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ますます盛り上がるドウェイン・ジョンソン大統領説。選挙スローガンもすでに決まった?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「最も稼ぐ俳優」「最もセクシーな男」の次は、アメリカ大統領?(写真:Shutterstock/アフロ)

ドウェイン・ジョンソンは、やはり本気なのか。

米「GQ」誌で米大統領選に立候補する可能性について語り、話題を集めた彼は、先週も2度、テレビでこのことについて発言。「GQ」でも、それらのTVインタビューでも、大統領になった場合の姿勢について 「More Poise, Less Noise (騒がずに、冷静に)」と述べており、「これが選挙スローガンなのか?」とすらささやかれている。

出演した番組のひとつめは、深夜のトークショー「Tonight Show」。ホストのジミー・ファロンがこの話題を持ち出すと、ジョンソンは、「GQ」発売後に行われた調査で、今選挙を行ったらより多くの人がトランプではなくジョンソンに投票するという結果が出たと得意げに語り、「すごく光栄だよ」と微笑んだ。さらに、「長年の間に、僕は、人々に共感を持ってもらえる人物になってきたんだと思う。僕は毎朝ものすごく早い時間に起き、仕事をして、軍人さんたちに感謝の気持ちを伝える訪問をし、家族とも時間を過ごす。そういうところに、人は自分を重ねてくれるのではないかな」とも述べている。

そこでは最終的に「でも、3年半先のことだし、わからないね」と、ぼやかして終わったが、昨夜ゲスト出演をした「Saturday Night Live(SNL)」では、またもや「僕が大統領候補になるべきとみんなが言ってくれるのはとても光栄」とした上で、「ここでついに言おう。僕はやるよ」と発言したのだ。その後には、「もう副大統領候補も決めている」と、トム・ハンクスを紹介している。

サプライズで舞台に上がったハンクスが、「僕らふたりが組めば、100%票が取れるよね。僕は10個くらいの映画で第二次大戦を戦ったから、高齢者の票が集まる」と言うと、ジョンソンは「そして僕はマイノリティの票が取れる」と言い、会場を沸かせた。締めくくりには 「冗談でした」と言ったものの、ジョンソンは「政治に大事なのはMore Poise, Less Noise(騒がず、冷静に)。アメリカ人は、この国と国民のことを本気で考える、強いリーダーを必要としている」と、またもやスローガンを口にしている。みんなを混乱させて楽しんでいるのか、実は結構本気で考えているのか、なんとも微妙なところだ。

「SNL」に出演したジョンソンとハンクス
「SNL」に出演したジョンソンとハンクス

トランプもジョンソンも、政治の素人。トランプはリアリティ番組、ジョンソンはプロレスを経て映画で人気になった。しかし、トランプがもともと恵まれているのに対し、ジョンソンは貧乏育ち。フットボールの奨学金で大学に行って、挫折も経験したが、今や「Forbes」誌からは「世界で最も稼ぐ俳優」、「People」誌からは「生存する最もセクシーな男性」に命名されるまでになった人である(“世界で最も稼ぐ俳優”はドウェイン・ジョンソン。“文無し”からここまでの道のり)。ファンに対しても、ジャーナリストに対しても、常にフレンドリーで優しく、 必ず時間通りに現場に現れてはまじめに仕事をこなすと、撮影クルーの評判もすこぶる良い。セクハラや差別発言が取りざたされたのにトランプが当選したことを考えると(トランプだけじゃない。「仕事が欲しいなら俺と寝ろ」が起こり続けてきたハリウッドの病んだ実情)、悪いスキャンダルと無縁のジョンソンにも、可能性はなくはないだろう。フットボールをやってきたチームプレイヤーなので、いざトップに着いたら、脇を優良選手で固め、トランプのような独走は、おそらくしないと思われる。

ただし、ジョンソンは、民主党、共和党のどちらにも属していない。昨年の選挙では、ヒラリー陣営からもトランプ陣営からも支持をお願いされたが、どちらも拒否した。200人以上のハリウッドセレブがヒラリー支持を表明したのに(“ハリウッドのATM”に支えられてきたヒラリー・クリントン。オールスター選挙運動はヒットに終わるか?)、それに流されなかったということだ。このことについて、ジョンソンは「GQ」で、自分の意見の影響力を知っているからこそ慎重になったのだと説明している。余談だが、「SNL」に“副大統領候補”としてハンクスが出てきたのは、偶然ではない。最近、メディアは、次の選挙で民主党から出るべき候補者として、オプラ・ウィンフリー、ディズニーのトップであるボブ・アイガーなどと並んで、ハンクスの名前を挙げているのである。ハンクスも、もちろんそれを知っているから、おもしろがって出演を受けたのだろう。

売れっ子のジョンソンは、この後、「ワイルド・スピード」シリーズの9作目と10作目がある上、ジェイソン・ステイサムとのスピンオフ、「カリフォルニア・ダウン」「センター・オブ・ジ・アース2 神秘の島」続編の企画もある。今週末北米公開の「Baywatch」や今年末北米公開される「Jumanji: Welcome to the Jungle」も、ヒットしたらまた次が作られるかもしれない。HBOのテレビドラマ「Ballers」も、3シーズン目の製作が発表された。そんな中で本当に選挙運動が可能なのかという、素朴な疑問もある。

夢を売るのはハリウッドスターの仕事で、ジョンソンは、単にそれをやっているだけなのかもしれない。少なくとも、これが、巡らせるのに楽しい想像なのは確かだ。それでも、3年半後、情けない候補者がふたり揃ってしまって、「本当にロック様が出てくれたらよかったのに!」と、アメリカ中が泣いているという状況も、想像できなくもない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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