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ハッピーバースデー、トム・クルーズ!仕事中毒のアクションスターが56歳に

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
7月3日で56歳になるトム・クルーズ(写真:Splash/アフロ)

 7月3日は、トム・クルーズの誕生日。ハリウッドのトップに君臨し続けてきた彼も、56歳になる。

 今年の誕生日をクルーズがどこでどんなふうに過ごすのかはわからない。だが、仕事があれば、おそらくそっちのけでそちらに集中しているはずだ。少なくとも、「バリー・シール/アメリカをはめた男」(2017)製作中はそうだったと、監督のダグ・リーマンは語っている。

「トムの誕生日は、独立記念日(祝)の前日。だから、そのあたりは休みになるだろうと僕は思っていた。彼だって、この日くらいはL.A.の自宅に戻りたいだろうからね。そうしたら、トムは、『いや、せっかく休みになるんだから、飛行シーンについてのミーティングをやれるかなと思っているんだよ。これまで時間が取れないできただろう?』と言うじゃないか。飛行シーンのミーティングには8時間くらいかかる。僕が、『君は、自分の誕生日に8時間のミーティングをやりたいわけ?』と聞いたら、『そうだ。僕は、その8時間のミーティングをやりたい。映画のためになること以上に、僕が誕生日にやりたいことはないんだ』と言ったよ」(リーマン)。

 クルーズのワーカホリックぶりに驚かされた人は、リーマンだけではない。彼について語る時、全員が必ず口にするのが、「プロフェッショナル」なのだ。主演スターが撮影現場の雰囲気を左右することを十分に知っている上、プロデューサーとしての経験も長い彼はまた、共演者やクルーにも常に感じよく接する。現場ではもちろんのこと、オーディションの段階でもそうだ。「バリー・シール〜」でクルーズの妻役に抜擢されたサラ・ライト・オルセンも、最初から最後まで彼との仕事を楽しんだと振り返っている。

「オーディションのためにアトランタに行って、空港から車に乗った時に、ダグ(・リーマン)から携帯に電話があったの。ちょっと話した後、ダグは、『じゃあ、トムに代わるね』と、トムを出してきたのよ。私はびっくりして息が止まりそうになったけれど、トムはとても優しく『明日、直接会えるのを楽しみにしているよ』と言ってくれた。そして翌日、現地に着いたら、外で私の到着を待っていてくれたの。撮影中は常に励ましてくれて、私の意見にたっぷりと耳を傾けてもくれたわ」(オルセン)。

「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」(2015)のレベッカ・ファーガソンも、同様の経験をしている。「トムは最初から友達みたいに接してくれたの。オーディションでカメラを回している間、彼は、私が一番良く見えるようなアングルを探してくれた。友達がしてくれるようにね」(ファーガソン)。

 3番目の妻ケイティ・ホームズとの離婚騒動以来、クルーズ本人は、主演作のプレミアに出席し、レッドカーペットを歩くことはしても、インタビューは最低限しかやらなくなっている。そもそも、ホームズとつきあい始めた頃に、テレビのトーク番組で「僕は恋しているんだ!」と、カウチの上を飛び跳ねたことから、彼のイメージダウンが始まったのだ。パブリシストもクビにしてしまったし、危険を冒すくらいなら何もしゃべらないでおこうという方針なのだろう。しかし、まだ彼が取材を受けてくれていた2004年、彼は筆者とのインタビューで、共演者やクルーに優しくする理由を語ってくれている。「僕はみんなが良い演技をするのを見たいんだよ。みんながすばらしいパフォーマンスをし、それが認められるのは、嬉しいこと。そのためのサポートをしたいのさ。自分だけが良く見えればいいなんて、思わない。僕はストーリーの一部なんだから。映画の現場では全員が大切だ。コーヒーを持ってきてくれる人だって、同じくらい大事。僕は、みんなが楽しめる現場にしたい」(クルーズ)。

 本人があまり表に出て発言しなくなったことは、彼をますますミステリアスな存在にしてしまった。だが、この夏公開の「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」でクルーズと4度目の共演をするサイモン・ペッグは、「トムは普通の人」と断言する。「ケンタッキー出身の、普通の男。彼のことを知れば知るほど、そうわかってくる。でも、彼の持つやる気は、桁外れだ。努力する度合いもね。彼は、やると決めたことは、徹底してやるんだよ」(ペッグ)。

