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アレック・ボールドウィンから「イカゲーム」まで。2021年ハリウッド7大ニュース

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
メーガンとハリーのインタビューはテレビ界で今年最大のイベントとなった(写真:ロイター/アフロ)

 2021年も、いよいよ終わり。コロナ禍に見舞われながらも、ハリウッドではいくつもの大きなニュースがあった。そのうちの7つを振り返ってみよう。

7:「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」、予測を上回る大ヒット

 映画館ビジネスは、決して終わっていない。今月17日に北米公開された「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」は、劇場主たちが待ち望んだ、そんなメッセージを伝えてくれた。

 ジョン・ワッツが監督する今作の初週末北米興行収入は、なんと2億6,000万ドル。「アベンジャーズ/エンドゲーム」に次いで史上2番目だ。全世界でも大好調で、世界興行収入は早くも10億ドルに達している。コロナ禍で映画館が閉まっている国もあり、中国、日本ではこれから公開ということも考慮すると、なおさらすごいことである。

 だが、実は複雑な心境を抱える業界人も少なくない。時を同じくして、スピルバーグの「ウエスト・サイド・ストーリー」、ギレルモ・デル・トロの「ナイトメア・アリー」など、批評家に絶賛された大人向けの映画が軒並み苦戦しているからだ。ただでさえ、近年、スタジオはスーパーヒーロー映画や大型アクション映画に重点を置き、大人向けの作品を避けるようになってきている。この顕著な差が、「劇場に向けて作るのは娯楽大作だけ。大人向けの作品は配信で」という傾向にさらに拍車をかけることにならなければいいのだが。

6:AmazonによるMGM買収、ワーナーメディアとディスカバリーの合併

 成長を続ける配信業界の構図に、今年は新たな変化があった。ひとつは、HBO Maxを抱えるワーナーメディアとディスカバリーの合併。新たなCEOにはディスカバリーのデビッド・ザスラフが就任している。もうひとつは、AmazonによるMGMの買収だ。Amazonが支払う金額は84億5,000ドルと報道されている。

 Netflixがトップを走り、Disney+も勢いをふるう中、これらの2社はコンテンツを充実させることで競争力を増そうとした形。これにより、後発のParamount+やユニバーサル傘下のPeacockは、ますます遅れを取ってしまった。業界では、いずれParamount+とPeacockが合併する可能性もあるのではという声も聞かれる。

5:「イカゲーム」、全世界で社会現象に

 今年社会現象を巻き起こした作品を挙げるなら、間違いなく「イカゲーム」だろう。韓国生まれのこのドラマは、9月にNetflixで配信開始されるやいなや世界94カ国で1位を獲得。アクセス数でもNetflix創業以来の最高記録を達成してみせた。アメリカではハロウィンでも「イカゲーム」の仮装が目立ったし、「Saturday Night Live」は、レギュラー出演するピート・デビッドソンとゲスト出演したラミ・マレックによるパロディを放映している。批評家の評判も良く、年明けのクリティックス・チョイス・アワード(旧・放送映画批評家協会賞)や、来年秋のエミー賞でも大健闘が期待されそうだ。

「Saturday Night Live」が放映した「イカゲーム」のパロディ(NBC)
「Saturday Night Live」が放映した「イカゲーム」のパロディ(NBC)

 ここまでの成功は、Netflixも予想しなかったもの。アメリカではほとんど宣伝もしていないのに、ソーシャルメディア、クチコミによって広まっていったのだ。同じ頃、Netflixは、デイヴ・チャペルのスタンドアップコメディショーを収録した1時間番組を配信しているが、こちらには2,000万ドル近くかかっている。しかもこの番組は、LGBTQを差別するようなジョークがあるとして、大バッシングを受けるはめになってしまった。たとえそんなトラブルが起きなかったにしても、アメリカ人コメディアンのスタンドアップの面白さは、言語の違う国では伝わりにくい。市場が限られた作品に大金を払った後、ずっと安く作られた韓国のドラマがもっとヒットしたというわけで、今後、Netflixはますます各国にローカル作品の制作を奨励することになるかもしれない。

4:ブリトニー・スピアーズ、成年後見人制度から解放される

 ブリトニー・スピアーズが、ついに自由を得た。11月、裁判所は、彼女を長年縛りつけてきた成年後見人制度を「不要」と判断したのだ。これでようやく彼女は自立した大人として自分の人生をコントロールできるようになったのである。

 スピアーズが裁判所から成年後見人が必要と命令されたのは、元夫ケビン・フェダーラインと離婚し、精神的に不安定な状態にあった2008年。以後、父ジェイミー・スピアーズが、彼女の資産や仕事のスケジュール、私生活をすべてコントロールしてきた。だが、彼女が回復し、ライブやレコーディングなどで再び大活躍するようになっても状況が変わらなかったことから、ファンの間では「これはおかしいのでは」との疑問がささやかれるように。今年2月に「Framing Britney Spears」というドキュメンタリー番組が放映され、6月にスピアーズ本人がどのようなひどい目に遭わされているのかを涙声で判事に訴えると、このことはファンを超えて国民的関心事となった。

裁判所の前に集まったスピアーズのファン
裁判所の前に集まったスピアーズのファン写真:ロイター/アフロ

 そんな状況だっただけに、彼女が解放されたニュースは、アメリカで祝福ムードをもって迎えられたのだ。そしてスピアーズには、ほかにも祝うべきことがある。ひとつは、今月で40歳になったこと、もうひとつは、4年以上交際してきた13歳年下の恋人サム・アスガリと婚約したこと。スピアーズは、できるだけ早く結婚したいと望んでいるとのことで、来年には彼女のウエディングドレス姿を拝見できるのではないか。

