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「セックス・アンド・ザ・シティ3」が取りやめに。そういえば1作目の時も…

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「セックス・アンド・ザ・シティ3」のキャンセルを悲しむサラ・ジェシカ・パーカー(写真:Shutterstock/アフロ)

 コスモポリタンで祝杯は、残念ながらお預け。映画「セックス・アンド・ザ・シティ」3作目の製作が、取りやめになったのだ。

 現地時間昨夜28日(木)、夫マシュー・ブロデリックと共にニューヨーク・シティ・バレエのイベントに出席したサラ・ジェシカ・パーカーが、芸能番組「Extra」に対し、「あれは、もう終わり。やらないわ。がっかりよ。すごく素敵で、ファニーで、感動をくれて、共感できる脚本だったのに」と打ち明けてわかったもの。 まもなく撮影が始まるという段階だっただけに、衝撃は大きい。

「Daily Mail」が伝えるところによると、原因はキム・キャトラルにあるようだ。主要キャスト4人は、基本の出演料として同じ金額を提示され、キャトラル以外の3人は契約書にサインをしていたのだが、キャトラルは、出演する条件として、自分が作ろうとしている別の映画をワーナー・ブラザースが製作してくれるよう要求したのだという。ワーナーは拒否し、4人揃わないのであれば3作目を作る意味はないと判断したとのことだ。この報道を見たキャトラルは、「私が主張したのは、3作目には出たくないということだけ。それも、2016年のことよ」とツイートで反撃している。

映画1作目も似たような試練をくぐり抜けた

 HBOのテレビ版「SEX AND THE CITY」(1998-2004)をずっとリアルタイムで見てきた長年のファンの筆者は、このニュースを聞いて、「残念」と同時に、「やっぱり」「またか」と感じた。主演で、途中からはプロデューサーの肩書きももらったパーカーと、タイトルにふさわしい過激なセックスシーンを誰よりも大胆にやるキャトラルとの間に衝突があることは、番組放映中からちらほらと聞かれてきたこと。最終シーズンでパーカーのギャラが大幅にアップした時には、さらに悪化したと言われている。

 もともとは番組終了後すぐに作られるはずだった映画版でも、キャトラルはパーカーと同じギャラと、脚本の承認権を要求した。それらの交渉や、脚本の執筆作業に時間がかかるうちに、キャトラルは「Ice Princess(日本未公開)」の撮影を入れてしまい、プロジェクトはお流れになる。当時、キャトラルのパブリシストは、「6年間、『SEX AND THE CITY』のサマンサを演じさせてもらえたことを、キムはとても幸運に感じています。映画もぜひやりたいと思い、待っていましたが、脚本もできず、撮影開始日も決まらないままの中、別のオファーを受けるべきだとの判断に至りました」と、声明を発表している。

 だが、番組のプロデューサーで、映画版を監督するマイケル・パトリック・キングはあきらめず、3年後の2008年、新たな脚本で、ついに映画を実現させてみせた。筆者はニューヨークの現場を取材しているのだが、撮影の合間にインタビューに応じてくれたパーカーが、「この映画を実現させるためには、たくさんの条件を満たさないといけなかった。パズルのようだったわ。でも、現場で、また同じ家具に囲まれた彼女の部屋に入った時、まるでそれまで時間が止まっていたように感じたの」と、目を潤ませていたのを覚えている。

 キャリーを愛していたのは、演じる本人だけではなかった。その証拠に、映画は全世界で4億1,500万ドルという、ロマンチックコメディにおいては驚異的な数字を達成する。勢いのあるうちにと、映画2作目は、2年後の公開に向けてすぐ動き出した。しかし、公開の2ヶ月前、ラスベガスのショー・ウエスト(現在はシネマコンと呼ばれる、興行主のコンベンション)で、この4人が表彰される席に、キャトラルだけ欠席。同日に行われた記者会見にも、本当は出たくないのか、3人は大幅に遅れて現れ、来たかと思うと、異常なほど仲の良さを見せつけようとした。その様子に、筆者も、ほかのジャーナリスト仲間も、不自然さを感じたものである。

「セックス・アンド・ザ・シティ2」には1作目の5割増しの予算がかけられたが、世界興行成績は2億8,800万ドルで、1作目を下回った。それでも十分ヒットとは言えるのだが、批評家に叩かれ、ファンの満足度も低かったことから、3作目の話はしばらく消えることになる。

4人全員にとって、生涯、恩に着る役

 ハリウッドスターは、往々にして、ひとつの役柄のイメージにとらわれるのを嫌がるもの。パーカーも、インタビューでしばしば「私はほかにもいろんな違う役をやってきた」「私はキャリーではない」などと強調してきている。

 しかし、彼女らにとって、いや、それを言うならばほかのレギュラー出演者たちにとっても、この番組に出してもらえたのは、まさに宝くじに当たったようなものなのだ。アメリカでは、組合の規定で、俳優は、自分が出たものが再放送されたり、DVDが売れたりするたびにレジデュアルと呼ばれる再使用料をもらえる。 テレビ版「SEX AND THE CITY」は94話もあり、放映終了から13年たつ今も、アメリカでは常にどこかで再放送されているし、飛行機でやっていたりもする。あれ以後、全然ぱっとしなくなった人たちにも、お金は継続的に入ってきているのだ。

 それ以外の恩恵も大きい。サマンサ役でセックスのエキスパートのイメージを得たキャトラルは、それを利用し、「Satisfaction: The Art of the Female Orgasm」と「Kim Cattrall Sexual Intelligence」を出版した。「キャリーと私は違う」というパーカーも、ブランドと提携して自分の靴のコレクションを発表している。シンシア・ニクソンは、もともと俳優仲間うちで演技力に定評がある人で(今年もまたトニー賞を取っている)、ミランダ役にしがみつく必要はないが、政界に進出するのではとの噂が本当ならば、知名度が高いにこしたことはない。

 そうやって、思い入れも大きく、思い出も多い作品だからこそ、彼女らは、忘れることができないのである。ファンにしても、「あの歳でロマコメはないんじゃないか」「あそこからどこに話を持っていくのか」と不安や懐疑心があっても、あの4人の今について、想像をめぐらせるのをやめられないのだ。昨夜の「Extra」のインタビューで、パーカーも「このストーリーを体験できて悲しい。次を望んでくれていた観客にしたら、もっとそうよね」と語っているとおり、今、世界中で、実に多くの人ががっかりしていることだろう。

 だからこそ、これが映画1作目のデジャヴであることを思い出すべきなのである。あの時だって、遅れはしたが、結局、実現したのだ。キャトラルも、もう61歳。脱ぐなら最後のチャンスではないか。そんな希望に胸をふくらませつつ、またDVDボックスセットを見直すことにしよう。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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