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シュワルツェネッガーの「ワクチンとマスクは米国民の義務」に賛否両論

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:REX/アフロ)

「マスクを着けない自由はある。だが、その自由を行使する人は最低な奴だ。仲間のアメリカ人を守ることを放棄しているのだから」。

 アーノルド・シュワルツェネッガーが、「The Atlantic」に寄稿した意見記事で、反ワクチン、反マスク派の人々を、そう批判した。アメリカ時間13日に公開されたその記事の見出しは、「嫌な奴になるな。マスクをしろ」。デルタ株のせいでアメリカでも再びコロナ感染者が増える中、いまだにワクチンやマスクをしない人たちに痺れを切らした形だ。

「今週の初め、私はシンプルなメッセージを伝えた。このウィルスは人を死に追いやる。それを避けるにはワクチンを打ち、マスクを着用し、ソーシャルディスタンスを心がけるしかないというものだ」という文で、その記事は始まる。だが、そのメッセージを聞いて、「自由の制限だ」という人たちがいた。そういう人たちに、「自由がどうした」と言ってやりたいのだと、彼は書く。「人を最低と呼んだり、『自由がどうした』と言ったりするのは、たしかに行き過ぎだと認める。だが、それは実際に私が感じていること。私は、アメリカを偉大な国に保つことに最大の情熱を抱いている。それは、私をイラつかせる唯一のことなのだ」と、シュワルツェネッガー。

 そこから彼は、昔からずっと国民にとって自由と義務はセットだったのだと説明を始めた。

「私は学者ではないが、身勝手さと義務の放棄がこの国を偉大にすることはないと知っている。憲法は、全体的な繁栄を促進し、自分たちと子孫のために自由を確保するためにある。この国が生まれた時の書類に、そうあるのだ。自分勝手なことばかり考えていてはいけないのである」。

 そして彼は、アメリカ人に、アメリカに住むことの幸運を思い出してもらいたいと述べる。

「私は移民。この国は私にすべてを与えてくれた。私はよく、自分の力で成功した人と言われる。私は、アメリカのおかげで成功した人だと言うほうを好む。私の成功は、アメリカの精神とアメリカ人の寛大さなしにはあり得なかったからだ。私は、ただ金儲けを続けることもできた。でも、それは自分勝手というもの。この国が偉大であり続けるために、私は自分にできるすべてのことをやるべきだという責任を感じたのである。(中略)だから私は3,000万ドルのギャラをもらえる映画の仕事を無視して、カリフォルニアの州知事をノーギャラで務めたのだ」。

 そのように、国のために自分の責任を果たすことは、ずっと昔からみんながやってきたのだと、シュワルツェネッガーは、戦時中などを振り返りつつ説明。さらに、「別世界のアメリカを作り上げたい人たちがいる。他人に対する責任がないアメリカを。そんなアメリカが存在したことは一度もない」「ジョージ・ワシントンが彼の軍隊に天然痘の予防注射を義務付けた時から、アメリカ人は病気の撲滅のために予防注射を受けることに同意してきたのだ」「私たちは自らを守り、この戦いに勝たねばならない。また経済をストップさせることになってはいけない。私たちの前の世代の人たちがやったようにひとつになり、彼らが捧げたことよりずっと少ないものを捧げなければ。自分たちと世界に対し、私たちは共通の敵のために力を合わせることができるのだと証明しなければならない。なぜなら、コロナはこの世紀にやってくる最大の至難ではないのだから」と続けた。最後は「自分の国のために、あなたは何をするのか?」と問いかけつつ、記事を締めくくっている。

感謝のコメントが多数。ちらほらと中傷も

 ソーシャルメディアには、この記事をめぐって多くの意見が飛び交っている。最も目に付くのは、「よく言ってくれました」「ターミネーターに祝福あれ!」「最近読んだ、最も愛国心にあふれる記事」「あなたは世界中にインスピレーションを与えてくれます」「あなたは多くのアメリカ人よりもっとアメリカ人ですね」といった、シュワルツェネッガーに感謝を送るコメント。逆に、少ないながらも、「オーストリアに帰れ」「映画ではタフガイだが本当は弱虫なんだな」「アメリカ人は君の言うことなんか気にしない。今の君があるのはアメリカに選択の自由があるおかげだ」など、中傷するものも見受けられる。一方では、「私はマスクに抵抗を感じませんが、嫌がる人の気持ちもわかります。政府に命令されるのが嫌なのですよ。マスクから始まってエスカレートするのではと恐れるから」「注射を怖がるのが男らしいと思う人がどうしているのか謎です」「マスクは人生で知った最も窮屈なものという人は、恵まれた人生に感謝するべきですね」など、シュワルツェネッガーに対してでなく、反マスク派、反ワクチン派の人たちについて語るものもあった。

 いずれにせよ、反ワクチン派にとって、アメリカは生きづらいところになってきている。ニューヨークでは、今月なかばから、レストランの室内席、ジム、映画館などの従業員と客に、最低1回のワクチンを接種済みであることを義務付ける。L.A.でも同じルールについての話し合いが進められているところで、サンフランシスコではもっと厳しく、室内施設を利用する人にはワクチンが完了していることを求める方向だ。

 政府の命令を待たず、自主的にワクチン義務化を始めたところもある。カリフォルニア大学は全校において、新学期からワクチンを接種していない生徒はオンラインの講義しか受けられず、学校の行事にも参加できないとした。州や市の職員、病院や学校に勤務する人たちにも、事実上のワクチン義務化がどんどん進んでいる。レストランやバーにも、ワクチンを接種していない客はお断りとうたうところが出てきたし、Netflixをはじめとするいくつかの有名企業も、社員にワクチンを義務付け始めた。

 シュワルツェネッガーに文句をつけるのは、それこそ個人の自由なのかもしれない。その人たちにも、言いたいことを言う権利はある。だが、そこから進化は生まれない。コロナを終わらせたいならば、彼のいうように、社会において自分ができることについて考えてみるべきではないか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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