3:ゴールデン・グローブの凋落

 オスカーの次に知名度をもつ賞として注目されたゴールデン・グローブは、この1年で誰にも相手にされない存在になった。きっかけは、今年2月に「L.A.TIMES」が出した、ゴールデン・グローブに投票するハリウッド外国人記者協会(HFPA)についての暴露記事。そこには、非営利団体でありながら会員の多くがさまざまな名目でかなり高額な報酬を受け取っていること、根強い人種差別的文化、問題行動などについて明かされていた。

 長年の間にHFPAに対する不満と疑問を募らせてきていた業界人は、これを機にたまっていた怒りを爆発。トム・クルーズは過去にもらったグローブのトロフィー3つをすべて送り返し、スカーレット・ヨハンソンは仲間たちにHFPAのボイコットを呼びかける。大物スターを抱えるパブリシストらも団結し、HFPAとはかかわらないと決断。Netflix、ワーナーメディアらも同様の宣言をした。

 以後、HFPAには取材の案内、イベントの誘いなど、一切送られていない。授賞式を放映してきたNBCも来年の放映を取りやめると決め、グローブは事実上消滅した。しかし、そんな中でもHFPAは、テレビ放映がなくても強引に賞の発表をするかまえで、ノミネーションを発表している。だが、各映画の新聞広告にも、「グローブに候補入りしました」といううたい文句はどこにもない。賞の発表があろうが、今のハリウッドにおいてグローブは存在しないのだ。

2:メーガン妃とハリー王子、テレビ出演で大騒動

 イギリスの王室を離脱したメーガン妃とハリー王子は、今年、アメリカのテレビを使って大騒動を巻き起こした。

 まずはCBSが、オプラ・ウィンフリーによる夫妻の独占インタビューを放映。アメリカだけで1,700万人が見たこのインタビューは、翌日イギリスでも放映され、海を越えて話題になっている。中でもとりわけ話題を集めたのは、メーガン妃の妊娠中、王室内の誰かが「生まれてくる子はどんな肌の色になるのか」と言ったという事実だ。「#BlackLivesMatter」で人種問題により敏感になっているアメリカ人にとっては聞き逃せないことで、メーガン妃は多くのアメリカ人から同情を集めることになっている。

 一方、イギリスでは、有名司会者ピアース・モーガンが「彼女が言っていることは信じられない」とテレビで発言したせいで、出演番組を降板させられるはめに。モーガンは一部のアメリカ人から人種差別者のレッテルまで貼られるまでにもなったが、その後もくじけずにメーガン妃が言った嘘の数々を指摘し続けるうち、彼の言うことに納得する人たちは徐々に増えていった。

 そして5月には、ハリー王子がウィンフリーと共同プロデュースする「あなたに見えない、私のこと」がApple TV+で配信になっている。メンタルヘルスについてのこのドキュメンタリーシリーズには、ハリー王子自身も出演し、王室にいた頃、いかに精神的に苦しめられたのかを赤裸々に語った。そんな夫妻の様子を見て、今度はメーガン妃から絶縁されている父トーマス・マークルが登場。オーストラリアのテレビに出演した彼は、「ふたりが正しい道を歩いているとはとても思えない。ふたりの究極の目的が何なのかはわからないが、今やっていることは人々の神経を逆撫ですることばかり。これで得するのはオプラだけ。彼らはオプラに利用されているのだ」と、ウィンフリーを批判した。この夫婦と、それぞれの親との愛憎劇は、来年も続きそうである。

1:アレック・ボールドウィン主演映画の撮影現場で実弾が発砲されひとり死亡

 絶対に起きるはずのない、起きてはいけないことが起こってしまった。アレック・ボールドウィンが主演とプロデューサーを兼任するインディーズ映画「Rust」のニューメキシコ州の撮影現場になぜか実弾が紛れ込み、ひとりが死亡、もうひとりが負傷したのである。

 その銃を撃ったのは、ボールドウィン。死亡したのは撮影監督のハリナ・ハッチンス、負傷したのはその隣にいた監督で脚本家のジョエル・ソウザ。彼らはランチ休憩から戻ってきたばかりで、次のシーンで銃をどう構えるべきかを相談していたところだった。興味深いことに、ボールドウィンは、テレビのインタビューで、「自分は引き金を引いていない」と主張している。

 ボールドウィンが使う小道具の銃を用意したのは、武器担当者のハンナ・グテレス=リード。彼女は24歳で、映画の仕事はこれがまだ2回目と、経験が浅い。彼女から受け取った銃をボールドウィンに手渡したのは、助監督のデイヴ・ホールズ。手渡す前に銃の中身を完全に確認することはしなかったと、ホールズは警察の捜査で認めている。

事件後、「Rust」の撮影は中止され、ボールドウィンはニューヨークに戻っている
事件後、「Rust」の撮影は中止され、ボールドウィンはニューヨークに戻っている写真:Splash/アフロ

 28年前には、ブルース・リーの息子ブランドン・リーが撮影中に小道具の銃で撃たれて死亡するという悲劇が起きているが、その時は実弾はからんでいなかった。そもそも、実弾は、現場にあってはいけないものなのである。警察は、それらがどこから来たのか、だいたいのことはつかめているようだ。捜査の結果次第では、関係者の誰かが刑事事件として起訴される可能性がある。だが、ボールドウィンは、先に述べたテレビのインタビューで、「自分が起訴されることはないだろうと思う」と語っている。

 一方で、民事訴訟は早くも2件起こされた。事件当時、現場にいたクルーふたりが別々に起こしたもので、どちらもボールドウィンを被告のひとりに挙げている。ハッチンスの夫も弁護士を雇っており、近々、彼も訴訟を起こすと思われる。この悲劇については、来年もずっと耳にすることになりそうだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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