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「セックス・アンド・ザ・シティ新章」がファンに不評だったワケ

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
第1シーズン最終回の1シーン

*この記事にはネタバレがあります。

「AND JUST LIKE THAT/セックス・アンド・ザ・シティ新章」が、アメリカで終了した。一応、第1シーズンの終了ということになっているが、第2シーズンがあるかどうかは正式に決まっていない。ただ、巨大なファンベースがあるだけあって、今作はHBO Max創業以来、オリジナルシリーズとしては最大のヒットとなっている。サラ・ジェシカ・パーカーとエグゼクティブ・プロデューサーのマイケル・パトリック・キングには続投への意欲もあるようで、第2シーズンの製作についてはおそらく近々発表されることだろう。

 ただ、多くの人に見てもらえたとは言っても、必ずしも満足してもらえたわけではない。ソーシャルメディアには、初回から早速、サマンサ(キム・キャトラル)がロンドンに行ってしまった理由について「サマンサがそんなことで友達を切るなんてありえない」と不満が爆発。不幸にも撮影中に亡くなったウィリー・ガーソンをストーリーから追い出したやり方にも、突然のことだったとはいえ、多くのファンは納得がいかなかった。

ミランダ(シンシア・ニクソン)は新たな恋のお相手チェ(サラ・ラミレス)のために夫を捨てようとする
ミランダ(シンシア・ニクソン)は新たな恋のお相手チェ(サラ・ラミレス)のために夫を捨てようとする

 批判はそこで止まらず、回を追うごとに続々と出てきている。たとえば、ミランダ(シンシア・ニクソン)が新たなキャラクター、チェ(サラ・ラミレス)に恋をして夫スティーブ(デビッド・エイゲンバーグ)を捨てようとしたことには、「スティーブが可哀想」と声が上がった。ニクソン自身、男性とつきあった後に女性と同性婚をしているとはいえ、それは彼女が30代だった頃。オリジナルのシリーズでも、その後に作られた映画2本でも、女性に興味があると匂わせたことが一度もなかったミランダが、55歳になって突然目覚め、あの優しいスティーブと別れようとするということが、どうもしっくりこないのである。

 そして最終回で、チェはL.A.に行くことになり、ミランダに「着いてきて」と誘う。するとミランダは、まるでのぼせあがった乙女のように、一生懸命獲得したインターンシップの座を諦めてでも着いていくと決めるのだ。これも、あまりにもミランダらしくない行動。オリジナルのシリーズでキャリー(サラ・ジェシカ・パーカー)が恋人に着いてパリに行くと決めた時に一番反対したのがミランダだったのに、という指摘は、ツイッターにも見られる。

 こういった細々としたことのほかに、全体的な不満もある。ミスター・ビッグ(クリス・ノース)が急死したというところから始まるというのもあるし、彼女らが歳を取ったというのもあるが、全体的に暗いのだ。オリジナルの番組も、後半になるにつれてシリアスなトピックが入っていったが、ここまでではなかった。サマンサがいないというのも大きいのかもしれない。それに、最初のほうこそ50代なかばになったという事実を正面から堂々と受け入れているのはすばらしいと思えたが、ヒップの手術だのフェイスリフトが必要かどうかだの閉経だのといったトピックが続くと、「50代ってそんなに悲惨じゃないよ」という声が同世代のファンから出てきている。

シャーロットのママ友夫妻を演じるクリス・ジャクソンとニコール・アリ・パーカー
シャーロットのママ友夫妻を演じるクリス・ジャクソンとニコール・アリ・パーカー

 さらに、これでもかというほどの多様性への意識。もちろん、今のハリウッドで多様性は非常に重要で、ここは絶対に避けて通れない。しかもオリジナルの番組は、後になって「ニューヨークなのに白すぎる」と散々批判されてきた。新たに続編を作るとなったら、そこはなんとしても是正する必要があったのだ。

 それで「AND JUST LIKE THAT〜」には多数の有色人種の新しいキャラクターが登場するのだが(エキストラにまでその配慮は見られる)、オリジナルのキャラクターの対応が問題なのである。ミランダやシャーロット(クリスティン・デイヴィス)は、黒人のキャラクターの前で、どういう会話をしていいのかと葛藤するのが非常に不自然なのだ。普通にアメリカに住んでいる人たちは、長年の間にそういうことは少しずつ学んできたものだが、まるで彼女らは(ニューヨークにずっと住んできたのに)まるで今初めて黒人と話す機会を得たかのようで、「前作の最後からタイムトリップしてきたのか?」と揶揄する声も聞かれる。

 そんなふうに文句を言いながらもやっぱり見てしまうもので、「毎週、見るたびにこんな顔になる」と、しかめ顔の写真を投稿するファンもいる。「AND JUST LIKE THAT〜」は果たして必要だったのかと疑問を投げかける投稿も見られるが、第2シーズンが始まれば、結局、みんな見ることだろう。とりあえずキャリーに関しては、第1シーズンは希望を感じさせる形で終わった。ここから少し明るい話が展開していくことを望むばかりである。

場面写真:Craig Blankenhorn/HBO Max

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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