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ヒュー・グラントは「最低の人」?オスカーレッドカーペットでの受け答えに批判と擁護の声

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
昨夜のオスカーでアンディ・マクダウェルと共にプレゼンターを務めたヒュー・グラント(写真:REX/アフロ)

 昨年のような生中継中の暴力事件もなく(というか、それが当たり前なのだが)、無事に終わった今年のオスカー授賞式。だが、授賞式が始まる前のレッドカーペットでは、あるセレブの行動に、ソーシャルメディアではちょっとした論議が巻き起こった。

 授賞式が始まる前のカウントダウン番組で、オフィシャルインタビュアーが会場に到着したセレブに短いインタビューをするのは恒例であり、見どころのひとつ。今年もヴァネッサ・ハジェンズとアシュレイ・グラームが離れた場所で待機し、交代でスターを捕まえてはインタビューをした。質問内容は、着ているドレスのことや今の気分など、典型的なもの。スターはみんな、にこやかに、そして無難に、この通例の儀式をこなす。

 だが、昨夜のヒュー・グラントはそうじゃなかったのだ。

 グラームから「あなたはオスカーのベテランで、何度か来ていますよね。あなたにとってオスカーで一番楽しいことは何ですか?」と最初の質問を投げかけられると、グラントはちょっと黙った後に、苦笑するような表情で「たくさんの人がいるよね。『Vanity Fair』だ」と答えた。グラントが意味したのは、ロンドンの上流階級を風刺するサッカレーの長編小説「虚栄の市」のこと。しかし、グラームは、それを雑誌「Vanity Fair」が主催するアフターパーティのことだと思い、「ああ、『Vanity Fair』(のパーティ)ですね。楽しいですもんね」と言う。

 次にグラームは、「今日、一番見たいものは何ですか?」と聞いた。するとグラントは仏頂面で、「見たいもの?」と聞き返す。「ええ、受賞してほしい人とか、映画とかです」とグラームはフォローするも、グラントの答は、「とくに誰も」。

 そのひとことで終わってしまったので、グラームは、「じゃあ、今日、あなたが着ているのは?」と聞いた。グラームはもちろんブランドの名前を聞いたのだが、グラントは「僕のスーツ」と、あっさり。グラームが「誰が作ったんですか?あなた自身が作ったわけではないですよね?」と突っ込むと、「覚えていない。僕の仕立て屋だ」。

 そこでグラームはまた話題を変え、「『ナイヴス・アウト:グラス・オニオン』はすばらしい映画でした。私はスリラーが大好きなので。あの映画の撮影はどれほど楽しかったのでしょうか?」と聞いた。それに対して、グラントは、「僕はほとんど出ていないよ。3秒くらいしか出ていない」。

「それでもあなたは撮影現場に行ったのですよね。そこで楽しんだんですよね?」とグラームは食いついたが、「まあね」で終わった。グラントが取材を嫌がっていることを十分肌で感じたグラームがそこで諦め、「お話できて楽しかったです」と会話を終えると、グラントは待ちきれなかったとでもいうかのように、さっさとその場を立ち去っている。

「そこにいたくないなら家に帰れば?」と批判の声

 そのやりとりは、テレビで見ていてもかなり居心地が悪かった。一生懸命会話を弾ませようと笑顔で頑張っているグラームがなんとも痛々しく、運の悪いスターに当たってしまったものだと同情してしまうのだ。

 そう感じた人は少なくなく、ソーシャルメディアには「ヒュー・グラントは最低な奴。なぜインタビューを受けることを承諾したのか」「オスカーで最悪のインタビュー。ヒュー、そこにいたくないなら家に帰れば?」「ヒュー・グラントが究極の無関心を見せた」などという、グラントに対する批判が寄せられた。グラントをインタビューしたことのある人からは、「アシュレイ・グラーム、心配しないで。だから僕らは彼を生でインタビューするのは好きじゃないんだよ。彼のナンセンスを我慢しながらやらないといけないからね」「僕は一度ヒュー・グラントをインタビューしたことがあるが、僕の長い質問に対し、彼は『金のためにやっているだけだから』と言った」などという声も上がっている。ひどい扱いに耐えたグラームに対しては、「よくやった」「あれだけでもギャラをもらう価値がある」という褒め言葉が見られる。

 一方では、「みんなヒュー・グラントが失礼な人だと投稿しているけれど、それは違う。そう思う人は彼を知らないんだ。馬鹿な質問をしたから馬鹿な答が返ってきただけ」という指摘も。別の人は、小説に例えるセンスの良い答をしたのにアフターパーティに行くのを楽しみにしていると勘違いされた段階でグラントは白けてしまったのではと憶測する。また、グラームも映画を見たと言うのであれば、グラントが「ナイヴス・アウト:グラス・オニオン」に一瞬しか出ないのは知っていたはずで、その質問に対する彼の答は「まっとうだ」と弁護する人もいる。だが、それらの声に対してはさらに、俳優なのだし、2分あるかないかのインタビューくらい機嫌よくこなすべきだったとの反論が出て、論議は続く。

肝心の授賞式ではユーモアを発揮

 しかし、肝心の授賞式では、グラントのウケは良かった。

 昨夜のオスカーに、グラントはプレゼンターとして出席。「フォー・ウェディング」(1994)で共演したアンディ・マクダウェルと一緒に舞台に上がったグラントは、「僕らはここでふたつのことをやろうとしています。ひとつめは、良質のモイスチャライザーの大切さを語ること。アンディは過去29年、ずっと使ってきましたが、僕は人生で一度も使ったことがありません」と言い、だからマクダウェルは今も綺麗なのに自分は醜いのだと、自虐的なジョークで会場を笑わせたのである。

 これに対しては「ドライでウィットに満ちたイギリスのユーモア。最高」「面白い。笑った」など、好意的な感想が寄せられた。レッドカーペットにもそのユーモアのセンスを持って挑んでいたら、批判されることにならずに済んだはずなのだが。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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