中ではクライアントであるTik Tokのスターに付き添って日本に行ったということにされて、そのままになっていた。第10話で、キャリーはアンソニーを自宅に呼び出し、スタンフォードから届いた最近の写真を見せて、彼が京都で住職になったと伝える(キャリーは、『神道』とも、『お寺』とも言っている)。クライアントと喧嘩をし、クビにされて、泣きながら京都のお寺回りをしているうちに、心が清められていくのを感じたのがきっかけだそうだ。

 夫であるアンソニーに直接言わなかったのは、ばかにされると思ったからだという。そう言われてアンソニーは「実際、今ばかにしちゃったしね」と認める。これからの自分の生活には不要なので、ニューヨークにある家も、そこに残してある私物も、すべてアンソニーに譲渡すると、手紙を通じてスタンフォードは伝えた。そんなスタンフォードのために、キャリーとアンソニーはコスモポリタンで乾杯をする。

スタンフォードに乾杯をするキャリーとアンソニー
スタンフォードに乾杯をするキャリーとアンソニー

 ポジティブな人生を見つけたという形でスタンフォードの話が幕引きをしたのは、素敵なこと。若い男性との間に恋が芽生えつつあったアンソニーも、これで前に進んでいくことができる。だが、サマンサについては道が開かれたままだ。第2シーズン最終回の配信に先立ち、第3シーズンの製作が正式発表されたが、次のシーズンもまた彼女の出演があったりするのだろうか。この役をもう演じる気はないと以前からキャトラルは言ってきているものの、今回の反響の大きさに気分を良くして、カメオ出演ならばもう一度やってもいいと思うかもしれない。

 いずれにしても、第2シーズンは第1シーズンよりずっと向上し、オリジナルの「SEX AND THE CITY」らしくなったので、続きができるのは大歓迎だ。だが、現在ハリウッドでは脚本家と俳優のストライキがまだ続いている。第3シーズンを少しでも早く見られるためにも、ストライキの解決を望みたい。

場面写真:2023 Warner Bros. Discovery, Inc.

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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