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12年前、ロバート・ダウニー・Jr.がアイアンマン役を獲得した時のこと

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「アベンジャーズ/エンドゲーム」L.A.プレミアに現れたロバート・ダウニー・Jr(写真:ロイター/アフロ)

「アベンジャーズ/エンドゲーム」の公開日が、いよいよ近づいてきた。映画ファンやコミックブックファンにとっては長い待ち時間だったが、出演キャストも今、非常に感慨深い気持ちでいるに違いない。

 ロバート・ダウニー・Jr.は、とりわけそうだろう。「スパイダーマン」「X-MEN」など、それまではほかのスタジオとのライセンス契約で映画化をしてきたマーベルが、自分たちのスタジオを創設し、自らの手で送り出した第1弾が、2008年の「アイアンマン」。会社の将来を背負うその大事な作品の主役にダウニー・Jr.が選ばれたことは、当時、業界を相当に驚かせたものだ。長年依存症に苦しんだ彼が更生してまだ数年しか経っていなかったこともあるが、それ以外に、そもそも彼は小粒な作品で活躍する演技派という立ち位置で、大型予算をかけたアクション映画の主役というイメージからは、最も遠い人だったこともある。さらに、彼はすでに40代前半だった。

「アベンジャーズ/エンドゲーム」までに、ロバート・ダウニー・Jr.は11年もアイアンマンを演じてきた
「アベンジャーズ/エンドゲーム」までに、ロバート・ダウニー・Jr.は11年もアイアンマンを演じてきた

 12年前、ダウニー・Jr.のキャスティングを思いつき、そのために戦ったのは、ジョン・ファヴロー監督。この映画の公開前、ファヴローは、マーベルに彼をどう売り込んだのかについて、こう語っている。

「アクションヒーローを演じる俳優を想像した時に、ロバートは、まず入らない。僕はむしろそこを売りにしたんだ。とは言え、マーベルじゃなかったら、このアイデアは通らなかったと思う。とくに、彼は40歳を過ぎていたしね。シリーズ化を望んでいる以上、何年にもわたって何本も作れるように、スタジオはできるだけ若い人を雇いたがるものだ。でも、マーベルは、この映画で何よりも大事なのはキャラクターをきちんと描くことだとわかっていたんだよ。だから、ロバートが、これまで優秀な俳優たちやビッグスターの助演を立派に務めてきた本物の役者だということに、価値を見出してくれたんだ。それに、マーベルにとって、これらのキャラクターは自分たちの資産。普通のスタジオならほかにもたくさん作品があるが、彼らはすべての作品で自分たちの宝物を扱うことになる。長い視野で見た結果、必ずしも今すぐボックスオフィスを約束する人でなくても、真の才能がある人にしようと思ってくれたのさ」。

 一方で、ダウニー・Jr.本人にとって、これは決して意外な役ではなかった。「これまで誰もオファーしてくれなかっただけ。コミックブックは好きだったし、スーパーヒーローを演じる自分を想像したこともある」と、「アイアンマン」1作目の撮影現場で彼は語っている。だからこそ、マーベルを相手にスクリーンテストを受ける時も、普通では考えられないほどの準備をもって挑んだのだ。

「スクリーンテストでやらされたのは、3つの、それぞれにすごく違うシーンだった。それらは先に知らされていたので、僕はまず徹底的に掘り下げ、自分がどうやるべきか、ほかにどんな可能性があるか、即興の余裕はあるかなどを考えている。それも、ものすごい時間をかけてね。毎朝、起きてすぐシーンを読み、コーヒーを飲んだらまた読んで練習をしたよ。思うことがあるとメモ書きをし、声に出して読みながら家を歩き回ったものさ。スクリーンテストのためにそこまでやる俳優は、ほかに絶対いないよ。準備期間が1年あったなら、1年かけていたと思う。僕は、『絶対にこれを獲得してやる』と誓っていたんだ。彼らがほかの俳優にあげたなら、『お前らは狂っている』と言ってやると思っていた」。

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 こういった大作映画において、ハリウッドでは3本かそれ以上の出演契約を結ぶのが常識。もちろん、それは必ず3本作るということを意味するものではなく、1本目が失敗したら次はないのだが、とりあえず、次がある場合に備えてキャストをおさえ、ギャラが高騰しないようにしておくのだ。1作目の公開前のインタビューで「この役を3回やることに意欲的ですか」と聞かれると、彼は「3回どころか16回だってやりたいよ」と答えている。

 実は、この時点までに、彼はマーベルのケビン・ファイギから「アベンジャーズ」の構想を聞かされていた。だが、2012年の「アベンジャーズ」1作目の記者会見で彼が語ったところによると、「その時は興奮したものの、正直言って信じていなかった」そうだ。その「アベンジャーズ」も、これでもう終わってしまった。そして今や彼は、揺るぎないビッグスターである。この役をもらう前、ファヴローから「君はどんな映画に出てみたいのか」と聞かれたダウニー・Jr.は、「みんなに見てもらえる、良い映画」と言ったとのこと。それが笑い話になるほど、12年は、それだけ長い年月なのだ。この後の12年、ダウニー・Jr.は、人として、そして俳優として、どう変わっていくのだろう。そう思いを馳せると、我々も、本当に感慨深くなる。

「アベンジャーズ/エンドゲーム」は26日(金)全国公開

場面写真:Marvel Studios 2019

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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