ワークアウトは日常の一部。毎日必ず何かをする

 徹底的にやることのひとつには、もちろん、体作りも含まれる。「オール・ユー・ニード・イズ・キル」(2014)で共演したエミリー・ブラントは、「まるでマシンのよう」と、彼の肉体の完璧ぶりを褒め称える。ブラントは今、二児の母だが、「長女を生む前にあの映画でトムとトレーニングをしたおかげで、出産後にすぐ体を戻すことができたんだと思う」とも語っている。「トムと同じことをやったら、誰だって痩せるわ。彼はワークアウトが大好き。普段は必ずしも毎日長い時間運動するわけではないけれど、毎日、絶対に何かをするの。食事もものすごくヘルシー。そして週に1日だけ、好きなものを食べていい特別の日を作る」(ブラント)。

 この点においてもまた、クルーズは、共演者に配慮を忘れない。「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」(2017)で恐ろしいミイラを演じたソフィア・ブテラは、「撮影中は、トムの気遣いで、みんなのために特別の食事が用意された」と明かす。「全員が最高の肉体レベルを保てるようにね。次のシーンでこれをやって、と言われた時に、ちゃんとできるように。それも、映画では何度も同じシーンをやらないといけないのよ。トムはそういうことをちゃんと考えている」(ブテラ)。

 それでも、最新の「ミッション:インポッシブル」では、スタントの途中、ケガをしてしまった。足首を傷めてもまだ彼はそのシーンで走り続けたそうなのだが、その出来事について、ペッグは、アメリカのテレビで「彼が再び立ち上がって走り続けた時、現場のみんなは『トムだよねえ』と言っていたよ」と語っている。

初のオスカーノミネーションから29年。受賞する日は来るのか

 だが、彼の肩書きはアクションスターに限らない。「7月4日に生まれて」(1989)、「ザ・エージェント」(1996)、「マグノリア」(1999)でオスカーにノミネートされたことが証明するように、しっかりした演技力も持つのだ。ほかにもスタンリー・キューブリック監督の遺作「アイズ ワイド シャット」(1999)、犯罪スリラー「コラテラル」(2004)、ミュージカル「ロック・オブ・エイジズ」(2012)など、彼のフィルモグラフィーには幅広い作品が並ぶ。

 はちゃめちゃコメディ「トロピック・サンダー」(2008)にクルーズを起用するに当たって、監督のベン・スティラーは、「彼にはコメディの才能があると確信していた」と語っている。「演技力があるからね。ロバート・デ・ニーロだって、コメディができるんだとみんなが知ったのは、しばらくたってからだった。それまではシリアスな映画専門と思われていたんだよ。トムも同じ。『マグノリア』でもすばらしいタイミングを見せていたし、コメディをやるチャンスを与えられてこなかっただけだ。この話を持ちかけた時、彼はすぐにやりたがったよ」(スティラー)。

 だが、我々日本人としては、彼のフィルモグラフィーについて語る時、「ラスト サムライ」(2003)を忘れるわけにはいかないだろう。2004年の筆者とのインタビューで、彼は、日本でこの映画が受け入れられたことは「自分のキャリアで最も満足のいく瞬間」だったと述べている。

「日本には何度も行ったことがあるし、日本の文化には強い敬意を持っている。日本の人たちのためにも、僕はあの映画を作りたかったんだよ。(この映画に出てくる時期は)日本だけでなく、世界の歴史においても重要な時期。ほかの国の文化について学ぼうと努力するのは、人間にとって大切なこと」と言うクルーズは、共演の渡辺謙、真田広之、小雪らに「しょっちゅう質問をしていた」とも語った。

 今作でクルーズは共演の渡辺を、そして翌2004年の「コラテラル」ではジェイミー・フォックスを、キャリア初のオスカー候補入りに導いている。彼の言うところの「すべての出演者が最高の演技をできるようにしたい」という願いがかなった結果と言えるが、当の本人は、最後にノミネートされてから、もう19 年になる。ここ数年の出演作はアカデミー好みではないアクションやSFばかりだし、次に撮るのが「トップガン」続編というところを見ても、賞狙いは彼の優先事項ではなさそうだ。60歳もそれほど遠くない今、できるうちにアクションをたくさんやってしまいたいのかもしれない。

 とは言え、現在66歳のリーアム・ニーソンは、今のクルーズの年齢でアクションスターの肩書きを新たに得たし、現在製作準備中の「インディ・ジョーンズ」5作目が公開される時、ハリソン・フォードは78歳になっている。アクションスターにもはや賞味期限はないのだ。クルーズは、これからもずっと人間離れしたスタントをこなして観客を驚かせることを一番にしていくのだろうか。それとも、お金も、人気も、名声も得た彼が唯一まだ持たないオスカーを、ついに手にする時が来るのだろうか。いずれにしても、彼がスクリーンで私たちを楽しませ続けてくれることは、間違いないだろう。56歳の1年もまた、健康で充実した年になりますように。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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