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アメリカのメディアは、やはりジェニファー・アニストンの幸せを信じたいのだということ

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
破局を発表したジェニファー・アニストンとジャスティン・セロー(写真:ロイター/アフロ)

 13年前の、デジャヴ。ジェニファー・アニストンが、突然にしてジャスティン・セローとの破局を発表した。「ふたりは愛し合っている」「ふたりは大丈夫」と、セレブリティ雑誌が不自然なほど強調した直後に、だ。

 アニストンとセローの不仲説は、ここしばらく、静かにささやかれていた。ふたりが公の前にカップルとして姿を現したのは昨年7月以来、一度もなく、最近はセローがニューヨークで、アニストンがL.A.で別々に時間を過ごしている様子が、たびたび目撃されていたのである。だからこそ、あえて「Us Weekly」や「People」などは、揃って「ふたりは独立心旺盛だから」とか、「離れていると、より愛が強まる。それこそまさにふたりの愛の秘訣」といったような近しい人のコメントを出し、アニストンは愛されていると主張していたのだ。

 だが、バレンタインデーの翌日であるアメリカ時間本日15日、その幻想は、本人たちの声明によって、崩壊してしまった。声明によると、ふたりが別離を決めたのは、昨年末だったとのことである。愛の日であるバレンタインデーが過ぎるのを待ったのも、少しでも発表を引き延ばして、数字上、結婚年数が2年でなく3年に近くなるようにしたのも、もちろん意図的だろう。

 ふたりが婚約したのは2012年、結婚したのは2015年。ピットとの結婚は2000年7月から2005年1月の4年半だったが、2004年のほとんどを、ピットはアンジェリーナ・ジョリーと共演する「Mr. & Mrs. スミス」の製作に費やしている。

 その間、ピットとジョリーが愛を育んでいることは、現場の人々も気づいていたのだが、その時もメディアは、ピットとアニストンの愛は大丈夫と世間を説得し続けた。エレベーターの中でピットとジョリーが手をつないでいたとか、ベッドシーンの撮影中にジョリーが挑発的なことをしたとかいう話題がちらほらは出ても、ふたりが年末のカリブ海旅行から戻ってきて破局声明を発表するまで、マスコミは、ハリウッドで最もハンサムな男と、最も愛らしい女性のフェアリーテールを守ろうとしたのである。最後の決断について話し合う機会だったその旅行も、破局声明の発表までは、愛に満ちたトロピカルバケーションという位置付けだった。

「恋愛運が薄い」と言われるのは、余計なお世話?

 アメリカにおけるアニストンの、とくに同性からの人気ぶりは、かなり強力だ。1994年に始まった30分のシットコム番組「フレンズ」で大ブレイクを果たし、"アメリカのスイートハート"の肩書をもらったアニストンは、ごく一般的な女性たちにとって、ファニーで、ヘルシーで、最高にきれいな髪が魅力の、なんとなく手に届きそうなお手本となった。

 そんな彼女が誰かにフラれるなんて、ファンとしては信じられないし、ありえないことだ。だからメディアはそれを煽りたくなかったし、事実が出てしまった後にも、「ジェンは強い」「さすがだ」と、辛い状況に耐えている彼女を褒めるような報道をしたのである。アニストンとジョリーの"対立"を半分おもしろがって書く雑誌もあったが、わざとジョリーが意地悪そうに見えるような写真が選ばれていることも、少なくなかった。

 ピットとジョリーが着実に家族を築いていく中、アニストンは、ヴィンス・ヴォーンとロマンチックコメディ「The Break-Up(日本未公開)」で共演し、私生活でも恋人同士となる。この映画の企画が出た時から、「ジェンがフラれるのは、映画の中であっても見たくない」というファンの声は強かったのだが、最終的に、私生活で、彼女はヴォーンにフラれてしまった。その後、ヴォーンは、一般人女性と幸せな結婚をしている。

 かわいくて素敵なのに、どうして彼女は不幸になるのか。「ご縁がない」という以外に、納得できる答はない。しかし、「恋愛運がなぜか薄いジェン」と言われることに本人は不満だったようで、インタビューでも「恋愛運が薄いと言われるのは不本意。私は素敵な恋愛をしてきた。私はむしろ恋愛運が強いのよ」と、反撃している。しかし、またもや、そうではないことが判明してしまったわけだ。

次に来るネタは、ピットとの恋の再燃か

 もちろん、原因は運とは別のところにあるのかもしれない。アニストンが「Wanderlust(日本未公開)」で共演したセローに目を付けた時、セローは、スタイリストの女性と事実婚状態にあった。それも10年以上にわたる関係だったのである。つまり彼女は略奪愛をしたわけで、アニストンのファンでない人々の間では、「カルマだ」と揶揄する声も聞かれる。

 一方で、ファンは、ソーシャルメディアで、「彼女は絶対ブラッドと復活するはず」「原因はジェニファーがブラッドと会っているからだったりして?そうだったらいいのに!」と言ったコメントをするのに忙しい。ピットは、2016年秋にジョリーと破局したところで、またシングルに戻っているのだ。ふたりの離婚は未だに成立しておらず、彼がジョリーの嫌がっていた酒も完全にやめた今、離婚手続きはこの先本当に進められるのかとの疑問もあるのだが、アニストン派は知ったところではない。第一、まだセローと安泰と思われていた昨年にも、アニストンとピットの間の傷は癒えていて、ジョリーと破局したピットは時々彼女と話しているとの報道も出たりしたのである。妄想を膨らませる余地は、十分だ。

 実際にはそう簡単にはいかないにしても、彼女らは夢を見続けるだろう。だが、その前に、アニストンも、離婚というステップを取らなければない。破局声明の中に、離婚という言葉は出てこないが、実際にはそこまで考えての発表であることは想像に難くない。セローよりずっと多くを稼ぐアニストンは、結婚前に、細かい婚前契約書(prenup)にサインをさせているそうで、醜い話はあまり出てこないと思われる。それでも、現実的勝つ味気ない話は、たっぷり待っているはず。フェアリーテールの続きは、それからだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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