Yahoo!ニュース

「ディズニー、ここまでやる?」と自分で言わせる「シュガー・ラッシュ:オンライン」のユーモアとこだわり

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ディズニーのプリンセスたちが勢ぞろいするシーン。笑わせつつ、敬意にも溢れる

 この12年のうちに、ピクサー、マーベル、ルーカスフィルムを買収したディズニーは、ハリウッドの大帝国。その偉大さを自ら笑い、堂々の余裕を見せつけるのが、21日に日本公開となる最新アニメ「シュガー・ラッシュ:オンライン」だ。予告編にもディズニーのプリンセスやストームトルーパーのシーンが出てくるが、映画にはさらに多くのキャラクターが登場し、セルフギャグをやってみせる。予告編の最後で自ら「ディズニー、ここまでやる?」と言ってしまう心意気もだが、お宝であるそれら往年のキャラクターにしっかり敬意も払っているところが、何よりあっぱれだ。

 映画は2012年の「シュガー・ラッシュ」の続編。1作目でラルフとヴァネロペは親友になったが、今回は、ヴァネロペが住むゲーム、シュガー・ラッシュのハンドルが壊れてしまうところから始まる。ゲームセンターのオーナーは、新たにハンドルを購入してまでシュガー・ラッシュを店に置き続ける価値はないと判断。そうなると、ヴァネロペの居場所はなくなってしまう。それで、ラルフとヴァネロペは、eBayに出されているハンドルを入手すべく、インターネットに入っていくのだ。

ひとつのサイトから別のサイトに移動する時、ネットユーザーは、こんな乗り物で向かう
ひとつのサイトから別のサイトに移動する時、ネットユーザーは、こんな乗り物で向かう

 そこで描かれるインターネットの世界には、イマジネーションとリアリティがたっぷり。検索する時にこっちが思う言葉を先に予測されるとか、何か買い物をしたらそれが実際にカートに入るとか、ひとつのサイトから別のサイトへと移動するとか、我々にとってお馴染みの行動がヴィジュアルで表現されるのは、最高に楽しい。クリックするという単純な作業が、そこではあまりにも生き生きと描かれるので、次にコンピュータに向かう時には、なんとなくときめいてしまったりするかもしれない。

セリフが少ししかなくても、声を務めるのは本物の俳優

 eBayのほかにも、実在のサイトは多数出てくる。ディズニーのセルフギャグが展開するOhMyDisney.comも、そのひとつだ。先に述べたストームトルーパーやプリンセスたちのほか、ここにはC-3POも登場するのだが、セリフは少ししかないのに、アンソニー・ダニエルズに声をやってもらうためロンドンまで飛んでいるのだから、さすがである。

 監督コンビのひとりリッチ・ムーアによると、あの日は彼の人生で最高の日だった。「映画スターにはこれまでさんざん会ってきたけれど、彼は別格だったね。なんせ、アンソニー・ダニエルズだよ!」(ムーア)。ただ、本当にダニエルズが来てくれるのかは、当日までわからず、かなりドキドキもしたそうだ。ダニエルズは、ほかのタレントのように、エージェントを使って事前にしっかり契約書を交わすことをしないそうなのである。もし、彼が来なかった時に備え、別の俳優も用意していたが、幸い本人がすばらしい演技をしてくれることになった。

「シュガーラッシュ:オンライン」のフィルムメーカーたちが想像するインターネットの世界
「シュガーラッシュ:オンライン」のフィルムメーカーたちが想像するインターネットの世界

 シンデレラや白雪姫、ポカホンタスやエルサなど、14人のプリンセスの声も、もちろん、全員オリジナルどおりだ。その声をやるのは20年ぶり、30年ぶりという女優もいることから、声に年齢が表れたりするのではと思ったが、結果的にまったく問題はなかったと、もうひとりの監督フィル・ジョンストンは語る。

 監督らによると、プリンセスたちがこのウェブサイトの部屋に集合し、そこでヴァネロペに出会うという設定を、女優たちはみんな、喜んで受け入れてくれたとのこと。その上で、「このプリンセスはそういう言い方はしないかも」など、キャラクターの一部である人ならではの貴重なアドバイスもくれた。それらは映画に反映されている。日本語吹き替え版ではもちろん声優が変わっているが、ダニエルズやこれらの女優たちは、シーンの中でのキャラクターのふるまいに、大きな影響を与えているのだ。そんなふうにリアルに再現されたキャラクターが、オリジナルの映画では絶対にやらない、それこそ「そこまでやる?」と言うようなことをやらかしてくれるから、おもしろいのである。

さんざん笑った後には泣かされる

 しかし、そういったジョークはあくまでこの映画に詰まったたくさんのことのひとつにすぎない。1作目に続いて、友情というテーマを語る今作は、最後にしっかり泣かせてくれるのだ。

 1作目が「友達を見つけること」についてであったのなら、今作は「長い人生の中で、その友情をどう保ち続けるのか」について語るもの。「子供を持つ人たちも共感できるんじゃないかな。子供が大学で家を出て行く時の気持ちにつながると思うから。子供たちは子供たちで、友達が別の学校に行ってしまう時に、似たような思いをするかもしれない。人生には、別れ、そして再会が、たくさんあるものだから」と、ジョンストン監督は言う。卒業、入学のシーズンは、あと3ヶ月先。その時になって、この映画を再び思い出し、そのメッセージを噛みしめる人は、きっと多いのではないだろうか。

「シュガー・ラッシュ:オンライン」は21日(金)より全国公開

場面写真:2018 Disney. All Rights Reserved.

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事