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ハリウッドのセクハラ騒動アップデート:ワインスタイン、スペイシー、ラトナーは今

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
今週、L.A.検察局は、ケビン・スペイシーを起訴するか検討中と発表した(写真:Shutterstock/アフロ)

 ハーベイ・ワインスタインのいないオスカーは無事に終わり、ケビン・スペイシーのいない「ハウス・オブ・カード 野望の階段」は妻役ロビン・ライト主演で新シーズンの製作準備が進められている。多くがこっそりと知っていた暗い秘密が次々暴露されてちょうど半年。「#MeToo」「#TimesUp」という目覚めの時代を迎えたハリウッドは、時にとまどいつつも、無事にビジネスを続けている。

 その一方で、問題のセクハラ男たちは、なりを潜めたままだ。俺がいないとダメなのだと言わんばかりの態度でハリウッドを歩き回った彼らにしてみたら、自分がいなくても大丈夫、それどころか人はもはや自分を忘れてしまったという現状は、プライドを激しく傷つけるものだろう。いや、本当にみんなから忘れられてしまったのならば、まだいい。悲しいことに、一番忘れてほしい人たちである警察と検察は、放っておいてくれないのだ。

 一連の出来事が露呈されて以来、L.A.、ニューヨーク、ロンドンをはじめとする警察と検察は、刑事事件の方向からも、これらの被害について調べ続けてきている。しかし、「#MeToo」よりも前に過去のレイプが明らかになって検挙され、昨年裁判を受けたビル・コスビーが、判決が出ず、裁判やり直しとなったように、昔の性犯罪を証明するのは、きわめて難しい。

 一連のセクハラ業界男の中でも被害女性の数が200人以上ときわめて多いジェームズ・トバックは、5人の女性に対する性犯罪に関してL.A.の検察に調べられていたが、今週、検察は、彼を起訴しないとの結論を発表した。この5件が起きたのは1978年から2008年にかけてで、時効が成立しているのが主な理由だったようだ。トバックはとりあえず刑務所入りを逃れ、ほっとしているところだろうが、ほかの男たちはどうなのか。主要なセクハラ男たちの現状は、こんな感じだ。

ケビン・スペイシー

 L.A.検察局は、現地時間今週水曜日、スペイシーが1992年に起こしたとされる犯罪について起訴するかどうか検討中だと発表している。事件が起きたのはウエストハリウッドで、被害者は大人の男性。事件の詳細は明らかにされていない。

 しかし、カリフォルニアの州法において、これは時効に当たってしまい、起訴は難しいだろうというのが大方の予測だ。2年前に法が改正され、重い性犯罪には10年の時効が適用されなくなったものの、それは2016年以降に起きた事件に関してなのである。だが、安心するのは早い。スペイシーはマサチューセッツ州でも当時18歳だった男性の局部を触った疑いで捜査を受けているのだ。こちらは2016年に起きた事件。ロンドンでも、最低3件について現地警察が動いている。

 事実が暴露されて以来、スペイシーは、アリゾナ州でセックス中毒の治療を受けているとされる。

ハーベイ・ワインスタイン

 ワインスタインに関しては、現在、L.A.、ニューヨーク、ロンドンの警察が動いている。やはり時効が成立しているケースが多い中、L.A.において起訴できるかどうかの鍵を握るのは、ビバリーヒルズのホテルで5年前に起きたレイプ事件だ。被害者は匿名のイタリア人モデル兼女優。彼女がそのホテルに泊まった記録はあり、彼女は当時、神父を含め、複数の人にその出来事を話している。しかし、ワインスタインがそのホテルに来た証拠は得られていない。

 彼はアリゾナでセックス中毒の治療を受けており、何度か地元のレストランにいる様子などがパパラッチされている。その施設は相当に高価な上、彼は民事訴訟も複数受けていて、かかる弁護士代は相当なもののはずだ。事実発覚を受けて離婚となったファッションデザイナーの妻ジョージナ・チャップマンには、1,500万から2,000万ドル(約16億円から21億円)を払うことになるとささやかれている。

 事実の暴露以後、月最低でも5万ドル(約530万円)かかるとされる危機管理専門のPR 会社もつけていたが、最近、解約したそうだ。同社の関係者は、「The Hollywood Reporter」に対し、「クライアントが解約するのは、基本的に資金難に陥った時」と語っている。事実、彼は、この数カ月の間に、ニューヨーク州アマガンセット、マンハッタン、コネチカット州に所有する家を合計約5,000万ドル(約53億円)で売却している。残るは、ウエストハリウッドの小さな家ひとつのみだ。この2寝室の家には、かつて、最初の妻との間にもった20代の娘が住んでいたそうだが、現在は月約7,500ドル(約80万円)で賃貸に出されているようである。

 ワインスタインに被害を受けたと実名で名乗り出た女性は80人以上。彼が弟ボブと創設したザ・ワインスタイン・カンパニー(TWC)は、先月、破産宣告をしている(被害者女性も望まなかったザ・ワインスタイン・カンパニーの破産申請。彼女らは報われるのか?)。

ブレット・ラトナー

「ラッシュアワー」「X-MEN: ファイナルデシジョン」などのヒットを飛ばした監督で、「ワンダーウーマン」「ゼロ・グラビティ」などに出資したプロデューサーでもあるブレット・ラトナーは、オリヴィア・マン、ナターシャ・ヘンストリッジなどの女優が名乗り出たせいで、長年にわたり、日常的に女性を搾取していた事実を暴露されることになった。

 この事実を受けて、ラトナーのプロダクション会社ラットパック・エンタテインメントと業務提携をしていたワーナー・ブラザースは、ただちに次の契約更新はしないと発表。同時に彼をワーナーの敷地内にあったオフィスから追い出している。ラトナーは、出資を専門にするラットパック=デューン・エンタテインメントという会社を別に持っているのだが、ワーナーは、こちらとも、今週末北米公開されたドウェイン・ジョンソン主演のアクション映画「ランペイジ 巨獣大乱闘」(来月日本公開)をもって関係を終了するとのことだ。

 ラトナーに関して警察は動いていないが、彼は、12年前に彼にレイプされたとFacebookに投稿した女性に対し、名誉毀損の訴訟を起こしている。女性は被害当時カリフォルニアで業界関係の仕事をしていたが、現在はハワイ在住。カリフォルニアには被害者を黙らせるために訴訟することを違法とする州法があり、ハワイの裁判長は、現在、彼の訴訟がこれに当たるのかどうか判断しようとしている。この展開がどうなるのか、注目されるところだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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