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ハリウッドのセクハラ騒動:ハーベイ・ワインスタインに関する訴訟はどうなっているのか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
そもそもの発端となったハーベイ・ワインスタイン(写真:Shutterstock/アフロ)

 毎日のように新しい名前が浮上し、 誰が何をしてどうなったのか、着いて行くのが大変なハリウッドのセクハラ騒動。ことの発端となったハーベイ・ワインスタインは、もはや古い話と感じられるほどだ。彼についての最初の暴露記事が出たのがたった6週間半ほど前だとは、信じられない。

 10月初めに「New York Times」と「New Yorker」の記事が立て続けに出た頃から、この後、たくさんの訴訟が起こるであろうことは予測されていた。そして、実際に、ワインスタインと彼が創設した会社に対しては、複数の訴訟が起きている。アメリカ時間本日27日には、新たな訴訟がふたつ起きた。このうちひとつは、イギリスで起こされた民事訴訟。原告は、2000年にワインスタインから被害を受けたという女性で、名前は明かされていない。彼女は、肉体的、精神的被害と、金銭的な損失をこうむったとして、30万ポンドから40万ポンド(約4,437万円から5,900万円)の損害賠償を求めている。

 もうひとつは米連邦裁判所に起こされたもので、原告はカディアン・ノーブルという名のイギリス人女優。事件が2014年と最近で、しかも性行為目的の人身売買で訴えているとあり、とりわけなりゆきが注目されるところだ。被告にはワインスタインのほかに、彼の弟ボブ、彼らが創設したザ・ワインスタイン・カンパニー(TWC)も挙げられている。人身売買としたのは、ワインスタインが、最初から性暴力を行う目的で、仕事の話をえさに、旅先で女性たちを呼びつけていたからだという。そう知っていながら何もしなかったボブや会社も、共犯に当たるという主張だ。ノーブルは、カンヌのホテルの部屋でワインスタインに体を触られ、手を捕まれて、彼のマスターベーションの手助けをさせられたと訴えている。時効前とはいえ、そちらの証拠を突きつけるのは困難と思われるが、人身売買のほうで道が開かれるかもしれない。

 ノーブルの弁護士は、もうひとつ、関連した訴訟を抱えてもいる。こちらは先月下旬にL.A.で起こされたもので、原告はドミニク・ヒューエットという名の女優だ。彼女は、2010年、ビバリーヒルズのホテルで、ワインスタインに「キャリアを約束するから」と言われ、嫌だと言ったのにオーラルセックスをされ、目の前でマスターベーションをされたと訴えている。被告として挙げられているのは、ワインスタイン本人ではなくTWC。「この事件の前から、TWCのトップと社員はワインスタインが繰り返しこのような行動を取っているのを知っていた」というのが、会社を相手にした理由だ。ヒューエットは500万ドル(約5億5500万円)の損害賠償を求めている。

集団訴訟も起こされている

 この訴訟の1週間後には、別の女優が、ワインスタイン本人、TWC、ワインスタインの当時の女性アシスタント、およびディズニーを訴訟している。ディズニーが加えられたのは、ワインスタイン兄弟の最初の会社ミラマックスが、事件当時、ディズニー傘下にあったためだ。

 原告はカナダ人の女優で、名前は明かされていない。事件が起きたのは2000年のバンクーバー。ミラマックスの映画に小さな役で出ていた原告の女性は、ワインスタインのアシスタントから、「ハーベイがあなたの演技に感心していて、今後のキャリアについてホテルのレストランで朝食ミーティングをしたいと言っている」と電話を受けた。ホテルに着くと、「ミーティングの場所は彼の部屋に移った」と言われ、アシスタントに部屋へと案内されたが、彼女は出ていき、原告女性はワインスタインから無理やりオーラルセックスをされることになったという。原告女性は後日、再びワインスタインに呼び出され、今度はエージェントを連れて行ったものの、ふたりきりの状況になるはめになり、またもや首をなめられるなどしたとのことだ。この事件の後、映画で彼女の出演シーンが増やされたが、現場でほかの人たちが「彼女は寝たから出番が増えたんだろう」と思われているのが感じられ、辛かったと述べている。原告女性は、400万ドル(約4億4400万円)の損害賠償を求めている。

 さらに、今月半ばには、ワインスタイン本人とTWCに対する集団訴訟も起こった。米連邦裁判所で起こされたこの訴訟は、500万ドル以上の損害賠償を求めるもので、大勢の被害者を代表して訴訟を起こしたのは、匿名の女性。この原告女性は、自分が被害に遭った時期を特定していないが、場所はミラマックスのオフィスが入っていたビルだったとしている。

ワインスタインもTWCを訴訟した

 訴訟しているのは、被害を受けた女性だけではない。一連のセクハラ問題で経営が危機に陥ったのを受け、TWCにお金を貸した会社も、ワインスタインとTWCを訴えているのだ。

 昨年、TWCに融資をしたAIインターナショナル・ホールディングスは、セクハラ暴露でワインスタインが会社を追放されたことが、契約書にある、会社の状態が悪い方向に変化した場合についての条項に触れるとして、4,500万ドルを即座に払い戻すよう求めている。実際に融資した額は4,350万ドルで、手数料、利子などを含めた金額ということだ。

 TWCはまた、最も意外な人物からも訴訟されている。なんと、ワインスタイン本人だ。

 ワインスタインが求めているのは、メールを含む、自分がTWCに在籍した時のすべての記録。ワインスタインの会社のメールアカウントは、追放された時にブロックされており、本人もアクセスできなくなっている。ワインスタインの言い分は、今後、会社に対する訴訟が起きた時に、自分のほうが、それらの記録をより有効な形で弁護に使えるというものだ。彼は、これは会社のためでもあるとしているが、同時に、この訴訟の弁護士代をTWCが払うことも要求している。

 TWCは、裁判所に対し、この訴訟を却下するよう願い出ている。たしかに、もっと深刻な訴訟が次々起きている中、こんなものにつきあっている暇はないだろう。だが、一方で、これはなんとも興味深い訴訟でもある。万が一、映画を作れる日が来るようなことがあった時のために、TWCは、常に優秀な脚本家を常にはべらせて、裁判ものについて、これを含めたおもしろいネタとそのなりゆきを、たっぷり書きためさせおくといいのではないか。いや、今の彼らには、そんなお金も余裕もないか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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