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ハリウッドの大物ふたりを凋落させたセクシー女優の正体

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
大物を誘惑し、役や金を要求したシャーロット・カーク(写真:Shutterstock/アフロ)

 ハリウッドで、今、28歳のイギリス人女優が突然注目されている。いや、彼女は話題の映画に立て続けに出たわけでも、批評家がびっくりするような名演技をしてみせたわけでもない。政治的発言や人道的活動で人の心を動かしたのでもない。ハリウッドのメジャースタジオのトップ、それもひとりでなくふたりを凋落させた、魔性の女として話題に上っているのだ。

 彼女の名前はシャーロット・カーク。人がその名を初めて目にしたのは、昨年3月、ワーナー・ブラザースのCEOケビン・ツジハラが辞任した時だ。ツジハラは、2013年、オーストラリア人のビリオネアでプロデューサーのジェームズ・パッカーからカークを紹介され、肉体関係をもつようになった。カークはパッカーとも関係があり、ツジハラにも、パッカーにも、自分を映画に出せと要求している。だが、それはなかなかかなわず、彼女は苛立ちも感じていた。「The Hollywood Reporter」が入手した、彼女がツジハラに送った大量のテキストのひとつで、カークは「あなたが忙しいのはわかっているけれど、モーテルでセックスをしている時、私のことを助けてくれると言ったでしょ?なのにこんなふうに無視されて、利用されたように感じている」と不満を述べている。

 その後、カークは、小さな役でワーナーの「オーシャンズ8」と、ワーナー傘下のニューラインシネマの「ワタシが私を見つけるまで」に出演することができた。ただし、「ワタシが〜」に関しては、あまりに自分のせりふが少ないと怒り、「ふたつだけ?嘘でしょ!」とツジハラに文句のテキストメッセージを送ってもいる。

 また、パッカーと、彼のビジネスパートナーであるブレット・ラトナーが、ワーナーと4億5,000万ドル相当の製作契約を取り付けたことにも、彼女は複雑なものを感じたらしい。これが成立したのがカークとツジハラが初めて関係をもった数日後だったため、カークは、「自分はその目的を達成するための最後のひと押しに使われたのね」とテキストを送っている。この契約は、「#MeToo」が勃発し、ラトナーの過去の数々のセクハラが暴露されたことで取り消され、彼らはワーナーの中にかまえていたオフィスからも追い出されている。

 それから15ヶ月経った今週、今度は、NBCユニバーサルの副会長ロン・メイヤーが、突然の辞任をしたのだ。その発表で、彼は、過去に短い期間、不倫関係をもっていたこと、それを知った人からゆすりを受け、会社に打ち明けた結果、このような判断となったと述べている。関係した相手がカークだったとわかるのに、時間はかからなかった。

 メイヤーとカークが関係をもったのは、ツジハラよりも前の2011年とのこと(2012年との報道もある)。メイヤーが66歳、カークが19歳か20歳だった頃だ。出会いの場は、ロンドンでの映画のプレミア。カークはメイヤーに「L.A.に行きたいと思っている」と言い、メイヤーは「L.A.に来ることがあったら連絡して」と返事をした。翌年、彼女は実際にL.A.にやってきて、ふたりは関係をもつ。期間はわずか2週間で、会ったのは2回だけ。彼女の映画出演にもつながっていない。

これは「#MeToo」ではなく自分の選択だと本人が断言

 しかし、昨年になって、メイヤーは、カークに、50万ドル(約5,000万円)を支払うことを約束させられたのである。4回の分割払いで、少なくとも初回の支払いはなされたとのことだ。このお金は、やや複雑である。過去に、カークがパッカーから示談金を取るにあたり、カークはメイヤーにアドバイスを求めたらしいのだが、後になって彼女は「もっと取れたはずだ」と後悔した。これは、その「差額」として、彼女がメイヤーに求めたものだそうである。

 メイヤーは黙って払うことに決めたのだが、それは問題を解決するどころか、さらにひどくすることになった。メイヤーとの過去を知ったカークの元恋人と現在の婚約者が、それぞれに、自分のプロジェクトをNBCユニバーサルで実現してくれなければ過去の出来事をばらすと脅したのだ。元恋人はイギリス人監督ジョシュア・ニュートン、現在の婚約者は昨年の「ヘルボーイ」を監督したニール・マーシャル。さすがにたまらなくなり、メイヤーは、FBIに捜査を依頼したといわれている。

 マーシャルは、この事実を完全に否定。西海岸時間20日に出した声明で、「報道はすべて嘘」と断言している。カークとニュートンは、沈黙を通したままだ。しかし、カークは、ツジハラが辞任に追いやられた直後の昨年4月、Daily Mail TVのインタビューを受けている。そのインタビューで、彼女は、「自分は被害者ではない」と言い、「#MeToo」と関係がないことを自らはっきりさせた。「これは、自分で選んでやったこと。強制されたわけではない。良かれ悪かれ、私は自分のやりたいことをやったの」というカークは、しかし、「自分は若かった」「今なら同じ選択はしない」「こういう形ではなく、役者としての実力で有名になりたかった」とも語っている。

 それは正しい認識だろう。しかし、結果として、彼女は、ゆすって金を取った女優として知られる存在になってしまった。しかも、彼女の手口にうまく乗ってくれた味方の人物は、もう誰もこの業界にいないのだ。ツジハラとメイヤーは辞任に追い込まれ、ラトナーはセクハラで追放されている。パッカーも、もう映画界から足を洗った。これからも女優として生きていきたいならば、彼女は、ほかの女優たち同様、正面から勝負するしかない。それはつまり、もう安易な方法には頼れないということ。この厳しい業界で、彼女がこの醜い過去を打ち消すほどの実力を発揮し、「演技派」として名を知らしめていくことは、果たして可能なのだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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