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2018年のハリウッド:今年亡くなられた方々

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
アメコミ界の巨匠スタン・リーは、今年95歳で亡くなった(写真:ロイター/アフロ)

 スーパーヒーローの生みの親、グルメ旅番組の人気ホスト、伝説の劇作家。今年も、私たちをいつも楽しませてくれた方々が、この世を去った。ご冥福をお祈りつつ、あらためて敬意を表したい。

スタン・リー

 スパイダーマンやファンタスティック・フォーなど、数多くのスーパーヒーローを生み出したリーは、11月、L.A.の病院で亡くなった。95歳だった。1939年、タイムリー・コミックス(マーベル・コミックスの前身)に入社。翌年には18歳にして早々と編集長に昇進する。第二次大戦中は陸軍に所属し、戦後は、「ハルク」「アイアンマン」「X-MEN」など、さまざまな人気コミックの原作を手がけた。イマジネーションにあふれるこの人物がいなかったら、今日のハリウッド映画界がどうなっていたのか、想像もつかない。

 自分が生んだキャラクターの映画にカメオ出演をするのも好きだった。この秋の「ヴェノム」でも、元気な姿を見せている。

バート・レイノルズ

「ロンゲスト・ヤード」「トランザム7000」「キャノンボール」など娯楽映画で知られたレイノルズは、9月、心臓発作のため、フロリダの病院で死去。82歳だった。60年代にテレビでデビューし、70年代にキャリアの全盛期を迎えるも、80年代なかばには低迷期を迎える。しかし1997年の「ブギーナイツ」で、キャリア初にして唯一のオスカー候補入りを果たしてみせた。亡くなる直前にも、クエンティン・タランティーノの最新作「Once Upon a Time in Hollywood」のオファーを受けている。彼が演じるはずだった役は、彼の長年の友人で、タランティーノ作品への出演歴もあるブルース・ダーンが引き継いだ。

アレサ・フランクリン

 クイーン・オブ・ソウル(ソウルの女王)と呼ばれ、女性で初めてロックの殿堂入りを果たしたフランクリンは、8月、デトロイトの自宅で亡くなった。享年76歳。この8年ほどは、病気のため、コンサートやイベント出演のキャンセルが続いていた。最も新しいアルバムは、2014年にリリースされた「Aretha Franklin Sings the Great Diva Classics」。「ブルース・ブラザース」「ブルース・ブラザース2000」「ツイスト」など、映画にも出演している。彼女自身の伝記映画を作る話も出ていたところで、自分を演じる女優にジェニファー・ハドソンを希望した。映画はMGMが製作することで決まっている。

アンソニー・ボーディン

 大ベストセラーとなった「キッチン・コンフィデンシャル」の著者で、グルメ旅番組「Anthony Bourdain: No Reservation」「Anthony Bourdain: Parts Unknown」に出演したボーディンは、6月、「〜Parts Unknown」のロケで滞在していたフランスのホテルで、自ら命を絶った。ボーディンが朝食に下りてこないのを心配した友人が部屋を訪ねて発見した。享年61歳。

 死亡当時の恋人は、ハーベイ・ワインスタインからレイプ被害を受けた過去を告白し、「#MeToo」運動のリーダー的存在となったイタリア人女優アーシア・アルジェント。彼自身も反セクハラを声高に訴えていたが、アルジェントが当時17歳だった共演者と肉体関係を持ったことがあったとわかった時、その示談金を自分の懐から出したことも判明している。

 彼の死の3ヶ月後に行われたエミー賞授賞式で、「〜Parts Unknown」は、脚本部門(ノンフィクション番組)を含む6部門で受賞を果たした。

ケイト・スペード

 ボーディンの3日後、今度はニューヨークでスペードが自分の命を絶った。享年55歳。ハンドバッグのデザイナーとして最も良く知られるスペードは、コメディアンのデビッド・スペードの義姉。また、姪は、Amazon Prime Videoの「マーヴェラス・ミセス・メイゼル」に主演するレイチェル・ブロズナハンだ。

 スペードの夫や姉は、彼女が鬱を患っていたと明かしている。スペードの56歳の誕生日となるはずだった今週24日、ブロズナハンは、インスタグラムにスペードの写真と、「お誕生日おめでとう」のメッセージを投稿した。

ペニー・マーシャル

 トム・ハンクスのキャリアを大きく変えた「ビッグ」や、3部門でオスカー候補入りを果たした「レナードの朝」などを監督したマーシャルは、今月、L.A.の自宅で、糖尿病の合併症のため、亡くなった。75歳だった。

 今よりさらに女流監督が少なかった1986年、「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」で映画監督デビュー。その前は女優としてテレビ番組「ラバーン&シャーリー」で大人気を集めていた。二度目の夫はロブ・ライナー。やはり映画監督として数々のヒットを生み出した兄ゲイリー・マーシャルは、2016年に81歳で亡くなっている。

ニール・サイモン

 舞台、映画、テレビで大活躍した劇作家サイモンは、8月、ニューヨークの病院で亡くなった。91歳。

「おかしな二人」「ブルースが聞こえる」「Lost in Yonkers」でトニー賞を受賞。「Lost in Yonkers」ではピューリッツァー賞にも輝いた。オスカー、英国アカデミー賞にも複数回ノミネーションを果たしている。映画化された代表作には、ほかに、「裸足で散歩」「おかしなホテル」「スイート・チャリティ」「カリフォルニア・スイート」「グッバイガール」「ブロードウェイ・バウンド」などがある。彼の舞台または映画に出演した俳優には、ロバート・レッドフォード、マイケル・ケイン、ジェーン・フォンダ、ピーター・フォーク、マシュー・ブロデリック、ウォルター・マッソー、ジャック・レモン、シャーリー・マクレーン、ゴールディ・ホーン、リチャード・ドレイファスなどがいる。

ヴァーン・トロイヤー

「オースティン・パワーズ」シリーズのミニ・ミーで知られるトロイヤーは、4月、49歳の若さでこの世を去った。死亡当時、彼のFacebookページに投稿された声明では、彼が長年自分の中の問題と闘い続けてきたことが明かされている。その手紙にはまた、「彼は闘っては勝ち、闘っては勝ち、また闘うということを続けてきました。残念ながら、今回、彼は、もう無理だと思ったのです。(中略)鬱と自殺は、深刻な問題。人が内面でどのような苦しみを抱えているのか、外からはわかりません。人に優しくしてあげてください。そして、助けを求めるのに遅すぎることはないのだということも、忘れないでください」とも書かれていた。彼の死にはアルコールが関与しており、L.A.の検死官は、自殺と判断している。

 成長ホルモン分泌不全性低身長症で、身長は81cm。最後に出た映画は、ヒース・レジャーの遺作である2009年の「Dr. パルナサスの鏡」だった。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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