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「セックス・アンド・ザ・シティ」エイダン役俳優、最初は出演を断ったワケ

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(c) 2023 Warner Bros. Discovery Inc.

「AND JUST LIKE THAT.../セックス・アンド・ザ・シティ新章」に、エイダン(ジョン・コーベット)が戻ってきた。オリジナルのテレビシリーズ放映中、ファンはクリス・ノース演じる「ミスター・ビッグ派」と「エイダン派」に分かれたが、最後にキャリー(サラ・ジェシカ・パーカー)はミスター・ビッグと落ち着く。エイダンはエイダンで、キャリーとミスター・ビッグが結婚するよりずっと先に同業者の女性と結婚し、子供を授かった。

 キャリーにさんざん傷つけられたにもかかわらず、2度の偶然の再会で、エイダンは彼女に優しく、いやそれ以上に、接している。そして、ミスター・ビッグが亡くなり、彼が妻と離婚した今、エイダンはまたキャリーの人生に戻ってきたのだ。彼との関係に確かなものを感じているキャリーは、「ビッグは大きな間違いだったのかしら」とすら言う。今度こそふたりはハッピーエンドとなるのか。

 興味深いことに、最初、エイダンはこんなに重要なキャラクターになる予定ではなかった。エグゼクティブ・プロデューサー/脚本家/監督のマイケル・パトリック・キングは、ミスター・ビッグとまるで違うタイプの男性として、第3シーズンに3話だけ登場させるつもりだったのだ。だが、コーベットは短いゲスト出演に興味がなく、そのオファーを断った。月々の会費が必要なプレミアムケーブルチャンネルHBOに加入していなかったコーベットは、番組を見たこともなかったのである。それでキングはビデオテープを送ったのだが、今度も答は「ノー」。理由のひとつは、ヌードが要求されること。息子が出演するものを全部見る母に見られることを気にしたのだ。

 それでもキングがぜひ会ってほしいと粘るので、カリフォルニア在住のコーベットは、無料のニューヨーク旅行くらいのつもりでミーティングに出ることにした。そしてキングの家で、キング、パーカーのふたりと会うと、コーベットはたちまち意気投合。この人たちともっと時間を過ごしたいと感じた彼は、エイダン役を引き受けると決めたのである。

「AND JUST LIKE THAT...」第2シーズンで、キャリーとエイダンのロマンスは再燃。(c) 2023 Warner Bros. Discovery Inc.
「AND JUST LIKE THAT...」第2シーズンで、キャリーとエイダンのロマンスは再燃。(c) 2023 Warner Bros. Discovery Inc.

 いざ撮影が始まると、パーカーとコーベットのスクリーン上の相性は最高で、キングは大満足。3話だけの出演だったはずが4話になり、5話になりと、コーベットの出演回数は、予定より増えていった。登場する最後の回でエイダンはキャリーから去っていくが、エイダンを呼び戻してほしいと望むファンの声は強く、キングは第4シーズンにも彼を出すことにする。さらに、第6シーズンの初めにもサプライズでの登場があり、映画「セックス・アンド・ザ・シティ2」(2010)の後半にも登場することになった。3回だけ演じるはずだったこの役は、コーベットのキャリアにおいて、最も人々に知られる役となったのだ。

 そのイメージがつきすぎたことには複雑な気持ちもあるようだが、今回、「AND JUST LIKE THAT.../セックス・アンド・ザ・シティ新章」第2シーズンに声がかかったのは歓迎だったようだ。「New York Times」に対し、コーベットは、かつての共演者が「AND JUST LIKE THAT...」を撮影している写真を目にするたびに、「カメオ出演のために戻ってきてと声をかけてもらえなかった自分はちょっと嫉妬してしまった」と語っている。ついに声がかかると、それはカメオどころか、おそらく今後のストーリーを左右すると思われる、重要な役割を与えられたというわけだ。

来月北米公開予定の「My Big Fat Greek Wedding 3」の一場面。(c)2023 Focus Features, LLC
来月北米公開予定の「My Big Fat Greek Wedding 3」の一場面。(c)2023 Focus Features, LLC

 コーベットのもうひとつの代表的な役は、映画「マイ・ビッグ・ファット・ウェディング」(2002)のイアン。無名女優だったギリシャ系のニア・ヴァルダロスが、ギリシャ系でない男性と交際にした実体験をもとに脚本を書き、主演も務めたひとり芝居が、やはりギリシャ系であるリタ・ウィルソンの目に止まり、彼女と彼女の夫トム・ハンクスのプロデュースで映画化されたものだ。わずか500万ドルの予算で製作されたこの映画は、全世界で3億6,800万ドルを売り上げる大ヒットとなり、2016年には続編「My Big Fat Greek Wedding 2」(日本未公開)も公開された。そして来月は、「My Big Fat Geek Wedding 3」の北米公開が控える。

 コーベットはエイダンを23年、イアンを21年演じてきた。2023年は、その両方のキャラクターに立ち戻る年となったわけである。彼にとっては感慨深いものがあるのではないだろうか。人々に愛されるこれらのキャラクターを、私たちもまたずっと見つめていきたい。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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