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事故、手術、火事。困難続きのジェラルド・バトラーが新作にかけた情熱

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:REX/アフロ)

 ジェラルド・バトラーが、楽しそうだ。最新作「エンド・オブ・ステイツ」の出来に、彼は心から満足しているのである。

 映画は、2013年のサプライズヒット「エンド・オブ・ホワイトハウス」、その続編「エンド・オブ・キングダム」に続く、シリーズ第3弾。今作では、大統領のシークレット・サービスを務めてきたマイク・バニング(バトラー)が何者かにはめられ、追われる立場になる。彼と疎遠な関係にあった父が登場し、また彼自身も妻との間に子供をもうけているなど、人間関係が掘り下げられるのも、これまでと違うところだ。

「そもそも、絶対に3作目を作ろうというつもりはなかったんだよ。アイデアの売り込みはあって、それがメディアに漏れたりしたが、『僕らが作るつもりのない映画について、どうして記事にするんだ?』と思っていた。また悪い奴が出てきて大都市が爆破される映画を作ったって、おもしろくはないからね」と、ビバリーヒルズのホテルで、バトラーは振り返る。

シリーズ3作目で、マイク(バトラー)はこれまでとまるで違う危機に巻き込まれる(Jack English)
シリーズ3作目で、マイク(バトラー)はこれまでとまるで違う危機に巻き込まれる(Jack English)

 そんな彼も、脚本家ロバート・マーク・ケイメンが持ち込んだ、今度はマイクが追われる側になるというアイデアには、興味を覚えた。しかし、本当に彼をやる気にさせたのは、10年ほど前から「いつか一緒に仕事をしよう」と言い続けてきたリック・ローマン・ウォー監督の、「ここをとっかかりに、もっと彼の内面を描く話にしていこう」というアプローチだったという。

「ロバートの脚本にもマイクの父は出てきたんだが、そこでの彼は、もっとクレイジーで、映画に楽しさを与えてくれる存在だった。僕とリックは、それをもっと複雑な父子関係にしようと決めたんだよ。愛があり、怒りがあり、相手を支え、でも、疑問もある。そんな込み入った関係。そこからもっと感情が生まれていくはずだと」。

今作にはマイクの父(ニック・ノルティ、左)が登場。ノルティも、バトラーも、昨年秋のマリブの火事で被害を受けた(Simon Versano)
今作にはマイクの父(ニック・ノルティ、左)が登場。ノルティも、バトラーも、昨年秋のマリブの火事で被害を受けた(Simon Versano)

 とは言え、このシリーズのファンを満足させるためには、緊張感あふれるアクションも重要だ。今作にも、そんなシーンはたっぷり用意されている。バトラーにとって、それらのシーンをこなすのは、これまで以上に大変なことだった。今月13日に50歳の誕生日を迎える彼は、そうでなくても「アクションは前よりきつくなっている」と感じていたのだが、それに加え、撮影開始の2週間前に、バイクで事故を起こしてしまったのである。

「その事故で足を骨折してね。手術も、1回で済むと思っていたら、5回もやることになったんだ。撮影中も、糸を抜くためにロンドンとロケ地を行き来したりしたよ。水中のアクションシーンも、そんな状態でやったんだ。傷口に水が入らないように、何重にも巻いて」。

 映画の最初のほうで彼の顔がむくんで見えるのも、ケガの影響だ。

「ケガの後、足、膝、腰に8本もステロイドを注射された。顔がやたらと大きく見えるのは、そのせいだよ。僕自身も映画を見るまで気づかなかったが、ストーリー上、あれは悪くないと思った。映画の最初でマイクは不健康な状態にあるからね。今作は映画には珍しく基本的に脚本の流れに沿って撮影されたことが、思わぬところで功を奏したわけさ」。

 そんな苦労をようやく終えた後、バトラーは、また別の災難に直面している。昨年秋にマリブを襲った山火事で、彼の家も被害を受けたのだ。この火事では、今作で彼の父親を演じるニック・ノルティは、家をすべて失っている。不幸中の幸いで、バトラーが失ったのは、ゲストハウスだけだった。

「ニックは本当に全部を無くしてしまったんだよね。写真やトロフィーも。僕のトロフィーも焼けたりしたが、僕がもらったのはしょせん学生時代に何かでもらった物とか、ドバイ新人賞とか、どうでもいいやつだ(笑)。プラスチックで安っぽいから、ちょっとしたことで溶けちゃうよ(笑)」。

 それでも、焼け跡を見た時は説明できない気分に駆られたと告白。

「ひたすら灰色の光景に、ぽつんと赤と青の顔があったんだ。友達が南アフリカからのおみやげにくれた陶製の人形。焼け焦げたところで、そのふたつの人形が、僕を見て笑っていた。拾い上げたら、それもボロボロと壊れてしまったよ。これは大切に持っておこうと思ったのに、それすらも無くなってしまった」。

 現在はその家を離れ、L.A.内の別のところに一時的に住んでいる。しかし、建て直しが終われば、また元の家に戻るつもりだ。そんな彼はまた、マイク・バニングに戻る可能性も、否定しない。

「この3作目の後、ストーリーを持っていける方向性がさらに広まったと感じているんだよね。だけどその前に体を元に戻さないとな(笑)」。

「エンド・オブ・ステイツ」は11月15日(金)全国公開。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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