Yahoo!ニュース

両親と大の仲良し。「トップガン」ハングマン俳優の意外な素顔

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ハングマンを演じるグレン・パウエル

「トップガン マーヴェリック」が、全世界で大ヒットデビューを果たした。この週末、今作は北米で1億5,600万ドルを売り上げ、「パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド」を抜いてメモリアル・デーの興行成績新記録を達成。全世界興行収入でも、トム・クルーズの個人記録を塗り替えている。

 タイトルにも明らかなように、今作のスターはまぎれもなくマーヴェリックを演じるクルーズ。だが、マーヴェリックが指導する若手のパイロットたちも、大きな魅力を添えている。中でもとびきり光るのが、ハングマンを演じるグレン・パウエルだ。

 ハングマンは傲慢でちょっと鼻につくが、パウエル本人は明るく、ユーモアのセンスがあり、人懐っこい人。両親とも、とても仲が良い。筆者が初めてパウエルをインタビューしたのは、2018年の「ガーンジー島の読書会の秘密」がロンドンでプレミアされた時のこと。ラウンドテーブルと呼ばれるグループ取材形式で、4、5人の記者がいる部屋にタレントが順番に入ってくるのだが、パウエルは両親を連れて入ってきたのである。子役ならともかく、まさか大人の俳優が取材に両親を連れてくるとは思いもしないので、筆者も、ほかの記者も、パブリシストかスタジオの関係者か何かと思っていた。そうしたら、パウエルが「これが僕の両親なんだ」と紹介してくれたのだ。ご両親は、自分の息子が世界各国の記者からインタビューを受けるのを見て、純粋に楽しんでいた様子だった。

 そして今月頭、「トップガン マーヴェリック」のためにサンディエゴでまたパウエルに会った時、「前回はご両親にもお会いしました」と言うと、彼は「両親は今日もここにいるよ。パパ、ママ、ロンドンで会った人だよ!」と、カーテンが仕切られた部屋の向こうでモニターを見ているらしいご両親に向かって呼びかけてくれている。取材が終わった後にも「パパ、ママ、この人が帰るよ!」と呼びかけ、お父様がご丁寧にも挨拶しに出てきてくださった(お母様はたまたま席をはずされていたようで、今回はお会いできなかった)。

 彼らは撮影現場にも時々訪ねてきていたようで、バーのシーンにエキストラとして出ているそうである。「僕はこの映画のことをとても誇りに思っているけれど、両親が出ていることも同じくらい誇りに感じているんだ」と、嬉しそうにパウエルは語っている。

「ガーンジー島の読書会の秘密」ではリリー・ジェームズの恋のお相手のひとりを演じた
「ガーンジー島の読書会の秘密」ではリリー・ジェームズの恋のお相手のひとりを演じた

 パウエルはテキサス州オースティン生まれの33歳。子供の頃からたくさんの映画を見て育った。

「『インディ・ジョーンズ』は、父と一緒に何度も見た。あの映画は大好きだ。スピルバーグの映画も好き。『ジョーズ』も何度も見たけれど、本編よりもメイキングの映像をもっと見たと思う。スピルバーグがサメを作る様子がすごく興味深くて」。

 初めて出た映画は、オースティンで撮影されたロバート・ロドリゲス監督の「スパイキッズ3-D/ゲームオーバー」。テキサス大学オースティン校で学んだ後、本格的に俳優を目指すべくロサンゼルスに移住した。そんな彼を、ご両親は温かく見守ってくれたという。

「同じようにロサンゼルスに出ていって、うまく行かず帰ってきた人を僕らは見てきている。だから僕も本当に俳優でキャリアを築けるのか、自信はなかった。だけど、両親はずっと僕を支え続けてきてくれたんだよ。こうやって今、なんとかうまくいったことに、僕らは驚いている。この調子が続いてくれるといいんだけど」と、「ガーンジー島〜」のインタビューで、パウエルは語っていた。

Netflix映画「セットアップ:ウソつきは恋のはじまり」にも出演
Netflix映画「セットアップ:ウソつきは恋のはじまり」にも出演

 そしてその後、パウエルは、「トップガン〜」のハングマン役を手にすることになったのだ。ただし、彼はこのオファーに飛びついたわけではなかった。この映画の2番目の主役であるルースターの役でオーディションを受けていた彼は、その役にマイルズ・テラーが選ばれたことに心からがっかりしたのである。

「自分には才能を見抜く才能がある」と自認するプロデューサーのジェリー・ブラッカイマーは、パウエルはルースターでなくハングマンにぴったりだと、オーディションを見ながら思っていた。だが、その段階でハングマンの役はまだしっかり書かれていなかったこともあって、パウエルは2週間ほど、どう返事をするものか迷った。そんな彼を説得してくれたクルーズとブラッカイマーに、パウエルは感謝している。

「あの2週間は、僕の人生で一番混乱した時期だった。だけど、トム・クルーズとジェリー・ブラッカイマーという僕のヒーローが、僕のためにキャラクターを作っていきたいと言ってくれたんだ。そんな夢のようなことが起こったんだよ。イエスと言って本当に良かったと、今、心から思う。こんなに良い映画を断っていたとしたら、後悔してもしきれなかっただろうね」。

 ブラッカイマーに見抜かれた新たな才能は、ここからどう花を開いていくだろうか。

「トップガン マーヴェリック」ロンドンプレミアに出席したパウエル
「トップガン マーヴェリック」ロンドンプレミアに出席したパウエル写真:ロイター/アフロ

「トップガン マーヴェリック」場面写真:2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

「ガーンジー島の読書会の秘密」「セットアップ:ウソつきは恋のはじまり」場面写真:Netflix

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事