Yahoo!ニュース

ハリウッドの密かな常識:セレブはセレブの家を買う

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
新居探しにやって来たジャスティン・ビーバーとハーレイ・ボールドウィン(写真:Splash/アフロ)

 ジャスティン・ビーバーとハーレイ・ボールドウィンが、着々と新婚生活の準備を進めている。結婚式は2、3ヶ月先になるようだが、法的には先月、密かに夫婦になったとのこと。先週には、L.A.で新居探しをする様子がパパラッチされた。

 彼らが見に来た家は、ダウンタウンから海までを見渡せる、ベッドルーム4つ、バスルーム5つ、プールのある家。場所はハリウッドヒルズで、セレブが集うシャトー・マーモント・ホテルのすぐそばだ。値段は950万ドル(約10億7,000万円)と、なかなかだが、総資産2億6,500万ドルとされるビーバーには、手が出ない範囲ではない。

 この家の売り主は、やはり20代の歌手であるデミ・ロヴァート。ロヴァートはこの家を昨年8月に買ったばかりなのだが、今年7月にドラッグ過剰摂取のため救急車で運ばれて以来、一度もこの家に戻っていないらしい。1月の大雨の後には地滑りの危険にも直面しており、嫌な思い出だらけの家はとっとと手放してしまおうということだろう。

 セレブの家をセレブが買うのは、ハリウッドで良くあるパターン。たとえば、ビーバーが前に所有していたL.A.近郊の家を買ったのも、クロエ・カーダシアンである。比較的最近では、エヴァ・ロンゴリアがトム・クルーズからハリウッドヒルズの家、ジェニファー・ローレンスがジェシカ・シンプソンからビバリーヒルズの家、ロバート・パティンソンがジム・パーソンズからロスフェリツの家を買った。もっと遡れば、グウィネス・パルトロウがクリス・マーティンと結婚していた時に買ったロンドンの家はケイト・ウィンスレットのものだったし、エレン・デジェネレスはブラッド・ピットのマリブの家を1,200万ドル(約13億5,000万円)で購入している。

 セレブ同士の間でしばしば不動産の取引がなされるのには、いくつか理由が考えられる。ひとつには、そもそもL.A.はセレブが集まる街であること。つまり、常に誰か大物が家を売ろう、あるいは買おうとしているのだ。また、L.A.は広いと言っても、上記のような物件を買える経済力を持っている人は、ある程度限られている。家に求める条件が揃っているというのもあるだろう。同じ職業だけに、プライバシーがしっかり守られるか、敷地内に立派なジムや試写室はあるかなど、買う際にチェックする、はずせない要点にも、共通点があると思われる。

 コミュニティ内の口コミも、ばかにできない。セレブは、仲間内で集まる場所に、パパラッチやファンの目に晒される心配のない自宅を選ぶことが多く、お互いの家を知っている。売ろうかと考えた時、仲間内で興味を持ってくれる人が見つかり、優秀な不動産エージェントと弁護士の助けで、一般市場に出回ることなく、さっさと話がまとまったとあれば、誰にとっても都合がいい。

 さらに、「あの人が住んだ」という付加価値もある。たとえセレブであっても、自分の前に住んだのが誰かを知って、感動したりするものなのだ。ピットに離婚を申請した後、アンジェリーナ・ジョリーが、ピットの資金援助を得て(ピット側によると、これは、あげたのではなく利子付きで貸したお金ということだ)買ったのは、名監督セシル・B・デミルが40年も住んだ家だった。また、テイラー・スウィフトの家は、伝説のプロデューサー、サミュエル・ゴールドウィンがかつて所有したものである。たいていの物はなんでも手に入る彼女らだからこそ、歴史という、手で触れることのできないお宝には、余計に魅力を感じるのかもしれない。

売りたい時は、この雑誌の取材を受ける

「L.A. Times」に毎週出る「Hot Property」というコーナーでは、どの有名人が家を売った、買った、いくらだったというような情報を読むことができる。だが、それより前にヒントを得られるのが、「Architectural Digest」だ。

 美しい写真がたっぷり掲載されたこの建築とインテリアの専門誌では、時々、セレブの自宅が公開されるのだが、誰かの家が出てしばらくして、その家が別の人の手にわたったというケースは、たびたび見られる。プライバシーを重視するセレブにとって、家の中は極力、見せたくないもの。だが、その分野でトップクラスのカメラマンが、最も素敵にわが家を撮影してくれるのであれば、売りたいと思っている人にとって、すばらしいメリットだ。

 たとえば、ダイアン・キートンのビバリーヒルズの家は、この雑誌で特集された後に、ライアン・マーフィが買った。マーフィも、今年始め、それとは別の、ラグナ・ビーチの家を「Architectural Digest」で公開したのだが、こちらは6月に売れている。

アニストンの家が特集された「Architectural Digest」(写真/Architectural Digest)
アニストンの家が特集された「Architectural Digest」(写真/Architectural Digest)

 そして今年2月には、ジェニファー・アニストンの家が掲載された。記事の中にはセローの写真も混じってはいるが、夫婦一緒のものはなく、文中にセローの意見も聞いているという記述はあるものの、あくまでアニストンの家としての紹介だ(家自体も、アニストンがセローと再婚する前に買ったものである)。この直後に、夫婦は破局を発表。大方が予測したとおり、アニストンはこの家を売るつもりのようだ。

 2012年にアニストンがこの家を買った時の値段は、2,200万ドル(約24億8,000万円)だった。場所は、閑静な超高級住宅街ベルエア。買った直後から、アニストンは、より素敵な家にすることを目指し、改修工事を始めたという。つまり、ここは、彼女がただ住んだだけでなく、自分ながらのこだわりをもって壁の色や床の素材などのディテールを選び、満足がいく空間に仕上げた、彼女という人が詰まった場所なのである。

 ファンにとっては憧れの家だろうが、当然、普通の人に手が出せるものではない。一部のメディアは、買った当時の3倍の値段で売れるのではと憶測しているのだ。2015年、この庭でアニストンとセローが、選ばれた親しい人々に囲まれ、結婚式を挙げたというのは、たしかに特別の価値があるだろう。そんなお金を払えるのは、果たしてどの世界の、どんなセレブなのだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事